METライブビューイング2018-2019シーズン、
に続いて、「マーニー」を観てきました。
ヒッチコックも映画化した心理サスペンスが、若き鬼才作曲家の手でオペラに!美貌と美声のI・レナード演じる謎めいた美女マーニーの秘められた過去とは?シックでオシャレなM・メイヤーの演出や魅惑的な衣裳も見逃せない話題作!
ということで、
新作ってはじめて!へー、オペラってこんなモダンなのもあるんだ!
いつも幕間でナビゲートしてくれてるレナードさんてオペラ歌手だったんだ!
わー、15回も着替え?素敵な衣装!!
...などなど、予告やインタビューなどでかなり期待が高まっておりましたが、
いやー、もうほんとすばらしかった!観に行ってほんとよかったです。
その魅力をわたし目線で4つご紹介したいと思います。
鑑賞行動に影響を与える可能性がありますので、未見の方はご了承の上、読み進めてくださいね。
①スタイリッシュな衣装、メイク・ヘアスタイリング
やはり期待していたのも一番印象に残っているのもこれ!
一点一点のファッションが彼女(レナードでありマーニーであり)のためだけに一分の隙もなくぴったりに採寸され縫製されていて、それを着こなしていたイザベル・レナードがめちゃくちゃクールで!!
わたしの短いオペラ鑑賞キャリアの中で、オペラ歌手のイメージを一番壊してくれたのは彼女かもしれません。
ツイッターをやってるとインタビューで話していたので、探してフォローしてしまいました。I s a b e l (@IsabelLeonardNY) | Twitter
50年代のイギリスという時代の雰囲気や、マーニーの複雑で人物像や感情の動き、緊張と不安に満ちたストーリーをファッションやスタイリングはとてもよく表現していました。
衣装のアリアンヌ・フィリップスの他のお仕事ってどんなだろう?とこの記事を読んでいたら、この映画も見たくなってしまった→
映画監督トム・フォードを支える衣装デザイナー、アリアンヌ・フィリップスが語る『ノクターナル・アニマルズ』の見どころ。|ファッションインタビュー(流行・モード)|VOGUE JAPAN
纏うものによって人間が影響を受けるという記事、なんだか関係がありそう→
軍服だけで権力を手にした男の驚くべき実話。映画『ちいさな独裁者』監督インタビュー | ハフポスト
②ヒッチコックの映画との相違と相乗効果
ウインストン・グレアムというイギリスのミステリー作家が1961年に書いた「マーニィ」という原作があり、それを1964年にヒッチコックが映画化しています。
やっぱり予習大事よね!!ということで、前日にアマゾンプライムで観ていたのですが、どうも観終わってから気分が落ち込みました。苦悩する女性を描いてはいるけれども、マーニーへの共感や救済のようなものはあまり感じ取れなくて、設定をプログラムした人物を操るような、人間の性をじっと観察しているだけのような、ヒッチコックの眼差しの冷たさや意地の悪さを感じるような体験でした。あと、これは当時は問題なかったかもしれない、トラウマなど精神的に困難を抱える人への接し方や、女性への接し方、女性の描き方として、それはアウトだろう...というようなシーンがあったりもしました。
なんとなく耳に残っていた"decent"という単語がやはり物語の鍵だったようです。
「まともな」だけじゃない「decent」の意味とネイティブの使い方 | 英語部
いろいろと書いていますが、しかしこの映画を観ておいたのはとてもよかったのです。
オペラ版は、映画版と物語の流れ方はほぼ同じなのですが、設定の部分がだいぶ変わっているし、やはり表現形式が全く違うので、別の物語と考えよう!と臨みました。
さらにオペラのほうでは、演出や作曲や美術や演技や歌唱によって、マーニーやマークの複雑な内面や揺れ動く感情が丁寧に表現されていて、映画では悶々としてしまった部分が、だいぶ解消されました。…という以上に、最終盤では思わず涙があふれるほど心動かされました。
「オペラというのはストーリーはシンプルに、複雑な感情を表現するものなのだ」と幕間のインタビューで話されていて納得でした。
逆に映画のほうではスルスルと理解できていた母親の人物像や、マーニーとの関係性が、オペラのほうではもう少し必然性がほしかったなという設定や表現になっていました。
この、似て非なるもう一つの物語も起動させながら、今目の前で展開している物語に集中して、二つを同時に補完しながら自分の中に落としていくという鑑賞体験は、これまであまり体験したことがなく、興味深かったです。
漫画の実写化などで体験していそうなことですが、それとはちょっと違うような体験。一体何が違ったんだろう。
③新作オペラならではのチームワーク
合間のインタビューで語られていて、「作曲家が生きているから」というくだり。新作オペラでは作曲家と一緒につくれるから、「質問したりディスカッションしながら、一から一緒に作れるのがうれしい」とか「失敗して恥をかかせなようにしなきゃって思った」ということが起こる。
他の表現形式で実験された作品を、同時代の第一線で活躍するアーティストたちがチームを編成して、喧々諤々の議論を重ねながら、オペラという形式ではじめて作っていく...。同時代ならではのエネルギー。これが楽しくないわけがないだろう!と想像してわくわくします。
古典のオペラも好きだけれど、その芸術がその時代の人たちに必要とされながら継がれていくためには、このように新しい風も入れながら、刺激を与え合い、ストレッチしながら変わり続けていくことが大切なのだろうと思います。
私事だが、NYでこのオペラ(マーニー)のチケットを持っていながらコンサートのリハーサルで行けなかった僕にとって、このライブビューイングはほんとうにありがたい、感謝である。
との久石譲さんのコメントを読んで、そうか、そういうニーズにも(ニッチすぎるけど)マッチしてしまうMETライブビューイングは、やっぱり素晴らしいイノベーションだったなぁと思ったのでした。
④今、これをオペラ化する意味
映画との対比ではより強く思ったし、METLVだけ観ていても感じられることだけれど、今の時代にこれを上演することの意味が大きい。根底にあるテーマは、「性(セクシャリティ・ジェンダー・セックス)と暴力」だと感じました。これまでもこれからも、時代も国も超えた人類のテーマであったこれが、これからどう変わっていくのか、わたしたちはこのように解釈し、今、このように表現しました。あなた方はこれをどのように観ますか?と問われたようです。新作オペラを創る意義は、残していくということもあるけれども、社会の価値観の再考を促すという面もあるのでしょうね。
ふと、この2冊の本が思い浮かびました。
それぞれのシーンの観察や発見やら、ニコ・ミューリーとビョークの音楽世界とのリンクやら、友人とはひとしきり語ったんですが、まだここには書けないですねぇ。書くところに落ちていくまでってやっぱり時間がかかるのかな。
ご興味ある方はぜひぜひ観ていただきたいです。
METLVは1作品の上映期間が短くて、今回は2019/1/24までなので、急いで、足を運んでみていただけたらうれしいです。
METライブビューイング「マーニー」ウェブサイト
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“私にとってオペラは あらゆることが起こる可能性があるマジカルなスペース”
https://www.shochiku.co.jp/met/news/1696/
今回も観終わってから友人らと感想の場を1時間、劇場近くのバーでクイックにつくって語りました。新宿ピカデリー出てすぐ、伝説のJAZZ BAR"DUG"にて。
一緒に観た友人Aさんと、その日の夜に観る予定の友人Bさんと三人で話していたのですが、これもなかなか楽しかったです。
Bさんは気持ちを高める&予習として、強い関心をもちつつフラットに聴いてくださり、Aさんとわたしは、「ここは事前情報なしにはじめて出会うほうがいいぞ」という部分には注意深くなりながらも、生まれたての感想を聴いてもらえ分かち合え、とてもいい時間でした。
つまり、「体験の分かち合い」と「その世界に入る橋を架ける」は同時に行えるということなんですね。
自家製ミートパイ。
・何を観たのか、聴いたのか、そこから何を感じ、考えたのか。
・自分の知っていること、これまでの体験と関連づけられることは何か。
感想を語り合える人がいること、その場があることが、鑑賞体験を深く濃く自分に関係あるものにしてくれます。
場が自給できると、人生が豊かになります。
相互的で深い鑑賞体験を通して、作品やその分野への関心を高めることができます。
★企業や団体の方
・映画、演劇、オペラ、展覧会、読書会など、販売促進や教育普及などを目的とした鑑賞イベントの企画運営をお手伝いします。
・鑑賞の場のつくり方やファシリテーション講座を実施します。
★個人の方
仲間を集めて鑑賞を楽しむ場をこれからつくりたい方や、すでに運営していてアドバイスがほしい方に、対面またはZoomにてコンサルティングします。
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