暮れの迫る小雨の降る寒い中、日比谷図書文化館で開催中の『鹿島茂コレクション アール・デコの造本芸術 高級挿絵本の世界』展に行ってきました。
▼日比谷図書文化館公式ホームページ
▼きれいな写真がたくさん載っているので、ぜひこちらでご覧いただきたいです。
いつものように、展覧会の感想をつらつらと。
①ブックデザインの歴史について新たな知識を得た
1910年〜1930年代前半の約20年。
挿絵本の歴史の中で突出した高い技術と芸術が生まれた時代。
このときの本は、予約購買者を募集してから制作された限定出版。
しかも、未綴じや仮綴じのバラバラの状態で刷って納品される。
綴じや装幀は、購入者が自分の好みに仕上げるため、プロの職人に依頼していたという。
今の本は、表紙が顔だけれど、当時は表紙は装幀のときに外されてしまうから、刷ったときは仮にあるという感じで、簡素で地味。
...とまぁ、出版の概念を覆す製本過程にまず驚きました。
本にそんな時代があったんだ!という驚き。
その前にも後にもあったんでしょうか?
でも、これからの本ってまたこのようになっていくんじゃないかしら。
資源が貴重になり、物質として持つことが貴重になる中、嗜好品、贅沢品、工芸品、美術品としての地位を取り戻すんじゃないかしら。
あるいは、既にその動きはあるかも。...ということをこちらに書きましたが、サイトヲヒデユキさんの本に思いました。
アール・デコの造本芸術の幸福な20年を支えたのは、
・革新的なデザイン感覚をもったイラストレーター
・高度な技術をもった印刷職人
・新鋭イラストレーターを起用する新しいモードジャーナリズムを見事に開花させた、先見の明ある編集者
・裕福なパトロン
このきらめきよ...。
展示品を見る前のパネル解説ですでにわくわくしました。
鹿島さんによるパネル展示は、とても充実していて、造本の工程について丁寧に説明してくださってました。
たとえばこれは当展覧会のチラシの表面ですが、このような装飾頭文字をLettrine(レトリーヌ)と呼ぶ、など、「古い本」の中に何気なく「よく見ていたあれ」に名前がある、とわかったことがよかったです。
文章や挿絵はもちろんのこと、活字もレイアウトも、どれもが大切にされる要素で、すべてが芸術であったというところに、わたしは美を感じます。
美を成立させるために、ささやかな部分(品)にも名前があり、それが共有されていたというところ。
それは今の造本の過程にも思うことですけれど。
そして実物の大群が、これがまたすばらしい。
目を閉じるとあの作品の数々が蘇ります。
写真は撮れないのだけれど、作品リストを載せたパンフレットが美しく作ってあったり、美しいクリアファイルを買ったりなぞして、所有欲を満たしました。
疑問だったのは、第一次世界大戦を挟んでいるのに、なぜこんなにもゴージャスなんだろう?ということ。
「1920年のバブル景気で潤沢な資金があり」と解説があったのは、戦争によって特需が起こっていたということ?それで社交界は賑やかだった?
この高級挿絵本が急激に衰退したのは、1929年の世界恐慌後。
ふむ...歴史と芸術のムーブメントとの連動をもっともっと知りたくなりました。
展覧会に行けなかった方のためにも、行った方の復習のためにも、
こちらの動画で、鹿島さん自らの解説が42分も聞けます。
鹿島さんの解説を聞いていて思ったけれど、学芸員さんの解説だと、「わたしは」は主語になることってないですよね。黒子としていらっしゃるから。
だから鹿島さんの「わたしは」の主語がすごく新鮮だった。
「鹿島コレクション」と冠しているからできることなのかもしれませんが、編者の愛が全面に出てくる感じ、イイです。
②ジョルジュ・バルビエとバレエ・リュス
バルビエの本の美しさに感嘆。
本物を間近で観られてあらためて思いましたが、アール・デコ四天王の中でも、この完璧な美意識、突出しているんじゃないでしょうか。
バルビエの描くニジンスキーが、彼らの人生が共鳴している感じがして、切なかった。思わず家に帰ってこれ読み返しました。
バレエ・リュスって何?という向きには、こちらのインタビュー記事にあります。
この映画もよかったです。『バレエ・リュス 踊る歓び、生きる歓び』http://www.cinemarise.com/theater/archives/films/2007022.html
『魅惑のコスチューム:バレエ・リュス』展の図録。わたしの宝物(のひとつ)。
③鹿島茂さんのお宝がいつもすごい
以前こちらでも見せていただきましたが、鹿島茂さんのコレクションはすごいです。
この展覧会のあと、モンベルの『ジャンヌ・ダルク』の布張りのほう、古書で買いました。間違えて2冊も買ってしまったので、一箱古本市の機会があれば出品します。
今回も惜しみなくシェアしてくださって、ありがたいです。
この展覧会の元になった書籍「アール・デコの<挿絵本>: ブックデザインの誕生」は絶版になっているようです。もう少し早く行けばあったのかなぁ。残念。
図書館で拝見しましたが、良い本でした。ほしいナ。。
④展覧会同士のひびきあい、同時代性
ちょうどその前の週末にラウル・デュフィ展に行ったところでした。
デュフィのデザインしたテキスタイルを紙に印刷したものがあり、「そういえば当時の製紙、製版技術って高そう。一体どんな時代だったんだろう?」と思っていたところだったので、いきなり答えが出た形になり、うれしかったです。
しかもデュフィの仕事に大きな影響を与えたポール・ポワレが、造本芸術のほうでもまた、この時代をときめくファッションデザイナーとして登場していました。
同時代性や文脈を感じる、展覧会同士の響き合いはいつもわくわくします。
ここ2、3年、特に意識して19世紀末〜20世紀初頭〜中期のオペラ、バレエ、音楽、文学、美術、映画などを訪ねてきましたが、まだまだ掘りがいがありそうです。
20世紀の100年。
いろんな物・事象・手段で何度も串刺して体系立てながらふりかえり、ここから先を人類はどう生きてゆけばよいか。
昨年からのわたしのテーマです。
④図書館体験のバージョンアップ
久しぶりに行ったら日比谷図書館自体バージョンアップしていました。
前回がいつだったかは忘れましたが、10年ぐらいはゆうに経っています。
日比谷カレッジや、ボードゲーム部(コミュニティづくり)や、テーマ別のゾーン設定や、閲覧席の充実。
個人の学びのための館であり、知を交わし合い、循環させる場としてもある、という感じがしました。
しかも1Fのカフェ・プロントは、電源席もあって仕事や勉強はかどります。
音楽は流れてるけど、普通のカフェみたいにしゃべってる人いないから快適です。
文房具も販売しているので、切らしたものがあればすぐに調達できるのもありがたい。
販売用の本棚を眺めながらなので、すごく落ち着きますし、少し目をあげると窓から日比谷公園の緑見えるのものびのびします。
⑤製本やブックデザインといえば
ここから現代のブックデザインに飛ぶのもおもしろいですね。
たとえばTOPPANの印刷博物館で毎年開催されている「世界のブックデザイン」展。
一冊一冊、個性にあふれた本との対話があります。はじめて行ったときは、そのエネルギーのすごさに全部見きれないほどでした。2日に分けて行きました。
そして映画。『世界一美しい本を作る男〜シュタイデルとの旅〜』
2010年製作。これを観た時に、「紙の本はこういう特別に誂えらえるためだけに残っていくかもなぁ」と思いました。
資源も技術も貴重になっていく。
人間が介在する理由が必要なものが明確になり、棲み分けていく時代。もしかしたら。
開催してくださって、ありがとうございました!
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