ひととび 〜人と美の表現活動研究室

観ることの記録。作品が社会に与える影響、観ることが個人の人生に与える影響について考えています。

森絵都「みかづき」を読んだ

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みかづき森絵都集英社

 

長い知り合いが熱くおすすめしていて読んだ本。

長い知り合いっていうのもうまく言い得ていない気がするけど、8年前にお会いしたきりで、友だちというほどにはよく知らない方。しかし何年もSNS上でやり取りしてきて、お互いの核・本質のところを見せ合ったりしているものだから、単に知人と言ってしまう「よそよそしさ」もなんか違う...。ということで、「長い知り合い」。

 

 この文章にぐっときて、読んでみようと思った。

bookmeter.com

 

わたしが生まれ育ったのは関西なので、千葉あるいは首都圏の教育事情はよくわからない。地名も固有名詞もいまひとつピンとこない。

しかしそこにとらわれることはなかった。

この国の教育として、世代ごとの教育事情を時系列で追っていく物語の流れに飛び込めて、夢中でページを繰った。

 

そのとき、そのときで、親(保護者)も子も、そして教育現場も、翻弄され続けてきたんだなぁ…とまず思った。その時代の国の政治、経済、社会の情勢など、さまざまな要素が絡み合うの中での教育。「多数派」や「正しさ」に翻弄されながら、自分の信念を持ち、行動する登場人物たちのリアリティがすごい。

 

戦後から今までの日本の歴史を「塾」で串刺してみたからこそ見えた世界、という感じ。

 

この国で教育を受けてきたわたし。

「そうか、こういう文脈の中でのわたしの小学校時代、中学校時代、高校時代だったのか...」と、アカデミックな教育論やルポルタージュとも違う小説ならではのアプローチに、憑き物が落ちるような、晴れやかな気持ちになった。

 

わたしだけの憑き物というよりも、時代の傷を物語で癒しているふうにも感じられた。

 

「自分はこのような状況の中でどうしていこうか、この社会をどう泳いでいこうか、何を軸に決断していこうか、子に何を手渡してゆこうか」と問いを向けることが、ルポルタージュなど、ノンフィクションのものではよく感じるのだが、小説でそう思わされることは珍しい。

実在の人物だったら呑み込みづらいことも、架空の人物の人生を追い、感情を擬似体験できる物語だからこそ可能になる。

 

わたしが親となって子を育てる、今まさに教育を考えている最中だからとても響いた。

 

物語の力を再発見する体験でもあった。

読めてよかった。

 

 

直後のツイート。

 

 

 

 

この壮大な物語を、どのようにドラマ作品として成り立たせたか、工夫があったらしく、話を聞いているだけでおもしろそうであった。
本質の受け取り方のルートの違い。

再放送ないかなぁ。