ひととび 〜人と美の表現活動研究室

観ることの記録。作品が社会に与える影響、観ることが個人の人生に与える影響について考えています。

NT Liveデビュー!『リチャード2世』

MET Opera,  Royal Opera Houseとライブビューイングものを観てきましたが、最近になって英国ナショナル・シアターもライブビューイングをやっていることを知りました。日本では2014年に上映スタートしたそうです。

 

▼NTLive日本版ウェブサイト

www.ntlive.jp

 

▼いろんなライブビューイングの紹介記事

otocoto.jp

 

存在を知ったときには今シーズンがもう終わりかけで、残っているのは「リチャード2世」のみ。とはいえ、やはり最初はシェイクスピアを観たかったので、ちょうどよかった。


 

リチャード2世

www.youtube.com

原題:The Tragedy of King Richard the Second

上演劇場:アルメイダ劇場(ロンドン)

収録日:2019/1/15 尺:1時間48分(休憩なし)

作:ウィリアム・シェイクスピア

演出:ジョー・ヒル-ギビンズ

出演:サイモン・ラッセル・ビール、レオ・ビル ほか

作品概要:王権の簒奪をテーマにしたシェイクスピア劇。英国王リチャード二世の栄光と王座からの転落、そしてボリングブルック(ヘンリー4世)の台頭を描く。タイトルロールを担うのは、NTLive Japanには2014シーズンの『リア王』以来の登場となる名優サイモン・ラッセル・ビール。無理やり退位させられ、その後幽閉されたリチャードの長い独白などの見せ場をどう演じるか? 気鋭ジョー・ヒル-ギビンズの演出共々、お楽しみに。(NTライブHPより)


NT LIVE official website:

http://ntlive.nationaltheatre.org.uk/productions/ntlout32-the-tragedy-of-king-richard-the-second

 

 

----感想をつらつらと----

  • とにかくものすごい心理劇、サイコスリラーだった。
  • 舞台美術からして閉塞的なつくりになっている。気分的には映画『CUBE』みたい。
  • 音がどれも不快で、突然鳴ったり、ずーっと鳴り続けたり、だんだん音が大きくなったり、焦燥、緊迫、危機的な感じ。
  • この演出と美術にはやられっぱなしで、1時間55分、ずっとドキドキしながら観ていた。えらいものを観に来てしまった!と思いながら。演劇はこういう身体感覚がどうなるかが観るまでわからないところがちょっと怖い。怖いと言えば、演劇に特有の表現で、「大声で叫ぶ」「怒鳴る」というものがあって、これが苦手な人はいるかもなぁと思う。鑑賞の対象にするときは気をつけたほうがよさそう。
  • リチャードは10歳で即位し、王以外の生き方を知らずに、外の世界を知らずに32歳で廃位させられ、33歳で死去。その間起こっていたのは、愚行、慢心、謀反、自己不信、未練、孤独、絶望、自己喪失。リチャードだけでなく全員が何かしら常に引き裂かれている。安寧からは程遠い。
  • リチャードがしきりと手を腰のあたりにすりつけたり、手の汗を拭くような仕草がメンタルが弱っている感じを出していてリアル。自分で「臆病の発作」と表現。
  • 権威や権力の虚しさを知らないはずはない。そういう時代、そういう立場で、覚悟はあるはず。しかし、いざ自分から奪われるとなると、所詮他人事としか見ていなかったことに気づく。この何者でもなくなる恐怖や凋落の恐怖に慄く感じは、観ている自分は王ではないけれども理解できるし、覚えのある感覚がずっと心臓に張り付いている。
  • 冒頭のインタビューで、スラップスティックコメディの要素もあると言っていたし、途中でスクリーンの中の劇場か、またはリアルの劇場かわからないけれども笑いが起きていて、びっくりした。「ここ笑うとこなの?!」という。やはり異なる文化圏のユーモアは難しい...。
  • 王笏(おうしゃく)という物、読み方を覚えた。
  • 独白シーンの科白が一つひとつ詩で、美しい。特にクライマックス。「私の魂を父とし、頭脳を母として思考を生み出す」のあたり、もう一度聴きたい。I waste time. Time waste me.とか。
  • 「幼子よ来たれと言うのに、神の国に入るのは難しい」というくだり、聖書の言葉の「矛盾」(受容と拒絶がいっぺんにある感じ)を指摘していて、「やっぱりそうだよね?!」と言いたくなった。わたしもこれはずっと思っていたのだ。
  • ボリングブルック役のレオ・ビルのインタビューで「道徳を越えたドラマ。善人と悪人を描いているわけではない。ヘンリー4世がリチャード2世よりいい王になるとは限らない」というインプットを経て、舞台を観ていて思ったのは、日本でもこういう話ずっとあるなぁということ。「平家物語」「忠臣蔵」「新撰組」、本能寺の変関ヶ原の合戦大坂夏の陣などなど、非常に好まれていると感じる。謀反と凋落、束の間の栄光。どちらが善人か悪人かというわけではない物語。なぜ観たくなるんだろう。原題は、The tragedy of King Richard the second どのような悲劇を観たいのか。
  • その世界しか知らないから、出るのが怖い。"落ちぶれる"のに耐えられない。肩書きをなくしてしまったら、何者でもなくなる。地位の喪失と共に他にも多くの喪失を経験する。それが恐ろしい。恐ろしいので未練がましくしがみつく。こういうことって、王でなくても、現代社会に生きる我々市民であっても、経験する感覚ではないか。地位や立場から凋落する恐怖と屈辱、喪失、自己嫌悪、罪悪感、自責...。
  • シェイクスピア劇でしか味わえない複雑な感情がある。遠い昔の遠い土地の物語なのに、疑似体験かと思うほど生々しい鑑賞によってしか、癒えないものが人の心、DNAに刻まれていそう。(前回リア王を観た時の感想→
  • 最後、血だらけ、泥だらけ、濡れ鼠でにっこりしながらカーテンコールに立つ俳優さんたちを見て、心底ホッとした。あーちゃんとこれはお話だった!
  • アルメイダ劇場は、325席。下北沢の本多劇場(386席)よりちょっと小さいぐらいかな。
  • シェイクスピア劇を観るのは、2017年の『リア王』以来。そのときの感想。投稿記事の最後に「"リチャード2世"が気になる」と書いているから、やはりずっと観たかったんだな。よいタイミングだった。

 

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はじめて観たNTライブは、他のMETやロイヤルに比べてカメラワークも構成もアッサリした、録画番組を映画館で観ているという感じはある。演劇という形式の性質や、劇場の制約などもありそう。でももちろん十分楽しめる。

NTライブの良いところは、
 ① 解説とインタビューが冒頭にあるので、見所を抑えられ、期待も高まる
 ② ロンドンまで行かなくても、本場の芝居が近くの映画館で観られる
 ③ 日本語字幕のおかげで、英語で観られる(味わえる)

 

 

来シーズンも楽しみ。

 

 

今後のイベント

▼2019年9月23日(月•祝) 秋分のコラージュの会
https://collageshubun2019.peatix.com/ (国分寺

▼2019年9月28日(土) あのころの《いじめ》と《わたし》に会いに行く読書会 満席
https://coubic.com/uminoie/979560 

▼2019年10月1日(火) 爽やかな集中感 競技かるた体験会
https://coubic.com/uminoie/174356


 

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