ひととび 〜人と美の表現活動研究室

観ることの記録。作品が社会に与える影響、観ることが個人の人生に与える影響について考えています。

プーシキン美術館展がよかった話

今年は時間の使い方をいろいろ試していて、展覧会や映画など、わりと厳選して観るようになっています。

 

そんな中でルドン展、ミロコマチコ展、そして先日行ったプーシキン美術館展はどれもわたしとしては大当たりでした。しかも全部ご招待で入れたところがうれしい。


f:id:hitotobi:20180518171920j:image

pushkin2018.jp

 

特設ウェブサイトはカッコいいんだけど、ちょっと入りにくい感じがして、少しさわってみたのだけど、どんな展覧会なのかわからないまま閉じてしまいました。風景画もあまり興味のあるカテゴリーではないし...と思い、招待券をもらっていなければスルーしているところでした。でもポスター大のチラシはとてもインパクトがあったので、2月にひらいたコラージュの会で、これを台紙にしていました。部屋に貼っていつも眺めていたモネの絵。これだけでも観に(会いに)行く意味が自分にとってはあるなと思ってはいました。

 

今年の初夏は片付けに取り組んでいたのですが、片付けをがんばった日のご褒美として、目標にしているところまでできたらプーシキン美術館展に行こうと決めて、予定通り達成したので、16時前でしたがすべりこんできました。

 

 

5月上旬の新緑まぶしい季節に当ててきたんでしょう?と言いたくなるような、外の世界(上野公園) から美術館の風景画の世界へ、そしてまた外へ出て…絵の世界が続いている!

 

世界は美しいなぁ......

 

というのがまず感想でした。


f:id:hitotobi:20180518172323j:image

 

同じく東京都美術館で開催されたボストン美術館展のときも思ったけど、実業家の皆さんの「愛する祖国に芸術を」のエネルギーがすごい。どうしてロシアの美術館でこんなにフランスの絵画を?という疑問にもちろん展覧会は答えてくれていました。

 

また、この展覧会でのわたしにとっての最大の収穫は、「風景画をどう楽しめばいいかがわかった」ということでした。17世紀から19世紀へ、聖書や神話の中の理想としての自然や、単なる背景としての風景が時代を追って、人々の現実の営みに沿った主題に変化していく展示の流れや解説はとてもわかりやすかったです。

 

17世紀の「近代風景画の源流」の部屋は、とにかくみんな廃墟萌え!城の跡が舞台になっていたり、遠景になってたりと廃墟が欠かせない感じで。崇高や畏怖のモチーフとしての廃墟の扱い方は、昔も今も変わらないような気がします。

 

印象派の時代に発明され普及したスクリューキャップ付きのチューブの絵の具のことがオーディオガイドで出てきましたが、画家たちがまさにその風景を前に、直接キャンバスに絵の具をのせている興奮も伝わってくるということがあります。スケッチだけしてアトリエへ持ち帰って記憶の中のイメージを膨らませて描き込んでいた時代は、それはそれで美しいのですが、屋外で描けるようになってからの絵画はどうも興奮、情熱、生のエネルギーが断然 違うという気がしました。

 

19世紀半ばからガス灯が発明され、19世紀半ばには配電網が敷かれ、鉄道網も発達し、移動して余暇を過ごすという文化が生まれていく勢いも、展示を追っていくとつぶさに感じられます。

 

いつものように作品シートに模写メモをとりました。こうしておくとその絵に自分が観たものが思い出せる。メモは自分にだけわかればいいので、巧い必要はまったくないのがいいところ。最近はバインダーと8Bの鉛筆を持参するようにしています。

 

ボナールやドニ。去年の今頃に「オルセーのナビ派展がよかった話」というポッドキャストの番組を配信したので、ナビ派の人たちに会えるとうれしくなってしまう。
f:id:hitotobi:20180518172821j:image

 

 

このあたりの時代もよかった。
f:id:hitotobi:20180518172849j:image

 

 

今回一番好きだったのはこの絵かもしれない。冷蔵庫に貼っています。
f:id:hitotobi:20180518173033j:image

50才で宝くじが当たって絵に専念したという、アルマン・ギヨマンの作品もよかったし、友人マティスと訪れた港町を描いたフォービズムのアンドレ・ドランも服にして着てしまいたいぐらい好き。

 

ツイートを引用させていただいたこの絵は、モニターで見るとなんのことだかって感じなのですが、本物を見ると迫力です。

 

模写メモしていて思いましたが、風景画だけをこんなにまとめてじっくり観ることもあまりないし、全体で見てもこんなに好きな絵ばかりが並んでいる展覧会はもしかしたら大人になってはじめてかもしれません。そのうっとりした感じが、3週間ぐらい経ってもまだ消えないのは、今の季節が絵の中に描かれたように美しいからかな。

 

森を散歩するようで、とても気持ちよくて、絵を見るのっていいなとか、自然って美しいなとか、とにかくすごくいい気分になる展覧会です。

2018年7月8日(日)まで。

f:id:hitotobi:20180518171946j:image

 

音声ガイド。BGMもよかった。
f:id:hitotobi:20180521135621j:image