ひととび〜人と美の表現活動研究室

他者の表現にふれることから、自分の中にある美の感覚にもふれてみる、自分の美を表現してみる。みんなで探究する鑑賞の場づくりを通して考えることなど。

ビクトル・エリセを再訪する

一昨年ぐらいから、牯嶺街少年殺人事件、ミチバチのささやき、エル・スール、スペシャリスト、乱......などなど、個人的に懐かしく思い出深い映画のデジタルリマスター化、リバイバル上映が続いていた。

どれも劇場に足を運べなかったけれども、気になってはいた。

 

そして今年の6月。

早稲田松竹で、ビクトル・エリセの「ミツバチのささやき」と「エル・スール」の二本立ての上映があって、どうしても観たかったのだけれど、これもまた逃した。

家のテレビモニターは極小なのだけれど、それでもやっぱり今観ておきたいと思い、DVDを借りた。

 

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まず観たのは「エル・スール」。EL SUR

 

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...驚いた。

 

一枚一枚のカットが、息を呑むほど、目が痛くなるぐらい美しい。

一音一音に響く余韻。

光と影。これはフェルメールか、ジョルジュ・ラ・トゥールか...という。

前回に観たのは、高校生か大学生の頃だったと思う。

静かで声が小さくて、途中で寝てしまったりしたかもしれない。

登場人物たちに大きな影響を与えているスペイン内戦のことも、ようやく理解した。親子や夫婦の関係のことも、人生に起こり得るあれこれ。

ああ、今この年齢になって、ようやく理解した。
当時は人生経験が浅すぎて全然わかっていなかったのだ。

けれども、当時観ておいたからこそ、確かに残っている手触りのおかげで、再び出会うことができた。

 

 

 

次に、「ミツバチのささやき」を観た。El espíritu de la colmena(蜂の巣箱の精霊)

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「エル・スール」よりも印象深く残っていた。蜂の巣のような六角形のガラスから差し込む金色の光。アンドリュー・ワイエスの絵画のような、スペインの寒村(寒村という言葉がぴったりだ)。光の加減はいつも不思議で、時間帯も季節もはっきりとはわからない。音の効果もより感じられる。すべてが絶妙な計算の上で総合的に組み合わさった作品になっている。ふと、同時期に観ていたタルコフスキーの映画も観たくなった。

わたしは映画の中で手紙を綴り、読み上げるシーンがものすごく好きなので、この映画の冒頭のことは特によく覚えていた。(エル・スールにも手紙のシーンが出てくる)

内戦により引き裂かれてしまった人の、終わりのない苦しみと悲しみが胸に刺さる。

そう、わたしは今は、主人公の子どもの目線ではなく、子どもが眼差しを向けていた大人の方に寄って、これらの物語を観ているのだ。

 

あの頃からずいぶん変わったな。

美しいものを、ただただ観続けることの耐性がついている。

読書や美術鑑賞や文楽や能やオペラやバレエ......鑑賞をひたすらやってきたおかげで、抽象的で、意味を自分で探る、味わうのに時間がかかる作品を観る喜びがある。

長さや静けさを困難と感じなくなっている。

 

これはスペインに対する鎮魂の祈りなのだろうか。

時代の悲しみ、嘆き、悼み。

あるいは、わたしたち全員への。

 

 

 

 

続いて、「ポルトガル、ここに誕生す〜ギマランイス歴史地区」Centro Histórico

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4人の巨匠による、ポルトガル発祥の地、ギマランイスを舞台にした4作のオムニバス。

どの作品も珠玉。

なんという豪華な企画なんだろう。

この映画が公開されていたことも知らなかった。劇場でゆったりと観たかったな。

 

ビクトル・エリセの作品は、1845年〜2002年にあった、リオ・ヴィゼラ紡績工場で働いていた元工員たちへのドキュメンタリーの仕立てになっている。

一人ひとりの語りに聴き入っていると、様々な感情が入り乱れる。

それをまた、静かに優しく悼むように、美しい音楽が包む。

 

観てからゆっくりと思い出してきたのだけれど、わたしはギマランイスに行ったことがあった。ちょうど20年前。まだ学生の頃に。

若い感性で、知らない土地を訪ね歩いた記憶が、立ち上がってくる。

人間の記憶というのは、年月が経っても決して色褪せることがない、ということを20代のわたしはまだぼんやりとしか知らなかった。40年以上生きてきて、先人たちの言うことはほんとうだったのだと、ようやく体感している。

元工員たちが、まるでその当時の場所に帰るような目をして、思い出を語る様に、わたし自身の体験も重なっていく。

 

 

「生きているうちに、できるだけたくさんの作品を鑑賞したい!!」と思っていた時期もあったけれど、一つの作品を二度、三度と観ることの喜びを知る年齢になってきた。

あの頃よりも引き出しが増え、感性も豊かになった自分として、今もう一度会いに行くのもまたよいものだ。

 

 

大切な作品は、ずっと大切にしたいから、

何度も観て、感想を語り合って、

みんなの宝を遺していきたい。



 

今後のイベント

2019年11月23日(土•祝) 
あのころの《いじめ》と《わたし》に会いに行く読書会

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2020年1月8日(水) 
爽やかな集中感 競技かるた体験会 
https://coubic.com/uminoie/174356 


 

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連載
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