ひととび 〜人と美の表現活動研究室

観ることの記録。作品が社会に与える影響、観ることが個人の人生に与える影響について考えています。

映画『判決、ふたつの希望』鑑賞記録

映画『判決、ふたつの希望』を観た。

原題"The Insult"

侮辱。

 

 

longride.jp


 

2017年の公開当時は観られなかったけれど、ずっと気になっていた。

ようやく観るタイミングになった。

 

レバノン史上初、アカデミー賞外国語映画賞ノミネート!
タランティーノ監督の元で修業を積んだレバノン出身監督による
ふたりの男のささいな諍いが、国を揺るがす法廷争いを巻き起こす感動の法廷ドラマ
ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

 

と聞くと何か、簡略化されていたり、過剰にドラマ部分が盛られすぎていたり、善悪が明確にされてしまっているのだろうか、と身構える部分が少なからずあったのだけれど、全体の印象としては、なんとも見事なストーリーテリングだった。

シーンやセリフで説明しすぎず、俳優の演技で伝えつつ、コンテクストを共有していないわたしたちにも、前知識があまりなくても入っていけるように仕立ててくれている。

物語のための設定ではなく、一人ひとりの登場人物が、その人の人生を生きている映画であるところがよかった。

 

物語の進行を通して見えてくる彼の国の事情。裁判という装置を中に入れたことで、どちら側からの景色も見える。誰かに肩入れすることもない。

一つの国民、一つの民族、一つの宗教であっても、一枚岩ではない。
一人ひとりの思想や思いは一人ひとりのものだ、という複雑さもリアリティがある。

 

 

もちろん現実とどのぐらい同じか、どのぐらい違うかはわからない。

このわからなさを持ったまま、けれども観続けることができる、というところが大切だ。

 

中東の歴史は要素があまりにも多く複雑で、また刻々と変化していくので、体系立てながら、現状を理解することが難しいことのひとつだと思う。

自国の政治でさえ難しいのに、他国の、それも宗教や民族が入り乱れた地域での、日本にまでニュースが届かない、届いていても積極的に取りに行かなくては目にすることもないようなこともたくさんある。

すべてを理解することはできないが、たまたま自分がそのとき出会ったもの、自分が関心を持った入口から、少しずつ知っていってもいいという気持ちになった。あらためて。

天然資源の少ない日本は、中東に依存している。だから知るということでもよい。

あるいは既に今起こっているわたしたちの国の中の分断について考えることもできる。

宗教や民族、言語や文化や風習、世代の違いを持ちながらも、どのように政治レベルで市民レベルで社会的に包摂していくのか、痛みの歴史をどう捉えるのか伝えるのか、どう共生していくのか。。

 

謝罪とは。

裁くとは。

赦すとは。

 

 


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これまでに観たいくつかの印象的な分断と共生を模索する映画についても思い出した。

プロミス」(2001年 パレスチナイスラエルの子供達の交流を描く)

ナッシング・パーソナル」(1995年 北アイルランドベルファストを舞台にした抗争を、プロテスタントユニオニストのテロリストの側から描く)

バベルの学校」(2013年 パリの中学校を舞台に20の国籍、24人の生徒の物語を描くドキュメンタリー)

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テーマは常に同じ。

すべての人間に起こり得る普遍的なことを、映画という表現形式のおかげで観ている時間だけでも真摯に見つめることができる。

 

わたしたちは深い根源的な望みでは共感しあえることを知っている。
だから新たな傷が生まないこともできる。
傷が生まれたあともわたしたちは生きている限り回復できる。

 

人間として尊厳をもって生きる。

他の人間と共に生きる。

 

大切なことを、静かに丁寧に語りたくなる映画。

 

 

募集中のイベント

▼2019年12月22日(土) 2019冬至のコラージュの会
https://collage2019toji.peatix.com/  (練馬)

▼2020年1月8日(水) 爽やかな集中感 競技かるた体験会
https://coubic.com/uminoie/174356 (横浜)

▼毎月シネマ・チュプキ・タバタで鑑賞後の感想を「ゆるっと話そう」実施中
http://chupki.jpn.org/ (田端)

 

 

鑑賞対話ファシリテーション(グループ・団体向け)

・表現物の価値を広めたい、共有したい、遺したい業界団体、
 教育や啓発を促したい、活動テーマをお持ちのNPO団体からのご依頼で、表現物の鑑賞対話の場を企画・設計・進行します。
・鑑賞会、上映会、読書会、勉強会などのイベントやワークショップにより、作品や題材を元に、鑑賞者同士が対話を通して学ぶ場をつくります。

https://seikofunanokawa.com/service-menu/kansho-taiwa-facilitation/

 

場づくりコンサルティング(個人セッション)

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https://seikofunanokawa.com/service-menu/badukuri-consulting/