ひととび 〜人と美の表現活動研究室

観ることの記録。作品が社会に与える影響、観ることが個人の人生に与える影響について考えています。

映画『桐島、部活辞めるってよ』を語る

仲間内でひらかれた、映画『桐島、部活辞めるってよ』を語る会に参加しました。

発起人は、この映画がめちゃくちゃ好きなアメリカ・シアトル在住民。

どんなに離れていてもインターネット会議システムがあるので、思いついたら語る会ができてしまう。いい時代!

 

アメリカとは時差の関係で、開催時間が合わせにくいのだけれど、日本時間午後1時、アメリカ前日の午後21時からひらいてくれました。ありがたいな!

 

「桐島〜大好きな人」から、「どこがいいのかよくわからないので好きな人の話聞いてみたい人」まで、さまざまな動機の5人が集まりました。

新しい視点や表現が尽きることなく湧いて出て、75分、大いに盛り上がりました。

 

 

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『桐島、部活辞めるってよ」は2012年8月公開の映画。

youtu.be

 

わたしが「桐島」を観たのはいつだったか、たぶん2014年か2015年ぐらい。
公開当時は「噂になってんなー」ぐらいの感じでした。
「○○、○○だってよ」というフレーズがやたら流行っていたような気がします。

DVDで観たときも、感想はしばらく持っておきたくて、誰かと積極的に感想を交わす行動は起こさなかったと記憶しています。

 

今予告観ると、うーん...なかなかしびれますねぇ...!

"日本映画史に残る圧巻のグランドフィナーレ"は嘘じゃない!!!と言えます。

ここからはちょっと内容に踏み込んでますので、未見の方はご注意ください。

 

 

観ていると、どうしても自分の高校時代はどうだっただろうか?ということと重なる。

 

わたしの高校時代は、ここに出てくる子たちの誰でもなかったなぁ。
いや、どれも少しずつわたしである、という気もする。
そういう点で、"全員、他人事(ヒトゴト)じゃない"はそうかも。

(あれ、今気づいたけど、映画のポスタービジュアルは"全員、桐島に振り回される"だったのが、DVDパッケージでは上記に変更になってる)

 

一番「わかる」感じはするのは、映画部の前田と武文。

イケてる人たちからは相手にされなくても、別に気にしない。
こちらも同じ「スクールカーストの上位」に行きたいわけでもない。

好きなものが明確にあり、同じレベルで話せる仲間がいて、それなりに楽しく毎日やっている。
大人しそうに見えるからって、別にいい人でも純朴でもない(誤解されやすい)。

「将来は映画監督目指してます!」とか「ありえない理想」をぶち上げてるわけでもない。

そういう前田が、カッコよくて勉強できてスポーツもできて彼女もいる宏樹と立場が逆転する。持てる者なのに、一つのことに傾ける情熱は持てない。親友だと思っていた桐島からも必要とされていないことに気づく宏樹。

その宏樹に対してカメラを向けて、「やっぱカッコいいね」というところの、対等感というか逆転感がたまらない。

 

そう、どこが一番よかったかと言えば、やはりここのクライマックス。

前田が宏樹に向かってカメラを構えた瞬間、世界がぐるんと回転する。それはもう見事に。


あそこで、もしかすると前田も、人にカメラを向けるということの本当の力(の片鱗)を知ったんじゃないかと思う。「そうだとすれば、あの日から監督を目指す可能性だってあるよね」なども話した。

 

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小説も読んでいる発起人の第一感想としては、「映画のほうは心の声や行動の理由など一切の説明がなく、音もクライマックスを除けばほぼ入らないので、観ている側に感情の操作がないところが好き」とのことで、そうそうそう!わたしもそうなの!と思った。

 

この映画のつくりの奇妙なところが、今までにない感じで、どうにもたまらなく、好き。

 

そして背景が全然わからないにも関わらず、一人ひとり、必ず「こういう奴いた!」と思い当たるような人たちが出てくる。

"あなたの記憶を刺激する青春エンターテインメント!"という予告に流れるテロップも、観る前はなんのことだかという感じなのだが、観た後は、「ああーまさに...」という気持ちになる。

 

「僕たちはこの世界で生きていかなければならないのだから」という劇中劇(ゾンビ映画)のセリフは、まだ高校生活の残りが1年数ヶ月ある中で、どのような身の処し方でゆくのかということでもあるし(もちろん道は学校の中だけにあるわけではない)、その先の一人ひとりの未来をも感じさせ、いろんな可能性に満ちているところが、青春である。(想像上の、かもしれないが)

 

 

▼わたしの好きなシーン(どこもわりと好きなんだけど)

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唯一、存在が一番不明だったかすみについては、「とにかく周囲と調和が取りたいがために行動する人。ゆえに自分があるようで全然ない人なのでは」という、その人個人の「わかる」感じから見立ててくれたおかげで、理解が進んだ。

 

参加メンバーの中には、この映画のクラスにいたんじゃないかと思うような遍歴の持ち主もいた。やはり場をしつらえて感想を話すことっておもしろすぎる。

そうでなければ多分一生知ることもなかったかもしれないエピソード。
いやー、すごい。人間おもしろい。

 

 

そうやって感想対話で一人ひとりが持っている「この人の感じ、わかる」を集めてみると、人物も物語も立体的になってきて、「そういう映画だったのか!」と合点がゆく感じも得られる。

でも、それでも、全部はわからない。

そういう「語りたくなる映画」になっているところが、秀逸。

 

おお、この「わかりそうで肝心なところは話しても話してもズレる感じ」...まるで、芥川龍之介の「藪の中」のようでもある。

 

 

「桐島、〜」が持っている独特の淡々とした感じ。

何かに似ているなーと思ったら、「滝を見に行く」だった。

7人のおばちゃんたちが滝を見に行く話で、好きな映画50本に間違いなく入る。

タイトルもそういえば似ている...。

 

 

 

映画で語るのって、やっぱり楽しいなぁ〜

鑑賞対話って、もちろん何が真ん中にきても楽しいんだけど、映画という表現形式だからこそ生まれる対話ってある。映画で語るのが一番!というのでもなく、オペラでも能でも本でも、それぞれに「ならでは」があることが魅力。

 

たった75分で、こんなに満足。場の力って素晴らしい。

 

 

 

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▼2019年10月1日(火) 爽やかな集中感 競技かるた体験会
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