太田記念美術館の肉筆浮世絵名品展に、最終日、滑り込みで行ってきました。
開館40周年記念 太田記念美術館所蔵 肉筆浮世絵名品展 ―歌麿・北斎・応為 | 太田記念美術館 Ota Memorial Museum of Art
太田記念美術館 (@ukiyoeota) | Twitter
経緯
今年は太田記念美術館に行こう!と思っていたときに、ちょうど観たい作品がきたから、というのが行った理由。
以前から「太田記念美術館はいい!」という噂は聞いていたけれど、なかなか浮世絵に興味が持てずにいたのです。
そう、ここは浮世絵専門の美術館。
うーん、浮世絵に興味が持てないというか、好きな絵もあるけれど、持ちきれずにいるというか。
それが去年少し変わってきました。
発端は東京の水道の歴史について、調べたことをラジオで配信したこと。
これまで約20年暮らしてきた東京の成り立ちや歴史に興味を持つようになりました。
その勢いで20年ぶりに江戸東京博物館に行ってみたら、すごく楽しかった。
息子がちょうど社会で東京の歴史を勉強しているので、一緒に観に行ってみたら余計に楽しかったです。
ラジオの中でも話しましたが、わたしは東京の出身ではないので、「社会の内容が違うんだ!」ということにまずびっくりしたのです。
そのときになんとなく、「次に入ってみる道は浮世絵かも?」とふと思ったのでした。
知っているようで、知らない。
絵画、彫刻、音楽、演劇、芸能......いろいろなものを鑑賞してきた、見聞きしてきた今なら、おもしろく見られるのかもしれない。
東京ではいろんな美術館や博物館でしょっちゅう浮世絵の展覧会がひらかれていますが、今回の展覧会に食いついたのは、メインビジュアルが、葛飾応為の「吉原格子先之図」だったため。
葛飾応為のことは、数年前に人からおすすめされて読んだ杉浦日向子の『百日紅』で興味を持ちました。
そして、2017年のNHKドラマ『眩〜くらら、北斎の娘』を観て夢中になりました。
応為のことで言えば、女性の芸術家で名を残している人が少ない時代の、「描かれる側だけではなかった女性」のことをもっと知りたいという気持ちがあります。
サラ・ベルナールの世界展も行って感想を書きましたが、そんな感じで引き続き、探求していきます。
太田記念美術館と展覧会について
・公式の概要はこちらにあります。
・原宿/明治神宮前にある私設のミュージアムです。アクセス至便!
・14,000点の浮世絵のコレクションがあります。常設展はなく、企画展のみ。毎月展示替えがあって、お宝を順繰りに見せてくださる感じ。1ヵ月なので、観たいな〜と思ったときに行かないと終わってしまいます。
・海外流出を嘆いた実業家の太田清藏さんがコツコツと集めてこられたそう。
やはりこのような篤志家の存在が、文化芸術を支えてきてくれたのだなぁ。
そのあたり、今の時代はどうなっているんだろうか。
・浮世絵といえば分業制の版画のイメージが強かったのですが、絵師がすべてを一人で描く肉筆画もある。浮世絵は版画と肉筆画の両輪で、この両方が多数所蔵されていて、なおかつ保存状態が良好な、この美術館が日本にあることは貴重とのこと。
・ガラスケースから作品がかかっている壁までの距離が近くて、ほんとうに間近で見ることができます。
・1980年1月に開館し、2020年1月に開館40周年を迎えるということで、今期は開館記念の肉筆画のお宝とも言うべき作品が展示されていました。
感想
今回はほんとうにいろんな発見がありました。
●「吉原格子先之図」は意外と小さい
思ったより小さかった。調べてみたら26.3×39.8cm。
小さくて繊細で、見飽きない。一人ひとりに役(Role)が与えられているような。ベラスケスの「ラス・メニーナス」のような謎めいた絵。
二次元の絵画なのに、細やかな動きや音が聞こえてくる。
表現がモダンでクール。陰影、明暗。
「格子之先」の女性たちよりも、格子の手前にいる明かりに寄ってくる男性たちのほうが、身をのけぞらせたり、くねらせているように見える。滑稽でもあり、淫靡でもある。
見ているのは男だけではなくて、女もいる。
足元を明かりで照らしている少女、禿だろうか、一人だけ格子のほうを見ていなくてなんとなく気になる存在。
見れば見るほど、いろんなことに気づいていく。
この一枚を見て、複数人で「これはなんだろう」「ここからこういう印象を受ける」「こういうことを言っている評論家がいる」「この頃の女性の絵師ってこうだったらしい」など、あーだこーだと話したら、すごく楽しそう。
他の来館者の皆さんも気になると見えて、この絵の前ではどうしても立ち止まってしまうので、館員さんから動くように何度もうながされてしまった。
・掛け軸、表装、表具の世界
まるで着物の柄や色の組み合わせ方のように多種多様で、絵画と一体の世界観を作り出している。テキスタイル、刺繍、織り、布テープのようなもの、和紙。
とにかく作りが細やか!
もしかしてこれは天井画の柴田是真(ぜしん)の作品を真似た?と思われる表装もあって、真偽を知りたいところ。柴田が活躍したのが、江戸〜明治中期なので、あり得る!
掛け軸って全体を見ないと魅力が半減するのではないか?というぐらいの豪華さ。
西洋画の額装とはまた違う感覚のようにも思える。
表装にはまた表装の技術や決まりや美学があって、もしかしたら流派のようなものもあるのかもしれない。表装、額装についても今後注目していきたい。知りたい。
・浮世絵の女性の顔が苦手だった!
目が細くつりあがって、唇が突き出ていて、顔は面長で...。今の(わたしの)美の感覚からすると「わかる」「近い」感じがあまりない。
浮世絵とは庶民的なものだから、まぁ当時の流行りやいい感じってこうだったんだなぁ、みんなこういうのが好きだったんだなぁ、と思いながら見る。漫画やアニメでもその当時の流行りの描き方はあって、時代が変わると感覚が「今」じゃなくなっていくことは多々ある。
だから、浮世絵って日本の漫画の流れの途中に確かに君臨していたものだとわかる。
でもたくさん見ているとクドい。観光地でカリカチュアの似顔絵を見た時の気分に似ている。うん、やっぱりこれが正直な感想!
今の感覚でもcool!と思うのはやはり、歌川広重、葛飾北斎、葛飾応為、小林清親だった。対象に現実味があるのが好きなのかも。あくまで好みの問題。
・肉筆画は漫画の原画展
肉筆画をみているときに、漫画の原画展(これとか)に行って、「やっぱり原画ってきれい〜印刷されたのと全然違う〜」となったことを思い出した。
やはり漫画の由来の一つに違いない(持説)。
・遊女、遊郭、吉原
もしかすると今回の最大のお土産がこれだったかもしれない。
隣で見ていた女性二人が、「なんかこういうの見ると複雑な気分になるのよね。だって公設の遊郭だったわけでしょ。華やかだけれど囚われていて。禿みたいな小さな子どもも、いずれああいうことをするんだって間近で見させられてる。今の感覚から言えばなんとも言えないわよね」というような話をされていた。
そのときに「そう!!まさにわたしも!!そこをどう考えたらいいか、ずっとわからないんですよ!!」とその方々とハイタッチしたい気持ちになりました。
独自の文化を生み出し、既存の芸能や芸術を発展させた土地、場所であるのはわかっていて、でも一方で、今の時代感覚から考えると、複雑な気持ちにもなる。それを時代が違うからといって飲み込めるほど、今、その複雑さが解消されてはいない。。
後日、台東区立中央図書館に行ってみたら、郷土資料のコーナーでちょうど吉原細見の展示をやっていた。細見(さいけん)とはガイドブックのこと。
どこの妓楼にどんな遊女がいるか、そのランキング、金額、などが書いてある。
吉原についてまとめた棚もあって、方向性で言うと、
・吉原の文化やしきたりの紹介。美麗で豪奢で大人の粋な社交場!
・吉原や遊女への負のイメージは小説や映画の影響受けすぎ!実際は違った!
・吉原の遊女の悲劇どん底物語
など、ほんとうにいろんな切り口の本があった。
うーん、きっとどれもほんとうなんだろうな。
わたしは漫画『花宵道中』の衝撃がすごすぎて、あの世界観からまだ抜けきっていないのかも。圧倒的に美しくも儚く悲しいっていうのが、苦手といえば苦手...。
・着物を見る目が変わった
最近、競技かるた用に着物と袴を購入して、はじめて袴の着付けを習ったり、着物について教わったりしている。
そういう今の自分から見ると、
すごい布の量だな!
このだらっと、ゆるやかで、ぐしゃっと着る感じが遊女のたおやかさを表したいのかな?
この柄とこの柄、この色で組み合わせるのかー!
といった感じで、一枚一枚を見た。
もしかしたら当時の人びともファッションスナップ的に浮世絵を見ていたのかもしれない。こういう着方やポーズがおしゃれなんだ、自分じゃ着ない(着られない)けど素敵〜♪などおしゃべりしていたのかもしれない。
着物を観察する目をスライドさせていくと髪飾りや、持ち物や、室内の調度品などにも目がいく。当時の生活や風俗がわかる。
着物に親しんで来なかったので、これまではあまりそのあたりに目がいかなかったのだけれど、自分が体験した途端、視界に入ってきて、あたらしい発見を得られたのはおもしろかった。
・地下の視聴覚室で流れている解説映像は必見
浮世絵の成立や歴史、作家の特徴についての30分の解説映像がわかりやすかった。
木版と肉筆から生まれた浮世絵の流れ、江戸の大火事「明暦の大火」からの大復興と江戸への資本流入、墨一色刷りから、朱を基調とした複色刷り、大量に版木を使い分業化していった多色刷り、絵師の登場と成功者と代替わり、浮世絵の盛衰、、
特に絵師の名前って、単体でバラバラでしか自分の中に存在していなかったのが、
"まず菱川師宣が初期浮世絵を興して、その後流派が別れて大阪出身の鳥居派と......、鈴木春信が大きな影響力を与え...、喜多川歌麿...、東洲斎写楽が...、と続き、浮世絵の幕末に葛飾北斎や歌川広重、歌川国芳・歌川国貞が活躍....、国芳門下の月岡芳年は洋画を取り入れ...、河鍋暁斎や小林清親...."と追って説明してもらえたことで、わたしの中にも流れをもって組み込まれていった感じ。
この解説映像がかかっているのは、毎日かどうかはわからないので、行く前に確認されると確かです。
ふりかえり
・「浮世絵」というざっくりとした捉え方だったものが、いくつもの軸や切り口で細分化され、自分の中で体系立てられた展覧会でした。浮世絵を見る楽しみ方が少しわかった!という感じ。これは大きな収穫でした。
・「好き嫌いで見ちゃいけない、それは美的発達的に稚拙」という言説にどこかとらわれていた自分がいたけれど、好き嫌い、得意苦手は、やっぱりある。そこを受け入れることではじめてその先に行けると思う。
・太田美術館の4月〜5月の月岡芳年展が楽しみになった。前期と後期で展示替えとのこと。こんなんも見つけてしまった>https://bijutsutecho.com/magazine/news/exhibition/18054
2018年練馬区立美術館...これは今あったら絶対に行っている!
・2020年はオリンピックもあるし、東京でやるから、浮世絵も盛り上がっているのかも。東京都美術館で7月〜9月までThe UKIYO-E 2020が開催。
https://ukiyoe2020.exhn.jp/
フラグが立っていると視界に入ってくるし、立っていないとほんとうに入ってこない。脳の仕組みやご縁っておもしろい。
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