ひととび 〜人と美の表現活動研究室

観ることの記録。作品が社会に与える影響、観ることが個人の人生に与える影響について考えています。

ひらきました!映画deダイアログ「ニュー・シネマ・パラダイス」

 

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この時間が特別すぎて全く書く気になれなかったのですが、きょうで2月も終わるのでなんとか書いておこうと思います。

2月1日木曜日の夜、高橋ライチさんと映画deダイアログ「ニュー・シネマ・パラダイス」をひらきました。(ブログだけ追っていると最近ライチさんとばかりつるんでいるみたいに見えておもしろい...)

 

こんなお知らせをしました>

peatix.com

 

なんの話の流れでそうなったか、ライチさんが「ニュー・シネマ・パラダイス」を観たことがない、DVDを借りてきたら寝てしまって、でもこの映画に思い入れのある人が多いからずっと気になっていて...と言ったことがあって、わたしは思わず、「絶対観た方がいいですよ!あーだこーだ話す時間が確保されていたらちゃんと観られるかも!」と熱くなって、そこからとんとんと、ライチさんが以前からひらいていた「映画deダイアログ」の名前で一緒にやることになりました。

映画deダイアログは、映画で観たときの個人的なココロの動きを対話の中で深めていく会です。映画によって違う人生の一部を生きるように、語る他者の人生にも少しだけご一緒させていただく...。そんな営みです。

「映画によって違う人生の一部を生きるように」というところが特に好きです。

わたしも別の友人と"Film Picnic"という、おやつとコーヒーを楽しみながら、ひとつの映像作品から感じたことを、おしゃべりしながら交換しあう場をひらいており、以前からお互いの場に参加しあっていたので、今回もどんな場にしたいか、大事なところはもう抑えられている感じがありました。いつもはやらないようなことをやってみれる余裕がもてたのは、とてもありがたかったです。

 

たとえばこんなしおりを手書きしてみたり。告知ページ用の絵を描いてみたり。小・中学生の頃に漫画を描いていた頃に戻ったみたいで、ほんとうに楽しかったです!

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会場はわたしの好きなまちのカフェがよいと提案し、根津のコーツトカフェの定休日の夜を貸切させていただきました。大切な映画なだけに、映画の話をする場所もまた特別であってほしい。
その場所を愛している人が、映画を通じてその場所をより愛するようになったり、その場所を知らなかった人が、この映画を機に足を運んでみてその素敵さを喜んでもらえるようなことが起こったらいいなと思ったのです。

 

わたしにとっての特別さというのは、高校生のときに観て、イタリア語を学ぼうと決めたり、はじめての就職先を映画館に決めたりということに大きく関係しているので、これはもう人生を変えたと言ってもいい映画。

 

とはいいつつも、この会を催すまでは、自分の中では単に「心に残った映画」ぐらいの位置付けだったのです。それが、自宅で確認のためと気軽に観はじめたら、なんと冒頭のタイトル音楽からもう涙があふれて止まりませんでした。懐かしく愛おしいシーンの数々。

言語、言葉、音、音楽、映像、色......に記憶がつぎつぎと呼び覚まされました。

今と過去とが突然につながり、懐かしい顔が浮かんでは消え、たくさんの思い出が走馬灯のように駆け巡り、感情の断片が花びらのように舞いました。時と場所と人とあっという間に超えてしまった。これは当日は大変なことになりそうだと、おののくほど。

 

さて当日。

お店では店長の椿さんが、こんなお手製のドリンクチケットを用意してくださり、わたしの手書きのしおりとカウンターに並べると、まるで劇場のもぎりのようでした。

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店内のテーブルや椅子も、この日のこの時間のために特別なセッティングに。

ここはどこかしら?と思わずため息がもれるほど素敵な雰囲気でした。

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12人ほどの方がダイアログに来てくださって、ライチさんがメインファシリ、わたしがコ・ファシリになり、映画の感想を一人ずつ一巡したあと、話したいことのある方のお話からはじめて、自由な感想をつなげていく流れにしました。

 

この会をきっかけに初めて観たという人から、ずいぶん前に観て思い出深いという人まで映画との付き合いは様々。一人ひとりの感想が、あたたかく大切なものとして全体に受け取られていく静かな様はとても美しいものでした。

あらためて観終わってのわたしの感想は、「ここまで自分の人生と一体になっているものについては、映画としての良し悪しの判断はとてもじゃないけどできないんだなぁ」ということでした。そこにさらに皆さんの感想を聞いたりやり取りをしているうちに、自分にとってこれが本当に大事な映画だったということがぐいぐいと解ってきて、その時間は足元がおぼつかないような、逆に自分の身体がとても頼り甲斐のあるような、不思議な感覚の中にいました。

 

参加された方に教えてもらったのですが、監督のジュゼッペ・トルナトーレがこの映画を撮ったのが30歳の頃だったとのこと。これはとても驚きました。公開時が32歳だから、撮影と企画段階から含めると20代の頃からこの映画には携わっていたはず。年齢と能力は関係ないのですが、いつの間にか自分が彼がこの映画を撮った年齢を追い越してしまっていたということや、30歳にしてこの人生に起こる様々なことをよくここまで描ききったということに驚かずにいられませんでした。

そしてまた、育ったシチリアの原風景とそこに彼が見出してた普遍的な何かをなんとかして映画という形式で描いて残したかったんだろうなぁ、ということにも思い至りました。わたし自身が、この歳になっていろんな経験を重ねてきたからこそ見えることなんだなぁと。少なくとも今のわたしは男の子のお母さんになっているので、庇護される子どもとして高校生の頃に観ていた視点とは全然違っているのです。

なんとまぁ......!人生というのは本当に不思議なものです。

 

ダイアログの時間は実質45分しかなかったのですが、わたしも皆さんもとても満たされている感覚があって、これは新鮮な驚きでした。「やっぱりシェアの時間は60分〜90分はないと!」と決め込んでいた尺度が、実は全然根拠のないものとして一旦破壊されたことは、わたしにとって大変よかったです。そこにはいろんな要素があったとは思いますが、単純に長さだけで測れないことが場にはあるのでした。

 

会が終わると外は雪が降っていました。お店の明かりに照らされてしんしんと降っている雪を見ていると、まるでその夜に起こったことが夢だったような気持ちになりました。

 

心の中にある懐かしいあの映画この映画、今のわたしならどんな感想が出てくるんだろう?

ずっと大切なままに心にしまっておいてもいいけれど、こうして歳を重ねてあらためて出会いなおすのも素敵なことだなと思った夜でした。

 

参加者の皆さん、ライチさん、コーツトカフェの椿さん、忘れがたい時間を共にしてくださって、ありがとうございました!

 

ライチさんのレポートもぜひ!>

ameblo.jp

 

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ライチさんが書いてくれたチラシ。今回は手書きがぴったりだった。

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