5/19にクローズドで漫画版『風の谷のナウシカ』を語る会をひらいた。
ひらいた目的は2つ。
1. リサーチとして。今、10代向けの本を仲間を執筆中で、10代の感性にふれてみたかった。それも直接インタビューするようなことではなくて、作品の感想を話したり聴いたりする中で感じてみたかった。
2. この物語を通して、コロナ禍の世界を生きることを考えてみたかった。
友人の中学生のお子さんを誘ってもらったので、なるべく安心安全な場をと思い、その友人のつながりと、共通のつながりのある人を誘って、クローズドの場とした。
対話の前に、ひと通り読み返してみて。
漫画版はアニメージュで連載されていた当時(1982年〜1994年)に読んでいた。
たしか、漫画を読んでからアニメ版を観たように思う。だから、「こんなん全然描ききれてないやん!ごく一部やん!」と憤っていた。
連載がはじまって2年目ですぐアニメ化しているので、無理もないのだけれど。
この年表、当日向けに作ってみたんだけど、我ながら便利。
当時も変わった漫画だと思っていたけれど、今見てもやはり判型やコマ割りやインク色や描画がユニークだ。バンド・デシネやアメコミに近い。
スクリーントーンも使っているけれど、明暗・コントラストのためで、質感や雰囲気のための使用ではない。ほとんど手書き。怖ろしく細かい書き込み。
見開きあたりの情報量が膨大で、背景の理解から物語展開から思想の読み取りまで、注目する点はたくさんあり、全7巻を読み進めるのに時間がかかった。
時間がかかったのにはもう一つ理由がある。
物語は戦争のはじまりから、一連のそれが終結するところまでを描いているので、とにかくおびただしい数の人が、さまざまな理由で亡くなる。そのほとんどが凄惨な死だ。
今世界を席巻している伝染病により亡くなる人たちや、それを最前線で食い止めようと奮闘している人たちのことが思い出されて、辛くなるときもあった。
また、マスクをすることで生きながらえている人々を見るのも、今の現実を突きつけられているようで、息が苦しくなった。
腐海が生まれた理由や人間の存在理由を探すナウシカの旅についていきながら、わたしたちもまた、現実に直面している伝染病についても考える。考えざるを得ない。
自然の脅威に常にさらされながらも、他の人間からもたらされる災厄に苦しみながらも、どう生きていくのか。
その答えの一つが、自分の中にある闇を受け入れること。
同時代の偉大な漫画家はたくさんけれど、光と闇、愛することと殺すことの矛盾や、そのどちらもある・どちらでもない状態を抱えて生きることを、初めて真っ向から描いた作家かもしれない。
10代の人は、誕生日に漫画版を買ってもらって読み、歌舞伎版のdelay viewingにも行き、映画館で7時間夢中で観たそうだ。彼はその前にも、『七人の侍』の4Kデジタルリマスター版(207分)の上映も観に行っていたので、芸術への感度の高い人なんだと思う。未知のものに対して、時間の長さでは怯まないところに若さを感じる。
好奇心の触手がぐんぐん伸びている途上。
ふと思い出した。
わたしが小学校5年生のときの友だちで、宮崎駿作品が大好きな子がいた。
家に遊びにいったときに"The Art of Nausicaa"という、絵コンテやイメージボードといった制作素材が載っている画集を見せてくれた。
たくさんのセル画を動かしてアニメーションをつくるぐらいのことは知っていたけれど、その手前にこれだけのリサーチとイマジネーションと作業の量と質があるのだと知って、驚いた。しかも美しい。
「世界観」とひと言で表す中にある、深遠さ。ほんものさ。これが作るということ。
その子もたぶん、そういうことをわたしにシェアしてくれようとしたのだと思う。
大人が子供騙しでなく手抜きせず、人生をかけて手渡してくれているものに、子どもは敏感に反応するし、本質をしっかりと受け取っている。
作品からこの社会や世界を見て、作品を通して誰かと心を通わせることができる。
今10代のあの人も、そういうものを受け取っているのかもしれない。
他の大人の人たちの中には、最近はじめて読んだ人もいたし、連載当時から読んでいた人もいるし、「人としてどう生きるか」を常にナウシカに学んできたという人もいたけれど、共通していたのは、やはりこれは特別な物語だという位置付けだった。
性、恋愛、生殖、食、政治、戦争、思想、母子関係、継承、描画、表現形式など、話題が尽きなかった。扱えたのはごく一部でしかない。
いつの時代に読んでも、必ず何かを投影できる、示唆に富んだ、普遍性のある物語。
数多く出ている参考図書や文献も周回しながら、折に触れて場で読み合いたい作品だ。
*追記* 全員が手放しで賞賛したわけではなく、思想や表現に対する批判的論考などもありました。つまりよってたかって様々な読み方ができるという点で、強さを持っている作品という評価です。
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