ひととび 〜人と美の表現活動研究室

観ることの記録。作品が社会に与える影響、観ることが個人の人生に与える影響について考えています。

タイトルクレジットが出るまでの夢の時間

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23歳〜24歳の頃、映写技師をしていた。封切り(初日)の初回の上映のドキドキを思い出した。当時はまだデジタルは主流じゃなくて、フィルムで上映していた。配給会社から送られてくる5巻か6巻の35mmフィルムを専用の機械でつないでから、映写機にかける。

映写はちゃんとできて当たり前だから、事故なんてあってはいけない。事故っていうのは、フィルムが切れたり、音が出なかったり、ピントが合ってなかったりすること。
お客さんの入りに関わらず、できてて当たり前なんだけど、それでも人気作品のときは、映写室から満席の場内を見て、その責任の重さに緊張が走ったものだった。

 

画面のサイズによってピントを合わせるときのポイントも違う。ヨーロピアンビスタかシネマスコープか。字幕の出る位置が横か下かによっても違う。画に合わせすぎると字幕がボケるし、字幕に合わせすぎても画がボケる。タイトルクレジットが出るまでの数秒から数十秒の間に決めなくてはいけない。

 

最初は先輩について見よう見まねで。そのうち初日の初回を任されるようになったのが嬉しかった。重いリールを運んで筋肉もついた。映写を希望したのは、別に「ニューシネマパラダイス」に憧れていたわけじゃなくて、成り行きで。それでもまるで自分がお客さんに夢を見せているようで、興奮する瞬間があった。

 

15年も前の話。今でも映画館で観る映画の、タイトルクレジットが出るまでの数十秒は、わたしにとって特別なひととき。