なぜ逆らえないの?
なぜ友だちにも本当のことを話せないの?
なぜあんな人と夫婦でいるの?逃げればいいのに?
そういう当たり前のことができなくなるのは、本人が弱いからではない。DVあるいはモラハラという暴力によるものだ。優しさや自信のなさにつけ込み、脅迫し、嘲笑し、愛する人や社会から孤立させ、尊厳を奪い踏みにじることで支配する。
もちろん本人の資質である優しさや自信のなさは、それ自体になんの落ち度もない。
主人公を精神的にじわじわと、巧妙に追い詰めゆくシーンには鳥肌が立つ。加害側てある夫の強い劣等感、強い支配欲から暴力という手段をとっていく様子が非常にわかりやすく描かれている。
にもかかわらず、
「セールス上手な夫がいなければ彼女の作品が世に出ることは無かったので、その点は夫を褒めるべき。ただの夫婦喧嘩の映画です」
とか、
「実話らしいけど、こんな男の人本当にいるんですか?」
とか、果ては
「男を手玉にとって才能を開花させ、贅沢をさせてもらっておいて、文句を言う女がむかつく」
というレビューすらあり、憤死しそう……。
いろいろ言いたいけど…、
広いこの世で、本当に、たったひとりのその男からしか彼女は恵みを感じることはできなかったか?
彼女には彼と共にいるしか選択はなかったのか?
暴力を受け傷つきながらも、名声を得ることはありがたいことか?
わたしはNOだと思う。
結果オーライという言葉もこの物語については使いたくない。
恋人間、夫婦間のDV・モラハラという犯罪は、現代社会で、現在進行形で、隣家で起こっているのに見過ごされている。この社会に、暴力を助長する土台が厳然としてあることも浮き彫りになる。
観る人の内面が知れる、踏み絵になる恐ろしい映画だと思う。