ひととび 〜人と美の表現活動研究室

観ることの記録。作品が社会に与える影響、観ることが個人の人生に与える影響について考えています。

さよなら、原美術館!『光ー呼吸をすくう5人』展 鑑賞記録

原美術館へ、光ー呼吸をすくう5人展を観に。

http://www.haramuseum.or.jp/



今期の展示でクローズする原美術館に、お別れとお礼を言いに行くつもりで。

晴れて暖かい秋の日。

光が美しくて、銀杏の木が輝いていたのを何枚か撮ってから館へ。


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光をただ「光」として受け取るには、「熱」がある程度人体に耐えられる範囲じゃないと厳しいな、と思った。

つまり、今の季節でよかった。

 



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光と呼吸。

この場所のすべてが、原美術館の記憶をとどめる祈りの場になっていた。

いつもの展示では閉じられている窓やロールスクリーンも、換気や演出のために開けられていて、ほうぼうから光や風が差し込んで、そこに生ピアノの自動演奏で「月の光」が流れる。

庭の木漏れ日、葉の上で輝く陽の光。


先日行った安達茉莉子さんの個展でも光がテーマになっていたな。

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光を集めている。



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この館にしかない、特別の空間を身体に記憶させておきたくて、奥行きや高さ、いろんな角度からの眺めを一つひとつ味わいながら見た。

作品もそれを手伝ってくれているようだった。

そう、この作品群が、ほんとうに今回の展示のために作られていて(あるいは再構成されていて)、よかったのだよね。

今のために、みんなと分かち合うために。



当初は、「原美術館コレクション展」が9月下旬から12月下旬に開催されて終わるはずだったが、感染症の大流行のため、急遽この企画がされたそう。

まさに今体験したかったこの空間、この表現、この共有。
「あいまいな喪失」にさらされ続けてきたわたしたちへの悼みと労いにも思われた。

確実な終わりを体験できることのありがたさも思う。

ミュージアムやシアターに関して言えば、準備したものの、観客の目にふれることなく中止になったものも数多くある。

竹橋の国立近代美術館工芸館は移転前の最後の展示だったが休館となり、そのまま工芸館としては永遠にクローズした。

わたしは鑑賞に間に合わなかったので、後悔が深い。


森村泰昌奈良美智、宮島達男、ジャン=ピエール・レイノー須田悦弘の「いつもの展示」も、もうこの場所では見られないのでしっかりと観た。

門から玄関までのアプローチ、階段の手すりの幅、床の傷やめくれ、たくさんの修繕の痕、カフェダールの席からの中庭の眺め……どれも愛おしい。

ここにわたしのいた痕跡もある。
わたしがここで過ごした時間も蓄積されている。
それは消えない。保存され続ける。

Time flows......

 

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成田美名子原画展 鑑賞記録

丸井有楽町店に成田美名子原画展を観に行ってきた。

 

サイファを語る会や、LaLa原画展を観てきたわたし。

 

hitotobi.hatenadiary.jp


 

もう、眼福のひと言。



写真撮影OKなので撮ったんだけど、超絶技巧はやはり目で見たほうが凄いので、投稿するのはやめときました。

人体よりも、物を描くことに重心があるのかもね、と友だちと話す。
このコーフンを分かち合えてありがたし。



行けなかった方にも、その凄さをおすそわけしてくださる記事。
成田美名子展に教わる逆にマンガ原画は絵じゃないってこと』

note.com

 


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『小泉八雲 放浪するゴースト』展と新宿歴史博物館 鑑賞記録

小泉八雲・放浪するゴースト展を観に、新宿歴史博物館へ。

新宿歴史博物館 令和2年度特別展 「生誕170年記念 小泉八雲」(10月10日から開催)-新宿歴史博物館

 


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小泉八雲ラフカディオ・ハーン

生誕170年記念の展覧会。
人生最後の15年を新宿区富久町と西大久保で暮らした縁により、この会場での開催。

"八雲は、絶えず自分を放浪へと掻き立てる衝動を幽霊(ゴースト)と呼んだ"



2部屋の小さな展示スペースにも関わらず、八雲の人生、家族、交友関係、人柄、才能、ルーツとライフワークについて知ることができる。みっちりとして分厚い。小泉八雲について、一気に理解と連結が進んだ展示だった。

民族学クレオール、放浪、怪談、異界、神話、民話、アイルランド、ルーツ、言語、物語、歌、スケッチ、明治、家族……。

わたしにとっての八雲は、小学生のときに使っていた英語のテキストに「むじな」が出てきたこと、20歳の頃に松江の旧小泉八雲邸を訪れたことなどが大きい。

家族のあいだだけで交わされていた「へるんさん言葉」を使った手紙、
長男・一雄の教育のために英字新聞で作ったテキスト、
焼津での夏休み、
一雄の名を自分の名の一部「カディオ」を使ったこと、
吸口に大津絵の鬼の念仏の入った煙管、
アイルランド時代のトラウマ、
父のように慕ったワトキンとの書簡(不思議とワトキンからの手紙の展示はなく、八雲からワトキンへの手紙のみ)

......などなど、目を惹かれるものがたくさん。

波乱万丈の日々の果てに、日本に辿り着いてくれてありがとう。

 


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なぜいつも横顔の写真ばかりなんだろう?と思ったら、10代の頃に左目を失明したから正面から撮られるのを避けたのだほう。それでも一雄を真ん中に、両側から父母が向かい合う(こちらには横顔)ように立っている七五三の写真などは、とてもすてきだった。

右目も強度の近視で、原稿用紙に顔を近づけるようにして書くために、八雲専用に高さを調整した特注の机も、複製が展示されていた。

いやはや、ほんとうに充実でした。

図録はその展示をまんま転写したかのような丁寧さで、あとから復習するのにとても良い。さらに、冒頭の小泉凡さん(八雲の曾孫)や、展覧会を監修した研究者の池田雅之さんの寄稿も興味深い。そして、巻末の年表!これは一つずつ追っていくと、展示では語り尽くせなかった「あいだ」のことが知れて、実におもしろい。



おすすめの順路としては、

1階ロビーで流れているビデオ視聴

企画展鑑賞

図録でおさらい

また、この展覧会を観たあとは、国立民族学博物館刊行の『季刊民族学 170号』もおすすめ。民俗学者としての八雲、八雲に影響を与えたアイルランドニューオーリンズの土地と文化、日本への眼差し、など盛りだくさんで、八雲についてもっと多面的に迫れる。

カップリング特集のメキシコの「アルテ・ポプラル」も間違いなくおもしろい。(これは展示もみんぱくに観に行った)

『怪談』を読むなら、来日100年記念に刊行された講談社学術文庫がおすすめ。とても読みやすく楽しい訳。



会期は2020年12月6日まで。
はりばる行ってもぜったい損しない、充実の展示。

 

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先日の港区立郷土歴史館に続いての、新宿歴史博物館だったので、常設展もじっくりと観た。
やはり郷土歴史館はおもしろい。

港区は、海とのかかわり、天皇家御用邸・御料地、武家屋敷など。
新宿区は、武家屋敷、宿場町、町人、商家、文芸、繁華街など。

展示から見えるキーワード、区や館としての力の入れどころもさまざま。

昭和のはじめごろに行った交通調査の結果がおもしろかった。同じ繁華街といっても、銀座と新宿と浅草では、歩いてる人の傾向が違う。

新宿区の文人と言えば、夏目漱石小泉八雲坪内逍遥夏目漱石は専門館があるので、近々そちらにも行きたい。
坪内逍遥については早稲田の演劇博物館が詳しい。

玉川上水の終点、四谷大木戸も新宿区。
去年、江戸から東京への、上下水道について調べていたので、木樋の展示には萌えた。

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さらに、館外の斜面に露出させた石樋の展示も個人的にはたまらない。



内藤新宿内藤町の歴史についてはもう少し調べてみたい。あそこの今の住所ってすごく変わっていた記憶。ラ・ケヤキ内藤町ではなかったか。

23区内の他の郷土歴史館にも行ってみたい。

 

今まで行った中では、

台東区は、下町と美術と遊興地。

中野区は、田園と陸軍関係。

 

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『性差(ジェンダー)の日本史』鑑賞記録

念願の国立歴史民俗博物館に行ってきた。
『性差(ジェンダー)の日本史』展を観るため。

https://www.rekihaku.ac.jp/exhibitions/project/index.html



西の国立民族学博物館はよく行っているが、東の国立歴史民俗博物館は初めてだった。違いもあまりよく分かっていなかった。
西のほうは世界各地の民族の文化風習の展示、東のほうは日本の歴史と文化、地域の文化の掘り下げ、と理解。


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歴史の中の性差を
・政治
・仕事とくらし
・性
という3つのテーマで分け、それぞれを物を通じて語らせ、起こりと変遷を明らかにする。

そして、この延長上にあるわたしたちに、今からどのように社会をつくってゆくことができるかという問いを投げかけ、考えを深める手がかりを与えてくれている。

画期的で意欲的な企画展示。特に売買春について、公の機関が、これほど正面切って明らかにし、掘り下げたものは、見たことがない。

正直なところ、展示を鑑賞しながら、自分の内に強い痛みを感じた。

公式ホームページで村木厚子さんが動画の中でも話されていたが、古代では政治でも暮らしでも男女の役割はなく、対等であったものが、律令制幕藩体制明治維新と、制度を入れるごとに女性が排除されていくのがありありとわかる。

史料に残さない、あるいは男性の名義で出されているため、「いたのにいない」「していたのにしていなかったこと」にされている。
名を残っている人は、母性か、ファム・ファタル(汚名も含め)か、制度の役に立つ範囲の才能としてではなかったか(異例のこととして)。

働く人としてでなく、表現者ではなく、性的な眼差しで、鑑賞する対象として扱われてきたことも、現在も広告の表象の問題としてつながっている。

往路の車中で読んでいた本、『夢を描く女性たち イラスト偉人伝』が示しているように、女性自身の人権や、男性との対等性を表すものは時代が下るにつれて、強制的に、時に巧妙なやり方で、ことごとく奪われていく過程。

売買春のところは特に辛く、幕府の公娼制度、軍部の慰安所としての遊郭で、必死に命をつないでいた女性たちがいて、それが「自売」とされて、問題が伏され続けていた実態。いや、これは今も続いている人権問題。

血みどろの凄惨さより、もっとじわじわくる。
それが排除。蔑視、偏見。

ぐったり。

それでも、幾多の人々が立ち上がり、変えてきたからこそ、今があるとも思う。今困難なのは、このような歴史があったからだとわかる。変えられる。道のりは長いかもしれないが、変えられる。劇的に変わってきている。


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今起こっていることと、これからどうしたらいいかを学び議論するだけでは、抜け落ちるものがある。与件としないことが重要なのだ。それは何か、誰かの思惑によって作られている可能性がある。

今起こっていることには、必ず過去のなんらかの経緯が関係している。それを見に行くことも、これからを考える上での前向きな行動だ。欠かせない態度だ。何度も記録や物品を調べ、今を生きる人の目で、多様なテーマや切り口やアプローチで解釈し続け、探究していく。歴史学者はそのためにいる。

 

こういう研究をコツコツとやってきてくださった研究者の方々にはほんとうに感謝。
世が変わってきたから、こうして一堂に会して陽の目を見ているのだと思う。
ただ知られていなかっただけで、ずっとあったもの。


歴史は終わったことではない。
過去だけではなく、今と未来を照らす。

それも性差(ジェンダー)といった大きなテーマは、ここ10〜20年ではぜんぜん足りない。100年でもまだまだ。今回のように古代まで遡ることで、ようやく明らかになるものがある。

わたしたちはどういう歴史の延長上に生きているかを知る。
どの対象、事象の、どんなイメージが歴史的に形成されてきたかを認識する。


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行かれる方は、公式ホームページの企画展示の詳細ページで展示の流れを抑え、

https://www.rekihaku.ac.jp/exhibitions/project/index.html

さらに村木厚子さんの動画(ぜひロングバージョンを!)を観て行かれると、よりスムーズに、より多く深く受け取れる。

効率というより、充実した体験のためという意味で。

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図録は図版、パネル解説に、さらにコラムや解説を追加した充実の内容。

これで2,500円は安い。

また1階売店では、月刊『歴博』のバックナンバーのコーナーにジェンダー史研究の特集が2冊ある。全国各地の郷土歴史館や歴史博物館の図録のコーナーもあり圧巻。

常設展のほうはこれまた物量か凄まじく、部屋も広大なので、第1室から順番にじっくり観ていたのではとても一日では見きれない。ある程度関心あるテーマを優先して観るのをおすすめする。わたしは民俗学に関心があるので、ほんとう第4室をじっくり観ればよかった。

 

とにかく徹底的に複製、再現して見せる展示方針に脱帽。今はこんなことまでわかっているのか!と驚くことしきり。

とても広いので楽な服装で、足元はスニーカーがおすすめ。

 

  

▼企画展は写真NGなので、途中からは常設展のようす。 

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▼このテーマに関連する、わたしのおすすめ本

    

 

 

 

ようやく『主戦場』を観る意欲が湧いてきたが、もうどこでもやっていない!

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▶︎追記◀︎

公式アカウントでも惜しみないシェアあり。

 

港区立郷土歴史館 鑑賞記録

また楽しいスポットを発見してしまった。

白金台にある、港区立郷土歴史館。

www.minato-rekishi.com




旧公衆衛生院の建物で、昭和13(1938)年に竣工。内田祥三の設計。
東京大学安田講堂東京大学小石川植物園、現拓殖大学・国際教育会館、を設計した人、と言えば、ああ!となる方も多いはず。

2002年まで公衆衛生院として現役で使われていたそう。


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港区郷土歴史館はもともと前身の資料館が三田にあって、2018年にこちらに移転してきたらしい。


2〜4階の一部が歴史館。
順路に沿って進みながら、この建物の部屋が、一つひとつ広さも形も違っているのが感じられて楽しい。
建築だけを見学することもできる。

建物全体は“ゆかしの杜”という名称の複合施設になっていて、歴史館の他には、がん緩和ケアセンター、学童、子育てひろば、乳幼児一時預かり、保健所関係、区民協働スペースなどが入居している。

 


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ここを知ったきっかけは、先日、中野区歴史民俗資料館に哲学堂の企画展示を見に行ったときに、チラシラックの中に港区郷土歴史館のパンフレットを見たこと。

そのあとたまたま見たNHKの番組のロケ場所がここの大講堂だったことがある。

郷土歴史館って、存在としてあまり華やかでないけれど、とてもおもしろいところ。今立っている「ここ」がどんな歴史の積み重ねの上にあるか、実物資料も交えながら見せてもらえる。特に東京は今と同じく、エリアによって全然成り立ちが違うのよね!

……楽しい!!

たとえば今回へぇと思ったのはこんなこと。

能楽明治維新を経て衰退の一途をたどったが、英照皇太后能楽の再興に尽くし、青山御所能楽堂芝公園能楽堂で催した。

・慈恵医大病院は、皇室と縁が深い。「慈恵」と名付けたのは、明治天皇皇后。

・港区には御用邸、御料地、皇室関係の施設が多数ある。江戸時代の前期には、武家屋敷、寺社が多かった。田畑はあまりない。町人の営む店舗なども、町人屋敷を中心として局所に集中していて、どこにでもあったわけではない。

・港区はその名の通り、東京湾と共に歩んできた。台場、芝浦、汐留。金杉橋から見える漁船に面影を見る。

・戦前から青山で果物屋を営んでいた紀ノ国屋は、1953年に日本で初めてのスーパーマーケットを開店。セルフサービスとレジ精算は画期的だった。

・新橋駅前には終戦日から数日後にヤミ市が立った。昭和22(1947)年2月には都内には約8万人のヤミ商人がいた。ヤミ市は昭和26年4月までに整理された。

・"大日本國防婦人會"のたすきの本物を始めてみた。漫画や映画ぐらいでしか見たことなかった。同じく、虎の絵と寄せ書きのある日章旗も。これがーー、、、

などなど。

港区民ならきっともっと楽しめるんじゃないだろうか。

白金台駅すぐ裏。

 

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▼広報誌『ときどき』のデザインを友人が手掛けているとあとで知る。すごい偶然。

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鳩森八幡神社薪能 鑑賞記録

何年も行ってみたかった薪能

初めての薪能鳩森八幡神社薪能

ほんとうは5月に開催の予定だったのが、感染症流行により延期されて、10月というタイミングに。

朝から雨だったのでヒヤヒヤしていたけれど、開始2時間前にさっと上がって、気温もそれほど下がらず、絶好の薪能日和に。

ヒヤヒヤといっても、よほどの荒天でなければ、基本催行されるものらしい。
神事ですね......。

実施はされるとしても観る方はそれなりに装備が要るので、どうなるか?と空を見上げながら考えていた、ということです。


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虫さんがひとり鳴いていてくれて、お囃子に音色を添えてくれたり、薪のはぜる音や燃える匂い、火の粉がはらはらと舞う様なども雰囲気たっぷりで。

平曲 竹生島
狂言 附子
能  経政

美しかった。
ただただ、美しかった。
シテ方の櫻間右陣さんの線の細い感じと、若く美しくて亡くなった経政のイメージが重なる。

ほんとうは美しいものを愛でていたかったのに、"戦い"に駆り出されてしまった人たちの悲哀を思う。
だれもが自分の幸せに添って生きられますように。

附子は、もう何度も観ているけれど、やっぱり笑っちゃう。サイコー。
狂言にももっと注目していきたい。

お能を好きになってくれた友人たちと、たっぷりと分かちあえて、ほんとうにいい夜でした。

 

▼虫の声はこちらでどうぞ。

 

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『越境する仮面文化』展@東京外国語大学 鑑賞記録

はるばる行ってきました、東京外国語大学

 


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中央線武蔵境で乗り換えて、西武多摩川線で2つ目の多磨駅下車。東京に来た年は武蔵境に住んでいたけれど、多摩川線には乗ったことがなかった。多磨駅ってどうして"多摩"じゃないんだろう。

 

きょうの目的はこれ。

越境する仮面文化展
http://www.aa.tufs.ac.jp/ja/event/exhibitions#mask2020


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この展示のことは、映画『タゴール・ソングス』の監督、佐々木美佳さんがTwitterでシェアされていて知った。(佐々木さん、ありがとうございます!)

写真パネルと解説、仮面の実物(撮影OK)、ビデオの構成。小さな小さな展示なのだけど、これは来てよかった。

イスラム教徒のヴェールには、地域によって種類も名前も違うことはうっすら知っていたけれど、仮面をつける文化は知らなかった。

しかも、髭のデザインの仮面が始まりという。16世紀初頭、ポルトガルがイラン南部を占領した際(これも知らなかった)、兵士から地元の女性が身を守るためという目的だったとか。だから女性だけが着用するもの。

ペルシャアラビア湾沿岸の文化らしく、国は沿岸諸国に広範囲に渡っている。多くの民族衣装がそうであるように、地理的特徴や各コミュニティごとに違いがあり、未婚か既婚かが仮面によって明示される。

ムスリム女性は髪を見せてはいけない、という掟(戒律?)を眉毛にまで拡張していて、眉毛が隠れるように仮面がデザインされているのが興味深い。

隠れてるといえるのか?というような枠の細いものから、顔全体を覆うようなものまで、サイズ、デザイン素材も様々。

未婚者が地味で、既婚者が派手というのは、どういう意味、意図があるんだろう。

実用としては、真夏の50℃を超える強い日差しから肌を守ったり、加齢によるしみ、しわ、抜けた歯を隠す面もある。アイライナーで目立たせた目元に注目させる効果も。このあたりは、今わたしたちがコロナ対策でしているマスクにも通じるところかも?だんだんとこの仮面のように一体感が出てくるのだろうか。「していないと裸になっているようで落ち着かない」ぐらいに?それで、なんとなくマスクしてる自分も撮ってみた。

行事や訪問先などのTPO、その日の気分でファッションアイテムとして楽しむ。
時代遅れで外したいと感じる女性もいれば、伝統を守るために積極的に着用する女性もいる。若い人たちの間では、アイデンティティを確かめるために再び関心が集まっているそう。

マスクは布製で、インディゴ染か、緑の光沢のある金をコーティングしたものが伝統。この布は120年前からインドで作られていて、現在はムンバイ1社のみ。現代風の仮面は素材もデザインもいろいろあって、仮面文化自体は形を変えて残っていきそう。

非日常の場で変身するためではない、日常のワードローブとしての仮面。おもしろい。
今後、映画や写真などで見かけたら、「あ!あの仮面文化の地域だ!」とわかるようになるんだな。楽しみ。

 

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追記)2021年2月15日の記事

globe.asahi.com

映画『うたのはじまり』鑑賞記録

仮設の映画館で『うたのはじまり』を観た。 

 

utanohajimari.com

 

コロナ禍で通常営業が困難になった映画館、その影響を受ける配給会社や製作会社など、映画の流れを止めないためにオンライン上に置かれたのが、仮設の映画館。

『うたのはじまり』は、ここで最後までラインナップされていた作品で、購入から24時間視聴可能なので、とりあえず購入だけしてこの日は寝た。

映画館はもちろんシネマ・チュプキ・タバタを指定。

 


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観てみての感想。

まずは注意書きの通り、出産のシーンはかなりリアルに映していて、直視できなかった。自分も出産の経験あるけど、人の出産を見るのが苦手で。。

齋藤さんが樹さんに歌う子守唄のシーンで、
これぞまさに「いつきの子守唄」!!と思った。

見る、聴く、触れるなど、映画を通しているのに身体感覚が拡張されるような、アップデートされるようだった。たとえば、七尾旅人さんはほとんど口を開けないで話すということに気づいた。

聴こえていても聴いていないことはたくさんあって、話せても伝えられないことはたくさんあって、わたしも声のバリエーションもっと持ちたいと思う。コミュニケーションに自由を与えたい。開放したい。

冒頭で「生まれてきた孫が五体満足でほんとうによかった。大満足」という言葉が出てきて、ギョッとした。それが突き刺さったまま映画を見ていた。

噂の小指さんの絵字幕はほんとうに素晴らしかった!
こんな体験したことない。これはスクリーンで観たかったなぁ。


このあたりのお話はオンライン舞台挨拶でされている。

1時間以上あるのだけど、とても見応えがあるので、映画のあと見るのがおすすめ。YouTubeでまだ公開中。誰でも観られます。

 

youtu.be

 



わたしにとってうたとはなんだろうなぁ。

機嫌がいいときにふと出てくる鼻歌が好き。
何も音楽をかけたくないとき、自給自足的に歌うのもいい。お料理のときにも歌う。
たまたま家族と同時に同じうたを歌い出すこととか、
息子が赤ちゃんのときに歌ったうたは、そういえば最近は歌わないかも。

あとは、和歌。詩。メロディだけ。
見知らぬ国の言葉で歌われるもの。

考えていくとおもしろいね。

 

〈お知らせ〉11/21(土) シアターで開催!ゆるっと話そう『アリ地獄天国』

11月の〈ゆるっと話そう〉が決まりました!
 

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『アリ地獄天国』🐜 🐜🐜 🐜 🐜🐜🐜 
 
不当な労働環境、待遇に対する3年にわたる闘いに密着するドキュメンタリーであり、理不尽な社会で生き残るためのロードームービー(労働映画)です。

公式サイト https://www.ari2591059.com/
 
この不安定で未熟な社会の中で、どうしたら自分らしく働き、自分の尊厳を保ちながら生きていけるのか。闘いを通じてたくましく変化していく人たちの姿から、ヒントや変革の勇気がもらえるような映画です。
 
労働、仕事、働き方、労働者の権利、ワークルール、会社組織の在り方、声をあげること(Voice Up)などに関心ある方もぜひ。
 
2020年11月21日(土)20:50〜21:50(当日上映終了後)
久しぶりにシアターで開催します!うれしい!
 
そしてなんと、土屋トカチ監督も参加者として一緒に感想をお話してくださいます。
すごい!!!
 
映画をご覧になった方なら、別の日に鑑賞されても、他館で鑑賞されても参加大歓迎です。これから観る方はぜひチュプキで^^
 
▼お申し込みお待ちしております。
 
▶︎感染症予防対策◀︎
・密にならないよう、席数を絞り、事前申し込み制。
・劇場内には自動換気システムがあります。
・劇場扉を開けて換気しながら、席間を空けて行います。
 
 
▼わたしの感想メモ
 

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ゆるっと話そうはこんな場!

hitotobi.hatenadiary.jp

 

鑑賞対話イベントをひらいて、作品、施設、コミュニティのファンや仲間をふやしませんか?ファシリテーターのお仕事依頼,場づくり相談を承っております。

seikofunanokawa.com

『月岡芳年 月百姿』展、鑑賞記録

友人から能『安達原』を見に行ったと聞き、

「太田美術館の月岡芳年展で安達原の浮世絵あるよ」と紹介したら、
「月百姿の定家の寝姿がよかった」と報告あり、

月百姿を調べていたら、ちょうど川崎浮世絵ギャラリーで展示をやっており、一緒に見てきた。

この素晴らしき展開♡

 

ukiyo-e.gallery

 


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すんごいおしゃれでポップなPV観てるみたいな、肉眼では絶対に見る事のできない瞬間を"捕らえて"見せてくれている。
カッコよくて、美しくて、たまらんかった。
漫画の原画を観たときの感じに似てる。

古典からの教養と確かな技術を注ぎ込んだ、芳年的美学の結晶。

東京都美術館の浮世絵展で学んだことも使え、よき鑑賞でした。学びがつながる。

川崎浮世絵ギャラリーの次回展示は、#小林清親 展ですって。これまた好きな浮世絵師!浮世絵の最後の世代の人たちですよね、確か。楽しみ!

『すみだ向島EXPO』鑑賞記録

2020年10月。

友達に「おもしろかったよ!」と教えてもらった、すみだ向島EXPOに行ってきた。

sumidaexpo.com

 


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墨田区の京島(きょうじま)、文花(ぶんか)エリアを中心に巡ってきた。

 

奇跡的に空襲を生き残った多くの長屋、平屋。暮らしてきた、使ってきた人々の気配。家と外が近くて、人と近い。

東京の他の下町に似たところもあり、違うところもあり。

まちと人をつなぐアート。

真ん中にアートをすえることで、さらにエネルギーを持つ土地。

人の行き交いにより、次から次へと生まれる場。

人口過密な東京のまち。

ごちゃごちゃして息苦しくて片付かなくて。

わたしはここで生まれ育ったわけではないのに、なぜか落ち着く。

狭い中にもいろんな表情があり、営みがあり、気質があり、文化がある。

広い空間や自然を求める気持ちもありつつ、わたしはやっぱり"ここ"が嫌いにはなれないのだよなぁ。

 

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『もうひとつの江戸絵画 大津絵』展、鑑賞記録

2020年10月。

 

待望の大津絵展に行ってきた。

www.ejrcf.or.jp

 
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"欲しい!欲しい!欲しい!"
のキャッチコピーは、大津絵コレクターたちの魂の叫びを表している。

大津絵自体は、ある程度、認知されている前提で、美術館ならではの企画として、コレクターの紹介をしている。

大津絵が展示されているのは博物館であることが多く、美術館(Art Museum)の企画は珍しい。

日本民藝館からの出品が多く、表装もセンスがよくて、さすが!という感じ。

宿場町の土産物として、小銭で買えるような額で売られていたものなので、無銘。フォーマットはあるものの、個性が滲むところがおもしろい。この個性は作った人だけでなく、コレクターによって好みがあるのがモロに出ているのがおもしろい。この人は端正なのが好きなのだなとか、わりと豪胆な筆致のものがいいのか、希少さに惹かれているのか、などさまざま。

コレクションっていかにも旦那衆の趣味っぽいなァ、と思っていたが、わたしも大津絵と聞くと放っておけないので、似たようなことをやっているのかもしれない。

一緒に観に行った友だちと、最近土産物屋ってのぞかないけど、自分たちのこどもの頃の記憶でいえば、大津絵ってどういうものに当たるんだろうね、と話した。また、当時絵を描く習慣もなかったであろう一般庶民や、伊勢参りの帰りに立ち寄った旅人の気持ちになって、眺めてみたりした。



昨年、noteで『大津絵を愛でる』というおしゃべりを配信した。ご興味ある方に聞いてもらえたらうれしい。

note.com

朗読劇『日の名残り』鑑賞記録

2020年10月。


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カズオ・イシグロの『日の名残り』の朗読劇。
なぜか本で読めなくて、5回ぐらいトライしたんだけど、だめだった。

他のイシグロ作品は全部読んだのに。

うーん、ここは演劇の力を借りるしかないなぁ……と前々から思っていたところに、あうるすぽっとからのお知らせで見かけて、最後の1席に運良くすべりこみ!
わたし偉かった!!よくやった!

 

生のお芝居。いやーよかった。

執事のスティーヴンス役の眞島秀和さんは、『おっさんずラブ』の人として認識していたけれど、生の声の美しいこと!
そして端正な佇まい。実直で品格あり冗談も言えない執事の役がピッタリ。

全編が主人公のモノローグでできてるので、眞島さんがひたすら語り続けているのを聴くという、よい波動を浴びた感。



おっさんずラブ』ファンの友だちとやり取りして、事前に楽しみをふくらませてもらえたのもよかった。ありがとう。

他の俳優さんたちは、セリフのみ演じられていて、その間合いも、声も、存在感もそれぞれによかった。小島聖さんの少しかすれたような声も魅力。

桂やまとさんが一番たくさんの人物を演じていた。

演じ分けられていてすごい。

マキノノゾミさんは、スティーヴンスが敬愛していた卿らしく、堂々たる風格。

以前観たことのある朗読劇がもっと動きが激しかったので、横一列に並んだ椅子に座っているスタイルに、最初は少し戸惑った。

あれはソーシャル・ディスタンス演出ということなのかしら。



そうか、こういう物語だったのか。

人生の落日にふりかえる、無数にあった岐路、葛藤、後悔。
信念、あるいは、そう生きざるを得ない宿命。時間の贈り物。

そして人生は続く。
この舞台を観て以来、夕方の美しさがいっそう沁みる。

METLV『真珠採り』鑑賞記録

2020年10月。

METライブビューイングのアンコール上映 にて、2016年のビゼー『真珠採り』を鑑賞。

http://met-live.blogspot.com/2015/07/2015-16-05.html

 

こちらのレビューで、

note.com


「METでの再演が100年ぶりとのことで、お蔵入りになるどんな理由があるのかと思いきや、これはもっと有名になってもよい作品では?」とあり、「これは観なくては!」と珍しく10日前から予約を入れて楽しみにしていた。

 

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2時間35分の上映時間も、オペラにしてはめちゃくちゃ短い。気軽。
ここから解説やインタビューなどをのぞくと、本編は2時間弱。
休憩1回。オペラ初心者向けかも。

レイラ役のソプラノ、ディアナ・ダムラウの美声、どこかで聴いたことが?と思ったらYou Tubeにあがってるロイヤル・オペラ・ハウスの『魔笛』夜の女王のアリアだ!

あんな高音をピアニッシモで美しく、しかも決して弱々しくなく、奏でるように歌う……素晴らしかった。彼女が今回の再演をゲルプ総裁に提案したという。
そういう経緯もよい。

バリトンのマリウシュ・クヴィエチェン、いいなぁ、また聴きたいなぁと思ったら、「歌手からは引退」ときのうのツイートで見てびっくり。

演者、歌手の活躍する舞台との出会いはほんとうに一期一会なのだな。
大切にしようとあらためて。

物語としてはわりと、ツッコミどころ満載。
だけど、人の言いなりでふわふわしていたレイラが、愛に目覚めたことから、自立していく様子は、どこか「源氏物語」の浮舟を想起させた。

海に潜る危険な仕事。保安と豊漁を祈ってくれる巫女への期待は、相当大きかったはず。それだけに、裏切りが発覚したときの怒りもまた大きかったろう。
あの狂気はどこか身に覚えがある。

プロジェクション・マッピングとワイヤーロープが効果的に使われていて、海に潜るシーンは音楽と相まって、心地よく、夢のよう。
一点、幕間で津波の映像がスクリーンいっぱいに映し出されていたのは、かなりキツかった。目を閉じてやり過ごした。これは日本でかけるときは、事前にアナウンスする等、配慮が必要な演出かと思う。

貧しく閉塞的なコミュニティと信仰との結びつきや、歪みのある三角関係は、『ポーギーとベス』にも似る。舞台が海辺で、始終薄暗く設定されているところも。

歌唱(独唱、二重唱、合唱)、音楽、構成どれも素晴らしく、短い中にもドラマがあり、あっという間の2時間半。

また別演出、別キャストで観てみたい。
今季のアンコールはこれで〆。

豊かな時間に感謝。

森鷗外記念館『森家の歳時記』展 鑑賞記録

2020年9月の終わり。

 

森鷗外記念館。

開館してからずっと来たいと思いながら月日が流れて、ようやくタイミングが訪れた。

わたしは森鴎外という人をずいぶんと誤解していたのかもしれない。
初めてちゃんと出会えた気がする。
国語の教科書に載っていた『舞姫』が衝撃的すぎたんだと思う。
つまり、印象が悪い。
でもあれは、初期の代表作であって、ほんの一部だったことを知った。

あの時代に、家柄もよく、才能にあふれ、恵まれていた一握りの人間。

軍医と作家の両方で出世して、何不自由なく生きていた。

......と思っていたのだけれど、どうもそうとも言いきれないようす。

 

文京区立森鴎外記念館 

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AVルームで流れていた映像もよかった。
加賀乙彦安野光雅平野啓一郎森まゆみ
著名な方々が語る鴎外作品の魅力もよかった。
紹介されていた作品から読み直してみようかな。

四季折々、森家の愛ある暮らしを見せてもらえて、ほくほくしながら家路についた。

ちょうど今、明治、大正、昭和の家族や暮らしについて調べはじめたところだったので、資料としても貴重だった。

記念館の図録は毎回つくりが凝っていて、コラージュブックのように楽しい。
テーマもいい。バックナンバーを2冊購入。去年から追っている樋口一葉にも言及してある。

モリキネカフェは、静かで落ちつけるのでおすすめ。
読書やインタビュー収録にぴったり。カフェのみの利用もOK。

徒歩2分の文京区立本郷図書館には、地下一階に森鴎外関連本コーナーがある。

 

 

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