競技かるたの読手講習会を受講してきました。競技かるたの対戦で歌を読む役割の人を、「読手(どくしゅ)」といいます。
競技かるたには決まった読み方があります。はじめて聴いたときにはその平坦さ、抑揚のなさに驚きました。小さい頃、家で父親が読んでくれたような読みとは全然違う...。でも競技をするようになって、その理由がわかりました。
競技かるたは、「決まり字」と呼ばれる最初の1つから6つの音が命。千分の一秒の速さを競う世界では、音に抑揚や色がありすぎると邪魔になります。一試合約80分の競技時間中に読まれる最大百首の歌は、同じトーン、同じスピード、同じ伸び、同じ間合いで読まれることが、スポーツ・武道としての競技かるたでは大前提になります。もちろん、同じ調子で読むとはいっても、リズミカルで、やはりそれが歌として聞こえているところも大切。読み一つとっても型があるところが、カードゲームとしてのお座敷かるたとは違うところ。
「正確にというなら、機械に読ませればいいじゃないか」......とはならないところが、わたしは好き。人の生の声で、不確定要素もはらみつつ読まれることによって、読手と選手の間に不思議な交換が生まれるのです。
講座は、この世界では大変著名な読手の方が講師を務めてくださり、一人ずつ序歌と三首の計四首を読んで講評いただく時間はすごく緊張しました。とても上手な読みをされる方ばかりの中で、「初心者らしく下手!」と太鼓判を押していただき、ようやくホッとしました。ポッドキャストや読み聞かせをしているから、人前で自分の声を出すことには慣れているはず、という気持ちが余計なプレッシャーを与えてしまっていたので、自分の読みは全然通用しない!という現実がむしろ清々しかったです。読手の美声にも間近でふれられ、濃い三時間でした。しかもお茶とお菓子まで出していただける。主催の方々のお気持ちがうれしい。
この講座は資格を得る、または更新する人にとっては必要な場ですが、わたしの今のステイタスでは、出たからといって何かがもらえるわけではありません。あくまで自己研鑽のため。これからたくさん実戦で読んで経験を積み、勉強することが、会やコミュニティへの貢献にもなるし、競技自体によい影響を与え、ひいては、わたしが競技かるたを通して知りたいことにつながっていくのではないかと思います。
この日は3月11日でした。14時46分、わたしたちはひたすら真剣に歌って過ごしていました。わたしたちのグループだけでも、20人分が歌われた序歌。
春を、世をことほぐ一首に聞こえました。