ひととび 〜人と美の表現活動研究室

観ることの記録。作品が社会に与える影響、観ることが個人の人生に与える影響について考えています。

約束のロミオとジュリエット〜ロイヤルオペラハウスのライブビューイング

こちらのブログでは何度もご紹介している、おなじみ英国ロイヤル・オペラ・ハウス・シネマシーズン(長い...)。

ロイヤル・オペラ・ハウスの舞台が映画館で観られる、「ライブビューイング」と呼ばれている上映プログラムです。(日本は時差と字幕翻訳の関係で同時中継ではないので、正確には"ライブ"ではないのだけれど)

tohotowa.co.jp

 


このプログラムを使ってバレエの世界に橋をかけてくれた、バレエ好きの友人がいる。彼女が、「とにかく『ロミオとジュリエット』を観てほしいのよ!!!」と一年前から熱く語っていたので、今年の夏は「これを観ること=約束を果たす」ような気持ちでいた。

そこまでに素人でも楽しめるようにと、まずは「くるみ割り人形」、そして「白鳥の湖」と段階を追って紹介してくれた。

おまけで、コンテンポラリーの「Medusa Mixed」がある。(ちなみに、最前列で酔って一幕だけで退席した「ドン・キホーテ」もある。すごく残念。。)

 

観た回数で言うと、今年だけで5本目になるのか。

2019年は、バレエに親しんだ記念すべき年となった。うれしい。

 

 


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さて、恒例の、当日の感想をぱらぱら、どさどさ。

いろいろ内容に触れているので、未見の方は鑑賞後にぜひ。

 

・今回のプログラムは、世界126ヶ国、1,166館で上映されているとのこと。

・ロンドンのトラファルガー広場ではライブビューイングが行われているそう。ROHでも観てみたいけど、屋外で観るのも気持ちよさそう。どんな雰囲気なんだろう。

・26日間の公演の千秋楽と聞いてびっくりした。そんなに長い間公演期間があるのか!お能は基本的に1回きり。舞台芸術もいろいろだなと、唸らずにはいられない。

・マクミラン版が出たことはバレエにとって画期的なことだったのらしい。

・「ロミオとジュリエット」はよーくよく知っている物語だけれども、バレエで観るのははじめて。

・若い二人のカップルを、若い二人のダンサーが演じるというのが、とてもフレッシュでよかった。随所に若さが輝いている。

・上映の合間に挿入される解説やインタビューによって、関わる人たちがどれだけこの物語とステージを愛しているかが伝わってくる。まぁこれはどのライブビューイングを観ても思うのだけれど。清々しい。

・映画音楽の歴史について全然詳しくないけれども、プロコフィエフのこの作曲は、舞台芸術にはもちろん、映画音楽にも多大なる影響を与えたのではないか?という気がする。特に第二幕の冒頭の秘密の結婚式のシーンの曲は、とってもOST(Original Sound Track)。オペラでもバレエでも、音楽で物語を表現してきたことには変わらないのだけれど、より自然な感情の流れに沿った、動きと一体になった音楽である、という感じがする。

・「ロミオとジュリエットと言えば、初々しく情熱的な恋」なはずなのに、そういうところには全然心が動かなくて、わたしちょっと枯れすぎで大丈夫だろうか...と本気で心配になった。

ロミオとジュリエットは、家族や彼らを取り巻く「社会」から守られていたが、同時にスポイルされてもいた。しかし恋をきっかけに「NO」を言い、自分の人生を生きようと決意し、自分たちが起こしたことの責任を引き受けようとする。その短い期間の中で(舞台の上ではたった3時間程度の短い時間の中で)自立していく様子、それをバレエで表現していることに震えがきた。今回はそこに最も心うたれた。若さゆえか、なぜそうせっかちなのだ!と言いたくもなるけれど、この決断からの内面の変化はすごかった。

・第一幕は若い二人はぺらぺらして深みがない。ロミオは軽薄といってもいいぐらいだし、若さをほしいままにして、バカ騒ぎ。遊びで剣を抜いたりもして、ほぼチンピラ。無茶ばかりしている。(だからこそ次第に不穏になっていく展開の衝撃が強まる)

・西欧の剣はダイレクトに突き刺すものということがよくわかる。日本の刀での殺陣と全然違う。しかしこれが音楽にのって踊りとは思えないほど一体感のある殺陣になっていて、ここも鳥肌が立つ。(ものすごく練習なさったんだろうなー!)

・3人で踊るところは、ブロードウェイミュージカルへの流れも感じさせる。

・ジュリエットは、なんだかガチャガチャそわそわして落ち着かない少女。表情もあどけない。お人形をかわいがる幼さ。許嫁との関係も、お人形遊びの延長にある。(この感じ、源氏物語女三宮的な...)

・舞踏会のシーンでは、この時代、女性は丁重にエスコートされてはいるけれども、身分の自由はないのだよな。親から結婚相手も決められる。男たちからは恋愛の対象として扱いはしても、社会的地位は与えなかったのだよなぁ...。インタビュー中、「芸術作品に登場する最初のフェミニストだったんじゃないかしら?」というコメントがあったけれども、いやいやその前に源氏物語がありまっせ...なんならかぐや姫も...と心の中で思った。

・途中でアレッサンドラ・フェリがインタビューに登場する。ほんの数分のインタビューなのに、この存在感!!一流はそこにいるだけですごい。。

・第3幕は1秒も見逃せない。起きてしまった、起こしてしまった出来事に、それぞれに苦悩する二人。もう1幕のようにふざけてはいられないし、知らずには済まされない。「従順だった。よくわかっていなかった。でも今ならわかる」というセリフが聞こえてくるよう。

・家同士の引くに引けない対立が、想像もしていなかった悲劇を引き起こしていく。こういうことはまち同士、国同士、現代の世界にもあって、犠牲になるのはいつも前途有望な若者、立場の弱い女性や子どもである。その普遍も感じた。

 

 

 

わたしは今回これを観に行くにあたって、文楽の「曽根崎心中」を思い出した。

若い二人の死で終わるとわかっている美しい悲劇。
些細なことがきっかけとなって追い詰められていく。

今の時代から見れば、「えー、理不尽すぎる...だからってなんで死ななきゃいけないの?他に解決策があるんじゃないの?性急すぎない?」と言いたくなるような展開。

そして、クライマックスに向かっては、どちらの物語も、男性よりも女性のほうが先に覚悟を決めて、事態を動かしていっている。

夜暗い中で死に向かっていく二人(道行き)。

かき鳴らされる音楽に、狂気じみていく舞台。

特に「曽根崎心中」のほうは、徳兵衛がお初に手をかけようとするもなかなか覚悟が決まらないのを、お初自ら「早く刺せ」と促すあたりからが、鳥肌ものだ。

 

ロミオとジュリエット」は行き違いが元ではあるが、結果的にはタイミングのズレた心中のようなことになっている。

 

そういう物語とわかっていて、観に行く。

理不尽だ!!と叫びたくなるけれども、死の匂いが立ち込めてくると、ああ、やっぱりそこに行くんだよね...というモードになっていく。

 

洋の東西を問わず、みんなが観たい何かがそこにある。

ギリシャ悲劇の時代から連綿と続いてきて、現代に至るまで。

それはなんなんだろう?

 

悲劇を鑑賞することによって、思うようにならない人生、運命に抗えない孤独さを重ね、共に苦悩し、嘆き、魂を慰め、昇華させようとする作用があるということかな。

愚かで、醜くて、迂闊で、怠惰で、暴力的で、冷酷な人間の性質を、悲劇を通して味わう。悲しみに遭う立場への共感だけでなく、加害する側への共感もありそうだ。

実際今回の「ロミオとジュリエット」ではティボルトに思い入れてしまったし、「曽根崎心中」では、なぜか極悪非道の九平次の振る舞いに怒りを感じつつ、どんくさい徳兵衛をいじめたくなる自分の中の九平次性にも気づいてしまう。

人間はそのような生き物だということを思い出したり、分かち合ったりする装置が必要なのかもしれない。しかも、劇場という安全な中で。

 

*追記*---

とても大事なことを書くのを忘れていた!

鑑賞仲間と感想を出し合っていて、出た話。
「10代の頃のこういう危うさを超えて、よくみんな大人になってきたよなぁ」...

そ、それだーーーー!!

なぜわたしがウットリできないのかというと、そこの思春期の死と近接する危うさみたいなものがあるからだ。。
愛の歓びってある。でも、境界が溶けて二人で一つ(ニコイチ)がいい!と思っちゃうこと、運命の人、ロマンティック・ラブ...言い方はいろいろあるけど...それは危うさも孕んでいて。

多くの人が「思春期」という嵐を抜けてきていることを、思い出させるためにも、この悲劇はあるんではないかと思う。

だから、「ロミオとジュリエット」にしても、「曽根崎心中」にしても、やっぱり「そっち行っちゃダメー!!!!」で合ってるんじゃないか。

まだ生半可な感想で、これからどんどん変化していくかもしれないけれど、一旦これで置きたい。

---

 

 

いやはや、こんなに有名なお話で、よくよくわかっていると思っていたけれども、バレエという形式で出会い直してみて、こんなに自分の中からぞろぞろと感想が出てくると思わなかった。

 

橋をかけてもらえて、感謝!!!

バレエの有名な作品、もう少しおさえておきたいなという欲もわいてきた。

来シーズンは「眠れる森の美女」かなぁ。

トリプルビルの「ダンテ・プロジェクト」も気になっている。

 

 

 

以下は予習のために教えてもらった資料。

 

www.youtube.com

 

 

 

 ▼新国立劇場の「3分でわかる!」シリーズは、いつもお世話になっている。この場面でこの踊り、この音楽、というのをおさえておくだけでも、全然鑑賞体験が違うはず。

www.youtube.com

 


アレッサンドラ・フェリといえば「ロミオとジュリエット」なのよ!と言うのがこの動画だけでも十分わかる気がする。

www.youtube.com

 

▼バレエ用品のチャコットのレポート

www.chacott-jp.com

 

▼わからないバレエ用語を調べるのにとてもよい一冊。

今回は、「ロミオとジュリエット」「ドラマティック・バレエ」「ケネス・マクミラン」「決闘」などを調べました。

 

 

 

そうそう、予習をしていて思い出したのです。

1996年のディカプリオ&クレア・デインズの映画「ロミオ&ジュリエット」、わたしはイタリア旅行中にフィレンツェの映画館で観たのです。

もちろんイタリア語吹き替え。たぶんそれでだと思うけれど、内容をあまりよく覚えていない。

20年ぶりにちゃんと観るため、DVDを借りてみました。

 

歳を重ねていくにつれ、20年前、30年前とどんどん「長い」時間を扱うようになっている。

まったく、いつの間にそんなことになったんだろうと、心底驚く。


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http://chupki.jpn.org/archives/4691(田端)

▼2019年9月23日(月•祝) 秋分のコラージュの会

https://collageshubun2019.peatix.com/ (国分寺

▼2019年9月28日(土) あのころの《いじめ》と《わたし》に会いに行く読書会 満席
https://coubic.com/uminoie/979560

▼2019年10月1日(火) 爽やかな集中感 競技かるた体験会
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