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ヒトトビ〜人と美の表現活動研究室

他者の表現にふれることから、自分の中にある美の感覚にもふれてみる、自分の美を表現してみる。みんなで探究する場づくりを通して考えることなど。

問題の本質は、長時間労働ではなく、暴力


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亡くなられた高橋まつりさんに、心からご冥福をお祈りします。

 

ここから先は、現時点での、わたしの憶測が多分に混じった考えです。

 

この苦しみから物理的に逃れる。それは絶え間ない、精神的、身体的暴力を受け続けた末に、彼女がとることができた唯一の退避の手段だったのではないかと思います。なんという残酷な人生の終わり方なのか。ほんとうに悲しく、辛いとしか表現のしようがありません。

 

これは明確な加害者の存在する「暴力事件」ではないのか。類似の事件が起こる度に思います。なぜこれを暴力と表現しないのか。なぜ関わった者を特定して加害者と呼ばないのか、亡くなった方を被害者と呼ばないのか。

 

「なぜ逃げなかったのか?」「もっと早く辞めればよかったのでは?」という素朴な疑問は、DV被害の実態がまだまだ世の中に知られていない証拠だと思います。職場のような、毎日顔を合わせ、一日の時間のほとんどを過ごす場での、つながりの強い人間とのあいだで起こるものもDVと名付けることができるならば、今回の件もそれにあたるのではないかと推測しています。なぜ逃げなかったのかと問う前に、彼女のような優秀な人でさえも、逃れられない暴力の恐ろしさがあるということを意味している、とわたしには取れるのです。いつの間にか絡めとられているという恐ろしさが。

 

残業や休日出勤を命じて身体の自由を奪い、否定や無視や罵詈雑言や嘲笑による恥辱と恐怖で精神を支配し、外部との交信を絶つ(そんな余裕も気力も与えないという方法で)ように仕向けられれば、どんなに精神が屈強な人間も簡単に正常な判断ができなくなってしまうでしょう。

 

耐える、しのぐ、回避するということが最優先課題になってしまうと、目の前の安全確保に精一杯になり、自分がほんとうに感じていることがわからなくなってしまう。彼女なりに努力もしたはずです。しかしもし一度でも暴力の報復を受けてしまうと、そのダメージに恐れを抱き、二度目を企てられない可能性も高いと思われます。あるいは、訴訟も考えていたというツイートも残っているのだから、そんな中にあって証拠を集め、世に問おうとしていたのかもしれません。

 

学校でのいじめを苦にした自殺と全く同じ構造なのに、大人であるとか、働くという要素が入っているだけで、なぜ報道が突然、「長時間労働による過労、ストレスによるうつ病」と「長時間労働を指示した労務管理の不行き届き」のほうへ大幅に引っ張られるのか。これらの職場での暴力の問題を労働時間のほうへ転回せざるを得ない理由は、恐らく現在の日本において、職場におけるいじめ、ハラスメントなどの暴力を取り締まり、罰し、企業の責任を問う法律がないからではないでしょうか。

 

知人からカナダの現状を教えてもらいました。職場での「いじめ」と「ハラスメント」

 

問題の本質は、長時間労働そのものではなく、それを手段としてふるわれた暴力のほうではないか。

 

日本においては、「なにが暴力にあたり、企業がどんな責任を負うのか」も明確でない上に、強固な自己責任論が、暴力の被害者であるにもかかわらず、個人の性格や資質や容姿にまで責任をかぶせていくように日頃の報道の中でも散見されます。うつ病を発症したのは生真面目な性格(仮にそうだったとしても)に問題があるからではなく、先に暴力があったからです。彼女の残されたTwitterをたどっていけば明らかです。

 

そういう企業の体質だ、そういう業界だ、という声もある。けれど、それを容認していては何も解決していかない。直接的に間接的に手を下していた具体的な加害者がいる「犯行」があり、その者たちが組織の傘をかぶって、守られ逃れられているという現状を報道すべきです。

 

加えて、この企業にとって二度目の事件です。過去の企業自身のDV加害者としての責任は果たされたものとみなされ、「加害者の更生プロセス」の重要性を誰も注視していなかったということなのではないでしょうか。本来は誰に監視の責任があったのでしょうか。

 

わたしはこの事件が「働きすぎ日本企業の病」や「失敗を恐れる若者たちと失敗を容認できない社会」などに問題がすり替えられたり、吸収されることもまた恐ろしいと思っています。

 

もしも今、時間が戻って、彼女のツイートをリアルタイムで見かけて、何か言えるとすれば、どんな言葉がかけられるでしょうか。

 

「あなたが受けているのは暴力です。だから一秒でも早く逃げて。安全な場所へ避難して。あなたを心から愛している人を頼って。うまく説明できなくていい。説明はあとでいい。ただ逃げて。あなたは力の限りを尽くした。なんの落ち度もない。間違ってもいない。まずはそこから物理的に離れよう」

 

。。。

 

 

本件に関しては怒りしかありません。