先日の「アイーダ」に続き、今季どうしても観たかった「サムソンとデリラ」にも行ってきました。
今季のMETライブビューイングのラインナップはなかなかよいです!
https://www.shochiku.co.jp/met/
はじめてご覧になる方は、「カルメン」や「椿姫」など有名な演目もあるので、ぜひ体験していただきたいなぁ。
METライブビューイングがおもしろい話についてはポッドキャストで話したこともあるので、ご興味あれば聴いてみてください〜 32:54からその話してます。
わたしはこのあとは「マーニー」を楽しみに。映画とオペラの融合?解説以外で出演しているレナードを観てみたいのと、なんといってもファッションに注目。15着もお色直しですってよ!幕間にインタビューがあったのですが、イメージボードが素敵だった。
同じくレナードが出る春の「カルメル修道女の対話」も期待してます。
先日ムンク展がよかった話で書きましたが、予習しているとたくさん受け取れるので、今回はいつもより気張って予習しました。
まずは聖書。去年勉強していたので、おびただしい付箋つき。
サムソンについて書かれたのは、旧約聖書の「士師記」の13-16節が該当します。そのまま読むと、誘惑する女&破滅する男...歌舞伎や文楽で言うところの「傾城」かな。洋の東西を問わず、やっぱりおもしろい(かった)のかな?
3回うまくいかず、4回目でバーン!とくる、この繰り返しは昔話の形式。読み聞かせをしたりするとここはけっこうおもしろいのかもと思ったりしました。
が、それ以上は思考も想像も進まず。なぜここをフィーチャーしたのか、オペラを観てみたらわかるかも。
次はYoutubeで「サムソンとデリラ」で検索してとにかく聴く聴く。音楽を入れておくと、その場面になったときの情景の立ち上がり方が全然違ってきます。
「バッカナール」はフィギュアスケートでよく聴く曲で、宿敵サムソンを捕らえたことに狂喜するペリシテ人の饗宴シーンでバレエダンサーが入ってくる場面。曲をよくよく聴いて、オペラ動画も観てみて、実際の演出はどんなだろうと楽しみになりました。
で、当日どうだったかというと、いろいろと、いろいろとありましたが、、、
まず衣装!!衣装が最高に美しい。METのコスチュームデザイン展とかあったら行きたいし、写真集があったらほしい。もう眼福とはこのことです。
あれもこれも着てみたい〜 描いてみたい〜 一日中眺めていたい〜 一瞬一瞬を音と共に目に焼き付けたい〜 とたいへんな騒ぎでした、わたしの中で。
それからなんといっても、もうこれさーR15じゃないのか?!というとっても官能的な舞台でありました。振り切れてて楽しかった。
ガランチャもアラーニャも、酸いも甘いも嚙み分けた大人の色気たっぷり。
オペラ歌手ってこういう表現をどうやってトレーニングしているんだろう?と知りたくなりました。相当いろんなことをしているはず。。
「バッカナーレ」の男性ダンサーの肉体美をフィーチャーしているところも、もうなんか...ひえー...ってなりながら凝視してました。ああいう酒池肉林かぁ。ううーん、美しかった。
にしてもいくら異教の神だからって、真っ二つはなかろうて...というダゴン大仏...。
いろいろと斜め上いっててよかったです。
去年「椿姫」を観る会をひらいてから、何人かMETライブビューイングの話をする仲間ができたので、観るとそこで感想を話せるのが楽しいのです。「こういう話ができる仲間がほしい!」と思っていたそのままの、いやそれ以上のつながりが自分に今あるのがうれしい。感謝。
直後のツイートメモ。
たぶん何百回観ても同じところで「サムソン、言っちゃだめー!!」ってなる自信ある。
— せいこ (@seikofunanok) November 20, 2018
こないだちはやふる祭りで結びを観てて、あほほど観て知ってんのにもかかわらず、「太一、運命戦でどっち送るの?どっち読まれるの?」てなってたやつ。名前ついてそうこの現象。#metlv
今回の演出や演者の解釈で観てみて、サムソンは妖女に溺れたというよりも、憎しみと恐怖に操られたデリラを救おうとしたんじゃないかと思える。二幕の歌詞やかけあいはすごくて、「おれの隠した心の秘密を言うことと、お前の幸福は関係ない」とか、一生懸命境界を引いてるんだよね。せつない。#metlv
— せいこ (@seikofunanok) November 20, 2018
歌詞も音楽も古典だから変わらないんだけど、別演出、別演者で見たらまた違う感じがするんだろう。観客の背景や内面、時代もあるよね。#metlv
— せいこ (@seikofunanok) November 20, 2018
「アイーダ」のときに、ガランチャが幕間にインタビューに出ていて話していたこと「役に新しい解釈を加えたい」や、今回もインタビューで「神や宗教、社会が違えば、もっと違う人生が二人にはあったかも。役にはより優しく豊かな人間性を与えたい。悪女は見飽きたでしょ(笑)」と話していて、そして実際に舞台の上で彼女の解釈を観せてくれて、ああ、好きだなぁと思った。そういう演者の姿勢が。
考えてみれば、演者や演奏者というのは、その作品の最高の研究者なのだよね。
すばらしいおしごとを観せていただいたように思う。
他にわいてきた感想をつらつらと箇条書く。
・「ろくでもないことをしてしまうけれど、だいじょうぶ。あなただけじゃない」と言ってくれている。
・MET歌劇場で生で観てみたかった
・オペラも能のように徹底的に主観的に観て、自分が救われるために使えばよい
・「恋をしましょう、姉妹たち。いつも恋を!恋をしましょう」のシーン美しかったぁ。
・アラーニャの"I love to sing!"とにこやかで真っ直ぐでよかった。正直さっていいな。
・「アイーダ」の幕間インタビューで、アラーニャが「目が塞がれているから石臼をどのぐらい回せばいいのかわかんなくて困った」みたいな話も頭に入れながらみているとたのしかった。シーズンを通してみているとこういうお楽しみにも会えるのか。
・ガランチャは去年「薔薇の騎士」で観て、若い男性の役だったから、ちょっとタカラヅカ的に観ていたんだけど、今回の成熟した大人の女性そのままでどきどきした。
・2幕の掛け合いはほんとうに辛いのだけれど、支配とか暴力の現場で起こっていることそのままという感じで、非常に現代的だと思った。試す、巧みに聞き出していくところがスリリングでもあり、目を覆いたくなるほど辛くもあり。
・デリラも操られている、たきつけられている、煽られている、怖れを注入されて、自分が「憎しみ」そのものになろうとする姿。
「わたしの心を痛めつけるのはやめてくれ」
「わなたは変わってしまった。変わらないのはわたしだけ」
「わたしを責めるのか。君のために心のすべてを話しているのに」
「心を偽っているから」
「君の幸福と心に秘めている秘密は関係ない」
「わたしを責めるの?」
・明るい曲調なのに歌の内容はえげつなく暗く、反対に暗い曲調なのに歌の内容は気味が悪いほど明るく、そのギャップに震えた。
・ガランチャのインタビューでなんの話だったか、オペラ?歌?芸術について?「ハチミツやオイルの代わり。川。この世界の一部になれる」
・自分の神のために正義を尽くすことは、相手の神を冒涜することにもなり得る。
・ライティングや衣装や大道具小道具に、赤と青のテーマがあったかな。
・最後の終わり方がオペラ版?この演出?ではよくわからないので、士師記やっぱり読んでいてよかった。
あとはこのレビューもよかったな!
カーテンコールでは自動的に涙が出てしまう。
役を全うしたあとの安堵や仲間とのつながり、観客の芸に対する惜しみない拍手、愛に包まれる時間。
今回もよき鑑賞体験を、生きる力と希望を、ありがとうございました!