ひととび 〜人と美の表現活動研究室

観ることの記録。作品が社会に与える影響、観ることが個人の人生に与える影響について考えています。

わたしはこれで生きます

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11月上旬の話。忘れないように書く。

 

下旬に出場する初めて競技かるたの大会のために、知人にお願いして稽古をつけてもらった。彼女はC級ホルダー。我々はとにかく正式な試合をしたことがないので、持ち物、服装、受付の仕方から、競技中の作法、ルール、戦術、構え方、取り方、マインドセットまで、とにかく試合における全部を逐一質問していき、お答えいただいた。かるた会に行っても、つきっきりで教えてもらえることはなかなかないので、こういう機会は本当にラッキーなのだ。

 

ちなみに多くのかるた会には、かるた教室という雰囲気はあまりない。全員が競技者で、会は基本的には練習する場なので。昨今のかるた人気で、入会するのに条件を課すかるた会が多いと聞く。100枚すべて暗記しているのとはもちろん、決まり字の暗記と札流しが2分以内にできるなど。なかなか初心者や初級者にはハードルが高い。札流しとは決まり字に慣れるための練習法で、100枚の札を上から決まり字を順に言いながら取っていく。C級の彼女はこれを45秒でできると言っていた。わたしはここに書くのが恥ずかしいぐらい遅い……。

 

いろいろ教わった中で、特に印象的だったのが、札を並べ直すときのこと。払ったり払われたりして位置がズレてバラバラになった札を並べ直したときに、対戦相手から「元の位置と違う」と言われることがある。そのときに、自分でもそうだったと思えば指摘通りに並べ直したらいいけれど、自分はそうは思わないとか、わからなくなったりしたら、「これでいきます!」と宣言してその新しい並びで進めちゃっていいのだそう。

 

それを聞いて、ああ、と思ったのは、「前はこうだったじゃないか」とか、「あのときはああだったくせに」とか、たとえ言われたとしても、「新しい自分でやっていく!」と自分が決めたらそれで進めたらいいんだ、という人生における覚悟と宣言のことだった。

 

わたしはこれでいきます。と宣言する。

わかりました。と相手も承認する。

そういうやり取りは、なんというかとても清々しい。

 

この知人は大人になってからかるたをはじめた人で、漫画「ちはやふる」を読んでハマって、最初は小学生のお子さんにやらせようと付き添いでかるた会に行ったら自分の方が抜けられなくなってしまったんだそう。お会いして話すと、競技かるたが大好きで大好きでたまらないという気持ちが伝わってきて、こちらまでうれしくなる。

 

試合の前日にも「勝ち負けよりも、試合の雰囲気を知り、札と音と、何より自分と向き合う時間を大切にしてください」というメッセージをくださり、大いに励まされた。

 

たった4人のために、「競技かるたをもっと好きになってほしいから」と、労を惜しまず稽古をつけに駆けつけてくださって、本当にありがたかった。謝礼も、会にカンパしますと受け取られなかった。本当にカッコいいのだ…。

 

おかげで我々は試合では自信をもって臨めたし、一人ひとりとしても、チームとしても、とてもよい試合ができた。