ひととび 〜人と美の表現活動研究室

観ることの記録。作品が社会に与える影響、観ることが個人の人生に与える影響について考えています。

映画「沈没家族」を観た

f:id:hitotobi:20170921083556p:plain


Pia Film Festival(PFF)のPFFアワード2017作品の一本、「沈没家族」というドキュメンタリー映画を観てきた。

映画周辺の仕事をしたい!と漠然とした気持ちだけで上京し、映画ビジネスを学び、映画製作にもほんのちょびっとかかわるという経験をしてきたわたしにとって、PFF作品を観に行くというのは、旧友に会いに行くような心持ちだった。上京当時はアルバイトもしていたが、とにかくほぼ毎日映画を観ていた。

今回の会場である、京橋にある東京国立近代美術館フィルムセンターは入場料も安く、一日に複数本上映されているということで(たしか入れ替えもなかった?)、入り浸っていた映画館の一つだったので、懐かしさひとしおだった。一昨年、息子と夏休みに活弁を聴きにきたりもしたのだけど、やはり20年前の記憶のほうが鮮明だ。

 

この日は、ことほぎラジオ第4話にゲストで来てくれた友人の高橋ライチさんと一緒に観に行った。彼女はかつての「沈没家族」の重要な構成員の一人で、この映画にも娘さんと出演している。

沈没家族については、彼女から折に触れて聞いていたし、別件でインタビューをしたときに詳しく聞いた。Wikipediaにだって載っている。なので、実際の映像を観て、「ああ、話には聞いていたけれどこれが…!」という感慨深い思いだったし、映ってる人が隣にいて、それが友人でもある、なんてことも生まれて初めてなので、その自分の中の混乱ぶりがおもしろかった。混乱といえば、PFFやフィルムセンターに行くことがわたしにとって20年前の出来事と重なるのに、映画の中でも20年前へ遡及していて、時間の感覚がおかしくなって一人でふらふらしていた。

映画は、監督の加納土さんが当時の関係者たちにインタビューをする形で入っていく。しかし次第に、土さんにとって、母にとって、父にとって、沈没家族とは、あの時代はなんだったのか、自分にとって家族とは何かに迫ってゆこうとする意思が形をとりはじめる辺りの濃度が高く、ぐっと引き込まれた。それはつまり「なぜこれを映画にするのか」という問いへの彼の答えでもあった。生い立ちを訪ねるドキュメンタリー映画はテーマとしても手法としても珍しくはない。膨大な記録の中から、何を残し何を捨てるのか、自分が張本人の物語だけに難しいし苦しい局面もあろうかと推察する。なぜ記録するか、なぜ他人に見せるかも含め...。

沈没家族が行なっていた共同保育を、何かの思想や反社会的な活動と観る人もいるのかもしれないが、きっかけや動機はなんであれ、子どもの育ちに見知らぬ大人が大勢で本気で考えている姿を見て、わたしはなんともあたたかな気持ちになった。育む、かかわる、手をかける、共にいる、心をつかう、愛を伝える…...。形態の奇抜さもありつつ、それだけにとどまらない魅力がある。ネタでもなくイデオロギーでもない、一つの個人的な家族の物語。この映画を起点に立ち現れてくる何かは、これからの「家族」関係の変化や土さんがこれからつくるであろう家族の存在も予感させ、物語ははじまったばかり、という希望に満ちている。(実際、彼はまだ20代前半なのだし)

羨ましいような理解し難いような。笑えるような泣きたいような。記憶と関係を結び直しながら今も生きる「家族たち」に愛おしさがわく。当時と今とそのあいだの時間をしみじみと感じられる映画だ。

 

わたしはこの映画を関係者から直に話を聴くことから入っているので、すごく知っているようであり、でも関係者ではなく、でも初見の観客でもない、という不思議な立ち位置にいる。内容的にも「人の手を借りながら子どもを育てていく」というところで、個人的に目を逸らせない部分をもった映画だ。単一の属性で切って共通することなんてほんの少しと思っているし、穂子さんとわたしは人間が違うし、状況も環境も違うのだけど、映画の中で彼女の話してることやその様子は、共感して余りある。対する立場の「山くん」にも思うところがある。他人の話なのにまるで自分のことのように感じられてしまった。そうなると、わたしにとっての家族についてもやはり考えざるを得ない。それはしんどくもあり、あたたかくもある物語だ。

 

この映画や映画に出てくる人たちに全く関係したことのない他の人は、ここに何を観るのだろう。とても興味深い。ぜひとも感想を聴きあってみたいと思う。

 

「沈没家族」は京都国際学生映画祭2017にも入選したそうで、11月25日(土)〜12月1日(金)まで京都シネマ(COCON烏丸3F)で上映されるとのこと。関西の方、ぜひ!!

 

 

▼最後にみんなで撮ってもらった写真。終了後に加納土監督と沈没家族メンバーの藤枝奈己絵さんともお話できてよかった。

 

 

▼ライチさんのブログ(沈没家族に関係するもの一部)

ameblo.jp

 

ameblo.jp

 

ameblo.jp