ひととび〜人と美の表現活動研究室

他者の表現にふれることから、自分の中にある美の感覚にもふれてみる、自分の美を表現してみる。みんなで探究する鑑賞の場づくりを通して考えることなど。

知る由もないだれかの心象風景〜映画「海がきこえる」感想

★初めて観る方の鑑賞行動に影響を与える可能性のあることが入っています★

 

7月に高畑勲展を観に行ったのと、夏休みになって暇を持て余した息子が、宮崎駿作品を片っ端から観まくっていたのとに影響されて、スタジオジブリの過去作の「海がきこえる」を観た。

 

望月智充監督、氷室冴子原作、1993年公開。

 

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海だしと思ってネッシー人形置いてみたけど、よく考えたらネス「湖」だった...。

 

 

感想としては...、とにかくとても不思議な作品だった。

 

1993年当時、わたしは高校3年生だったので、映画の中の登場人物たちとだいたい同じぐらいの年齢。

だから、「ああ、こういう物を使っていたな」とか、「こういう時代だったな」という自分自身の人生との重なりからの懐かしさも感じた。

夏目漱石の小説からの影響や、逆にこの作品のあとに作られた映画への影響も感じられた。(直近では新海誠作品)

画面は美しく、人物の動きや表情も繊細で生き生きとしている。

人間ってこういう「機嫌が悪いの?」「黙って何考えてんの?」みたいな表情...感情がわかりやすくない表情でいることが多いよな、と思う。そういう点で、わざとらしくなくて、リアル。

なにより夏の日差しや光と、それに映し出されるまちや学校の風景が美しい。

 

色が鮮やかで、なんとなく、わたせせいぞうの「ハートカクテル」を思い出す。

 

映画を観た今は8月なのもあって、現実とファンタジーがオーバーラップする感覚も楽しかった。

物語を運んでいく高知の言葉が耳に心地よい。

 

海がきこえる」というタイトルも、たった6文字でいろんな風景を想像させる。俳句のように美しい。

 

72分という中編も合っている。この尺である理由は、もともとTV番組として作られたからなのだが、「判型の違う小説の単行本」みたいでちょっと楽しい。
短編よりも長くて、長編よりも気軽に観られるっていい。

 

 

...なのであるが......、

 

どの登場人物の心情も行動も「ああ、そういうことってあるよね」と思えるようなものがあまりない。

「えーなんでそうなるんだろう」「え、そこでそれ言う?」「気になるのって、こっちじゃなくてそっち?」など、終始「????」がいっぱいになった状態で、美しい画面が進んでいく。(ちなみに音楽もとてもいい)

 

主人公の男性・杜崎拓のモノローグで物語は進んでいくのだが、感情表現があるようでなく、その行動に至った経緯や、彼をそのような行動に駆り立てるような必然性が見えて来ない。

彼が尊敬の念を抱いている親友の松野豊とも、好意を寄せる(とあとで気づく)武藤里伽子とも、不思議な熱量とコミュニケーションで付き合っている。

 

 

高校生や大学生という設定も、今の時代から見ると違和感があるような、ないようなところも不思議だ。当時はみんなあのように大人びていた気もするし、今の時代でもこういう高校生はいそうな気もする。

いずれにしても自由さがあって、閉塞感や悲壮感はない。そのあたりは時代の雰囲気なのかもしれない。いや、当時も閉塞感はあるところにはあったけど、描いていなかっただけなのか?でも高知でずっと生まれ育った高校生が、いきなり東京にきて、一人で自由行動して迷わないってすごいよね?いや、でもできる人はできるのか?

 

うーん...ぐるぐるぐる...。

と、鑑賞直後は、ただただきょとんとしていた。

 

それが、一夜明けてみてわかった。

 

わたしが過去に関係を結んだことのない、あるいは結ぼうとしてかすることもできなかった人の心象風景って、このようなものかもしれない!!

なんか話が通じないとか、不思議な人だなぁとか、一体どういうフィルターで世界を見ているんだろう、とわたしが思うような人が見ている世界ってこんなふうなのかもしれない。

心象風景だから、杜崎拓から見える武藤里伽子の像は、他者にとってはわかりやすく魅力的ではない。というより、「え、こういうこと言ったりしたりする人に惹かれる意味がようわからん」となる。そこに説明的な橋がかかっていないし、記号的な誘導もない。

にも関わらず、わからないなりにも、杜崎拓には謎の飄々とした魅力がある。自立していて、自分で決めていて、他者との境界が明確で、健やかな人なんだろうということはわかる。深く考えないところが、彼の良さなのかもしれない。(深く考えない人の心象風景とも言える)

 

里伽子の心情については、一部想像できるものはある。親の事情で生まれ育った東京から、いきなり言葉の違う高知に連れて来られて、クラスに馴染みたくない、こうするしかない、という転校生の孤独さとか、母親に反発して父親とのつながりを支えに日々を過ごしているが、実は父親のほうは「裏切って」いたという衝撃。

ああ、自分の人生にもあったかもなぁという感じはする。

しかしこの人の物言いは、杜崎フィルターがかかっているとはいえ、表面的にはひどい...。

 

知る由もないだれかの心象風景を見せてもらっていると考えると、合点がいった。

作品を通じて覗ける、想像できるって貴重なことだな、という気さえする。

 

 

......これを読んで観てみたくなる人がいるのかどうかわからないけど、興味がわきましたら、ぜひ。

全然違う感想を持つかもしれないですね。

それが鑑賞の楽しさ。

 

何を受け取るかは自由!

 

 

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