ひととび 〜人と美の表現活動研究室

観ることの記録。作品が社会に与える影響、観ることが個人の人生に与える影響について考えています。

『越境する仮面文化』展@東京外国語大学 鑑賞記録

はるばる行ってきました、東京外国語大学

 


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中央線武蔵境で乗り換えて、西武多摩川線で2つ目の多磨駅下車。東京に来た年は武蔵境に住んでいたけれど、多摩川線には乗ったことがなかった。多磨駅ってどうして"多摩"じゃないんだろう。

 

きょうの目的はこれ。

越境する仮面文化展
http://www.aa.tufs.ac.jp/ja/event/exhibitions#mask2020


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この展示のことは、映画『タゴール・ソングス』の監督、佐々木美佳さんがTwitterでシェアされていて知った。(佐々木さん、ありがとうございます!)

写真パネルと解説、仮面の実物(撮影OK)、ビデオの構成。小さな小さな展示なのだけど、これは来てよかった。

イスラム教徒のヴェールには、地域によって種類も名前も違うことはうっすら知っていたけれど、仮面をつける文化は知らなかった。

しかも、髭のデザインの仮面が始まりという。16世紀初頭、ポルトガルがイラン南部を占領した際(これも知らなかった)、兵士から地元の女性が身を守るためという目的だったとか。だから女性だけが着用するもの。

ペルシャアラビア湾沿岸の文化らしく、国は沿岸諸国に広範囲に渡っている。多くの民族衣装がそうであるように、地理的特徴や各コミュニティごとに違いがあり、未婚か既婚かが仮面によって明示される。

ムスリム女性は髪を見せてはいけない、という掟(戒律?)を眉毛にまで拡張していて、眉毛が隠れるように仮面がデザインされているのが興味深い。

隠れてるといえるのか?というような枠の細いものから、顔全体を覆うようなものまで、サイズ、デザイン素材も様々。

未婚者が地味で、既婚者が派手というのは、どういう意味、意図があるんだろう。

実用としては、真夏の50℃を超える強い日差しから肌を守ったり、加齢によるしみ、しわ、抜けた歯を隠す面もある。アイライナーで目立たせた目元に注目させる効果も。このあたりは、今わたしたちがコロナ対策でしているマスクにも通じるところかも?だんだんとこの仮面のように一体感が出てくるのだろうか。「していないと裸になっているようで落ち着かない」ぐらいに?それで、なんとなくマスクしてる自分も撮ってみた。

行事や訪問先などのTPO、その日の気分でファッションアイテムとして楽しむ。
時代遅れで外したいと感じる女性もいれば、伝統を守るために積極的に着用する女性もいる。若い人たちの間では、アイデンティティを確かめるために再び関心が集まっているそう。

マスクは布製で、インディゴ染か、緑の光沢のある金をコーティングしたものが伝統。この布は120年前からインドで作られていて、現在はムンバイ1社のみ。現代風の仮面は素材もデザインもいろいろあって、仮面文化自体は形を変えて残っていきそう。

非日常の場で変身するためではない、日常のワードローブとしての仮面。おもしろい。
今後、映画や写真などで見かけたら、「あ!あの仮面文化の地域だ!」とわかるようになるんだな。楽しみ。

 

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追記)2021年2月15日の記事

globe.asahi.com

映画『うたのはじまり』鑑賞記録

仮設の映画館で『うたのはじまり』を観た。 

 

utanohajimari.com

 

コロナ禍で通常営業が困難になった映画館、その影響を受ける配給会社や製作会社など、映画の流れを止めないためにオンライン上に置かれたのが、仮設の映画館。

『うたのはじまり』は、ここで最後までラインナップされていた作品で、購入から24時間視聴可能なので、とりあえず購入だけしてこの日は寝た。

映画館はもちろんシネマ・チュプキ・タバタを指定。

 


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観てみての感想。

まずは注意書きの通り、出産のシーンはかなりリアルに映していて、直視できなかった。自分も出産の経験あるけど、人の出産を見るのが苦手で。。

齋藤さんが樹さんに歌う子守唄のシーンで、
これぞまさに「いつきの子守唄」!!と思った。

見る、聴く、触れるなど、映画を通しているのに身体感覚が拡張されるような、アップデートされるようだった。たとえば、七尾旅人さんはほとんど口を開けないで話すということに気づいた。

聴こえていても聴いていないことはたくさんあって、話せても伝えられないことはたくさんあって、わたしも声のバリエーションもっと持ちたいと思う。コミュニケーションに自由を与えたい。開放したい。

冒頭で「生まれてきた孫が五体満足でほんとうによかった。大満足」という言葉が出てきて、ギョッとした。それが突き刺さったまま映画を見ていた。

噂の小指さんの絵字幕はほんとうに素晴らしかった!
こんな体験したことない。これはスクリーンで観たかったなぁ。


このあたりのお話はオンライン舞台挨拶でされている。

1時間以上あるのだけど、とても見応えがあるので、映画のあと見るのがおすすめ。YouTubeでまだ公開中。誰でも観られます。

 

youtu.be

 



わたしにとってうたとはなんだろうなぁ。

機嫌がいいときにふと出てくる鼻歌が好き。
何も音楽をかけたくないとき、自給自足的に歌うのもいい。お料理のときにも歌う。
たまたま家族と同時に同じうたを歌い出すこととか、
息子が赤ちゃんのときに歌ったうたは、そういえば最近は歌わないかも。

あとは、和歌。詩。メロディだけ。
見知らぬ国の言葉で歌われるもの。

考えていくとおもしろいね。

 

〈お知らせ〉11/21(土) シアターで開催!ゆるっと話そう『アリ地獄天国』

11月の〈ゆるっと話そう〉が決まりました!
 

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『アリ地獄天国』🐜 🐜🐜 🐜 🐜🐜🐜 
 
不当な労働環境、待遇に対する3年にわたる闘いに密着するドキュメンタリーであり、理不尽な社会で生き残るためのロードームービー(労働映画)です。

公式サイト https://www.ari2591059.com/
 
この不安定で未熟な社会の中で、どうしたら自分らしく働き、自分の尊厳を保ちながら生きていけるのか。闘いを通じてたくましく変化していく人たちの姿から、ヒントや変革の勇気がもらえるような映画です。
 
労働、仕事、働き方、労働者の権利、ワークルール、会社組織の在り方、声をあげること(Voice Up)などに関心ある方もぜひ。
 
2020年11月21日(土)20:50〜21:50(当日上映終了後)
久しぶりにシアターで開催します!うれしい!
 
そしてなんと、土屋トカチ監督も参加者として一緒に感想をお話してくださいます。
すごい!!!
 
映画をご覧になった方なら、別の日に鑑賞されても、他館で鑑賞されても参加大歓迎です。これから観る方はぜひチュプキで^^
 
▼お申し込みお待ちしております。
 
▶︎感染症予防対策◀︎
・密にならないよう、席数を絞り、事前申し込み制。
・劇場内には自動換気システムがあります。
・劇場扉を開けて換気しながら、席間を空けて行います。
 
 
▼わたしの感想メモ
 

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ゆるっと話そうはこんな場!

hitotobi.hatenadiary.jp

 

鑑賞対話イベントをひらいて、作品、施設、コミュニティのファンや仲間をふやしませんか?ファシリテーターのお仕事依頼,場づくり相談を承っております。

seikofunanokawa.com

『月岡芳年 月百姿』展、鑑賞記録

友人から能『安達原』を見に行ったと聞き、

「太田美術館の月岡芳年展で安達原の浮世絵あるよ」と紹介したら、
「月百姿の定家の寝姿がよかった」と報告あり、

月百姿を調べていたら、ちょうど川崎浮世絵ギャラリーで展示をやっており、一緒に見てきた。

この素晴らしき展開♡

 

ukiyo-e.gallery

 


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すんごいおしゃれでポップなPV観てるみたいな、肉眼では絶対に見る事のできない瞬間を"捕らえて"見せてくれている。
カッコよくて、美しくて、たまらんかった。
漫画の原画を観たときの感じに似てる。

古典からの教養と確かな技術を注ぎ込んだ、芳年的美学の結晶。

東京都美術館の浮世絵展で学んだことも使え、よき鑑賞でした。学びがつながる。

川崎浮世絵ギャラリーの次回展示は、#小林清親 展ですって。これまた好きな浮世絵師!浮世絵の最後の世代の人たちですよね、確か。楽しみ!

『すみだ向島EXPO』鑑賞記録

2020年10月。

友達に「おもしろかったよ!」と教えてもらった、すみだ向島EXPOに行ってきた。

sumidaexpo.com

 


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墨田区の京島(きょうじま)、文花(ぶんか)エリアを中心に巡ってきた。

 

奇跡的に空襲を生き残った多くの長屋、平屋。暮らしてきた、使ってきた人々の気配。家と外が近くて、人と近い。

東京の他の下町に似たところもあり、違うところもあり。

まちと人をつなぐアート。

真ん中にアートをすえることで、さらにエネルギーを持つ土地。

人の行き交いにより、次から次へと生まれる場。

人口過密な東京のまち。

ごちゃごちゃして息苦しくて片付かなくて。

わたしはここで生まれ育ったわけではないのに、なぜか落ち着く。

狭い中にもいろんな表情があり、営みがあり、気質があり、文化がある。

広い空間や自然を求める気持ちもありつつ、わたしはやっぱり"ここ"が嫌いにはなれないのだよなぁ。

 

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『もうひとつの江戸絵画 大津絵』展、鑑賞記録

2020年10月。

 

待望の大津絵展に行ってきた。

www.ejrcf.or.jp

 
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"欲しい!欲しい!欲しい!"
のキャッチコピーは、大津絵コレクターたちの魂の叫びを表している。

大津絵自体は、ある程度、認知されている前提で、美術館ならではの企画として、コレクターの紹介をしている。

大津絵が展示されているのは博物館であることが多く、美術館(Art Museum)の企画は珍しい。

日本民藝館からの出品が多く、表装もセンスがよくて、さすが!という感じ。

宿場町の土産物として、小銭で買えるような額で売られていたものなので、無銘。フォーマットはあるものの、個性が滲むところがおもしろい。この個性は作った人だけでなく、コレクターによって好みがあるのがモロに出ているのがおもしろい。この人は端正なのが好きなのだなとか、わりと豪胆な筆致のものがいいのか、希少さに惹かれているのか、などさまざま。

コレクションっていかにも旦那衆の趣味っぽいなァ、と思っていたが、わたしも大津絵と聞くと放っておけないので、似たようなことをやっているのかもしれない。

一緒に観に行った友だちと、最近土産物屋ってのぞかないけど、自分たちのこどもの頃の記憶でいえば、大津絵ってどういうものに当たるんだろうね、と話した。また、当時絵を描く習慣もなかったであろう一般庶民や、伊勢参りの帰りに立ち寄った旅人の気持ちになって、眺めてみたりした。



昨年、noteで『大津絵を愛でる』というおしゃべりを配信した。ご興味ある方に聞いてもらえたらうれしい。

note.com

朗読劇『日の名残り』鑑賞記録

2020年10月。


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カズオ・イシグロの『日の名残り』の朗読劇。
なぜか本で読めなくて、5回ぐらいトライしたんだけど、だめだった。

他のイシグロ作品は全部読んだのに。

うーん、ここは演劇の力を借りるしかないなぁ……と前々から思っていたところに、あうるすぽっとからのお知らせで見かけて、最後の1席に運良くすべりこみ!
わたし偉かった!!よくやった!

 

生のお芝居。いやーよかった。

執事のスティーヴンス役の眞島秀和さんは、『おっさんずラブ』の人として認識していたけれど、生の声の美しいこと!
そして端正な佇まい。実直で品格あり冗談も言えない執事の役がピッタリ。

全編が主人公のモノローグでできてるので、眞島さんがひたすら語り続けているのを聴くという、よい波動を浴びた感。



おっさんずラブ』ファンの友だちとやり取りして、事前に楽しみをふくらませてもらえたのもよかった。ありがとう。

他の俳優さんたちは、セリフのみ演じられていて、その間合いも、声も、存在感もそれぞれによかった。小島聖さんの少しかすれたような声も魅力。

桂やまとさんが一番たくさんの人物を演じていた。

演じ分けられていてすごい。

マキノノゾミさんは、スティーヴンスが敬愛していた卿らしく、堂々たる風格。

以前観たことのある朗読劇がもっと動きが激しかったので、横一列に並んだ椅子に座っているスタイルに、最初は少し戸惑った。

あれはソーシャル・ディスタンス演出ということなのかしら。



そうか、こういう物語だったのか。

人生の落日にふりかえる、無数にあった岐路、葛藤、後悔。
信念、あるいは、そう生きざるを得ない宿命。時間の贈り物。

そして人生は続く。
この舞台を観て以来、夕方の美しさがいっそう沁みる。

METLV『真珠採り』鑑賞記録

2020年10月。

METライブビューイングのアンコール上映 にて、2016年のビゼー『真珠採り』を鑑賞。

http://met-live.blogspot.com/2015/07/2015-16-05.html

 

こちらのレビューで、

note.com


「METでの再演が100年ぶりとのことで、お蔵入りになるどんな理由があるのかと思いきや、これはもっと有名になってもよい作品では?」とあり、「これは観なくては!」と珍しく10日前から予約を入れて楽しみにしていた。

 

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2時間35分の上映時間も、オペラにしてはめちゃくちゃ短い。気軽。
ここから解説やインタビューなどをのぞくと、本編は2時間弱。
休憩1回。オペラ初心者向けかも。

レイラ役のソプラノ、ディアナ・ダムラウの美声、どこかで聴いたことが?と思ったらYou Tubeにあがってるロイヤル・オペラ・ハウスの『魔笛』夜の女王のアリアだ!

あんな高音をピアニッシモで美しく、しかも決して弱々しくなく、奏でるように歌う……素晴らしかった。彼女が今回の再演をゲルプ総裁に提案したという。
そういう経緯もよい。

バリトンのマリウシュ・クヴィエチェン、いいなぁ、また聴きたいなぁと思ったら、「歌手からは引退」ときのうのツイートで見てびっくり。

演者、歌手の活躍する舞台との出会いはほんとうに一期一会なのだな。
大切にしようとあらためて。

物語としてはわりと、ツッコミどころ満載。
だけど、人の言いなりでふわふわしていたレイラが、愛に目覚めたことから、自立していく様子は、どこか「源氏物語」の浮舟を想起させた。

海に潜る危険な仕事。保安と豊漁を祈ってくれる巫女への期待は、相当大きかったはず。それだけに、裏切りが発覚したときの怒りもまた大きかったろう。
あの狂気はどこか身に覚えがある。

プロジェクション・マッピングとワイヤーロープが効果的に使われていて、海に潜るシーンは音楽と相まって、心地よく、夢のよう。
一点、幕間で津波の映像がスクリーンいっぱいに映し出されていたのは、かなりキツかった。目を閉じてやり過ごした。これは日本でかけるときは、事前にアナウンスする等、配慮が必要な演出かと思う。

貧しく閉塞的なコミュニティと信仰との結びつきや、歪みのある三角関係は、『ポーギーとベス』にも似る。舞台が海辺で、始終薄暗く設定されているところも。

歌唱(独唱、二重唱、合唱)、音楽、構成どれも素晴らしく、短い中にもドラマがあり、あっという間の2時間半。

また別演出、別キャストで観てみたい。
今季のアンコールはこれで〆。

豊かな時間に感謝。

森鷗外記念館『森家の歳時記』展 鑑賞記録

2020年9月の終わり。

 

森鷗外記念館。

開館してからずっと来たいと思いながら月日が流れて、ようやくタイミングが訪れた。

わたしは森鴎外という人をずいぶんと誤解していたのかもしれない。
初めてちゃんと出会えた気がする。
国語の教科書に載っていた『舞姫』が衝撃的すぎたんだと思う。
つまり、印象が悪い。
でもあれは、初期の代表作であって、ほんの一部だったことを知った。

あの時代に、家柄もよく、才能にあふれ、恵まれていた一握りの人間。

軍医と作家の両方で出世して、何不自由なく生きていた。

......と思っていたのだけれど、どうもそうとも言いきれないようす。

 

文京区立森鴎外記念館 

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AVルームで流れていた映像もよかった。
加賀乙彦安野光雅平野啓一郎森まゆみ
著名な方々が語る鴎外作品の魅力もよかった。
紹介されていた作品から読み直してみようかな。

四季折々、森家の愛ある暮らしを見せてもらえて、ほくほくしながら家路についた。

ちょうど今、明治、大正、昭和の家族や暮らしについて調べはじめたところだったので、資料としても貴重だった。

記念館の図録は毎回つくりが凝っていて、コラージュブックのように楽しい。
テーマもいい。バックナンバーを2冊購入。去年から追っている樋口一葉にも言及してある。

モリキネカフェは、静かで落ちつけるのでおすすめ。
読書やインタビュー収録にぴったり。カフェのみの利用もOK。

徒歩2分の文京区立本郷図書館には、地下一階に森鴎外関連本コーナーがある。

 

 

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METLV『仮面舞踏会』鑑賞記録

2020年8月。

METライブビューイングのアンコール上映で、ヴェルディの「仮面舞踏会」を観てきた。2012-13シーズンの公演から。


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演劇の構成的にも音楽的にも、とても凝っていて盛りだくさんで、美しくて。

とても満足した。

 

悲喜劇。
可笑しみと、切なさと、勇猛さが同時にある。この複雑さが今の時代に合う。
人間ってこうだよね。

王様という立場にしても、ある人から見ればよい王様で、また別の人から見ればそうではない。

3人の間にある愛はそれぞれほんものなんだけど、掛け違いから悲劇が起きてしまう。何が起こるかはわかっているのに、そこに至るまでのドラマが深く重みがある。

人生経験を重ねた大人のためのオペラ。

占い師のウルリケが最高。

とにかく良い。

ヴェルディの作品の中で、たぶんあまり目立たない位置にいると思われるけれど、隠れた名作というか、今こそ観る時代なのかもと思う。

 

再演を期待。

METLV『トゥーランドット』鑑賞記録

2020年夏のMETライブビューイングのアンコール上映で、『トゥーランドット』も観た。

2019-2020シーズンの公演で、見逃していたのでありがたかった!

 

プッチーニ《トゥーランドット》 | 演目紹介 | METライブビューイング:オペラ | 松竹


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とにかく豪華壮麗な舞台に圧倒されるし、プッチーニの魔法にかけられたような音楽と、一流の歌い手たちにぐいぐいと引っ張られて、最後まで1秒も見逃したくないぐらい夢中になって観た。

 

この作品、わたしは、女と男の和解の話と受け取った。

男に虐げられ続けてきた女の代表になって、恨みと呪いを一身に背負ってしまったお姫様がいる。
男は復讐の対象。どうせみんなわたしを傷つける。だから先に殺る。
ほんとうは理解されたい、受け容れたいけれど、怖い。
結婚が男性のものになる、支配されることだと思っているから、全力で抵抗する。

 

でも結婚てそうじゃないんだよ〜ぼくも男だけど、一人の人間だよ〜と、カラフ王子。(いや、言ってないけど)

駆け引きっぽくも見えたけれど、実はそうではなくて、死ぬかもしれない勇気をもって姫を救出に来たんだな。

泣ける。

ありがとう王子。

トゥーランドットの傷つきがほんと深い。
「こじらせ」なんて言われたくないくらいの深い深い傷つき。
有史以来の傷つきを一人で背負っている重さ。

映画「勝手にふるえてろ」と似たものを感じた。
深くて本質的な愛。
アナ雪っぽくもある。

本物の愛とは?

これがプッチーニの遺作というところも泣ける。
プッチーニの作品って美しいし好きだけど、女の人が犠牲になるところは受け容れがたいと思っていた。人生の最後に人類にでっかいプレゼントしたのでは。

舞台の絢爛豪華さ、キャストの多さも凄まじい。
ステージに載ってる物量がハンパない。「アイーダ」も凄まじかったけど、「トゥーランドット」はさらに上をいく。

文化や歴史への取材が徹底しているのか、信じられるものになっている。

ピン・ポン・パンの故郷を思うくだり、リューの弔い、トゥーランドットの葛藤など、優しくて切ない場面も、震えるような美しさで、引き込まれた。
歌唱、演技、音楽すべてが一体に。
合唱も素晴らしい。

褒めるところしかない!!



ガイドは、「ポーギーとベス」のエンジェル・ブルー。温かみのあるすてきなガイド&インタビュー。

アクナーテンの告知も、本編がみられなかったので、うれしい。コスタンツォはやっぱりチャーミングな人。

「今季アンコール上映は最後は『真珠採り』で〆る!」と決めて、早々にチケットを予約した。

メトでの上演が100年ぶりというところに、お能の復曲にも近い感じもあり、幕間の解説がとても楽しみ。

横浜トリエンナーレ2020 鑑賞記録

9月の終わりに行ってきた。

実ははじめてのヨコトリ。

www.yokohamatriennale.jp


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刺激いっぱい。

心地よい疲れ。

 

とらわれずに考えていこう、怖れずやり続けていこう、と思った。

 

わかるかわからないか、知っているか知らないかではなく、

いかに自由になれるか。

表現の方法はたくさんあると体感する。

 

息子と友だち一家と行ってきた。

芸術祭は作品の前で話せるし、ちっちゃい子が少し騒いでも気兼ねなくいられるのでよい。

 

 

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『ヤン・ヴォー ーォヴ・ンヤ』展、鑑賞記録

夏に帰省はできなかったけれど、1泊だけ帰って、いろんな予定を済ませてきた。

こちらは、関西在住の友人が勧めてくれて、どうしても来たかった展覧会。

 

www.nmao.go.jp

 

 

素晴らしかった。
美しく繊細で作り込まれた作品の数々は、一度体験すると忘れられない。

静謐で深淵。

革新、創造。
美術館が祈りと再生の建屋となる。

 


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youtu.be

 

bijutsutecho.com

狂言『菊の花』・能『天鼓』鑑賞記録

9月。

半年ぶりの観能。


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すべりこみでとれたラスト1席が、正面の前右寄りだったのはラッキー。

この席から見ると、橋掛かりから能舞台まで、口を開けた龍が迫ってくるようでダイナミック。

狂言「菊の花」-----
太郎冠者ってほんとに憎めない人。チャーミング。主人との関係も主従なんだけど、対等で、お互いに正直さがあって気持ちいい。きょうの太郎冠者は年配の方だったのだけど、そのギャップが不思議によかった。(太郎冠者って若者の前提でよかったんだっけ?)

能「天鼓」-----
初めて観る曲だったけど、とてもよかった。また観たい。

哀しく憐れで美しく、何か大切なことを諭されているような深みや、赦しのようなものも感じられた。

今の感覚からしたら、「帝が横暴だろう!弔いもいいけどお前反省しろ!」と言いたくなる。
でも勅命に背くこと自体あり得ない前提なら、それを罪と呼ぶのもやむを得ないのかと、やりきれない思い。

前シテ・老父が、全身が木肌色で能舞台と一体化して見えた。悲しみのあまり空気になってしまったかのような。降って湧いた災難に、子を失う悲しみから、尽きせぬ涙を流しながらの前場の退出は泣けた。

後シテ・天鼓の美しさ。前場とはうってかわって艶やかな装束は、美の精霊のようだった。溌剌として、少年らしい。少年といっても男性性は感じない。横顔の翳りに色香。

芸術は器や道具だけあってもだめで、演者や表現者がいてこそ命を持つ。
だれでも魂を吹き込めるわけではない。

コロナ禍における芸術文化振興の在り方も思い起こされた。

どんなふうに観てもよくて、自分のこれまでの人生経験のストックすべてを使って楽しめるので、能楽はすばらしい。

600年以上、継いできた方々に、心からありがとうございます。

映画『ヤンヤン 夏の思い出』鑑賞記録

久しぶりに観た。何年か前にDVDを買ってずっと持っていた。

やっぱりいい。すごくいい。
まったく輝きが褪せない。
 

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観たことのない人にどういう映画と言ったらいいのか……。
エドワード・ヤンの魔法にかかっているとしか、言いようがない。

ある人にとっては、たぶん恐ろしくつまらない。
ある人にとっては、忘れられない宝物。
 
エドワード・ヤンの『牯嶺街少年殺人事件』『エドワード・ヤンの恋愛時代』『カップルズ』は、わたしの学生時代の風景に不可欠な存在。
80年代〜90年代の台湾の中に、普遍的な人間の孤独や愛や不在を描いていて、どれも忘れがたい作品。
2015年には『恐怖分子』、2017年には『台北ストーリー』をリバイバル上映で観た。