ひととび 〜人と美の表現活動研究室

観ることの記録。作品が社会に与える影響、観ることが個人の人生に与える影響について考えています。

〈レポート〉5/31 オンラインでゆるっと話そう『プリズン・サークル』 @シネマ・チュプキ・タバタ

5/31(日)午後、シネマ・チュプキ・タバタさんとコラボの感想シェアタイム『ゆるっと話そう』の第12回をひらきました。前回『インディペンデント・リビング』でゆるっと話そうに続き、オンラインでの開催となりました。

 

chupki.jpn.org

 

 

 

ご参加のみなさま

東京近辺の他、仙台、山梨、名古屋、神戸からご参加いただき、遠くの方とも一瞬でつながれるオンラインの良さを感じました。映画も、外出自粛前に映画館で観た方、オンラインで観た方、両方観た方などさまざま。朝見てからこれに参加した方、オンライン配信のおかげで観ることができたという方、中3のお子さんと一緒に鑑賞して事前に感想を話してきた、という方もいらっしゃいました。


定員は前回から2名少し増やして計9名としましたが、当日までにめでたく満席となりました。ありがとうございます。

参加者の中に聴覚障害の方がおられたので、UDトークの文字配信をサポートするスタッフさんにも入っていただきました。それに加え、たまたま参加者の中で手話通訳をお仕事にされている方がいらっしゃり、快く通訳を引き受けてくださいました。

UDトークで文字でやり取りできるだけでもうれしかったのに、手話通訳になるとより生身同士でコミュニケーションができる感覚がありました。

 

進め方

この日大切にしたのは、刑務所でのサークルに対して、シャバでのサークルを作りたいという思い。一人ひとりが安心安全な中で、なるべく発言しやすいように、そしていろんな人の話が聞けるように、場を進めました。

一人ずつのご発声:「呼ばれたい名前・今いる地域」と共に

 ↓

3人サークルでシェア:「映画どうだった?」

 ↓

全員でシェア:「どんな話出た?」

 ↓

全員でさらに対話:「今の話聞いてどう思った?他には?」


最初に3人のサークルで小さく感想を話すところからはじめたのは、人数の多い中で感想を話すってやっぱり緊張するから。Zoomのブレイクアウトルーム機能をつかって3部屋に分かれていただき、わたしの他、チュプキのスタッフさんが1人ずつファシリテーターとして入り、サークル内の進行をしていただきました。

 

 

全体でのシェア

小さなサークルでどんな話をしたかをシェアしていただきました。こんな話題が出ました(一部)。

・自分にも覚えのある感情を持った、自分と何も変わらない人が出ていたことの衝撃。たまたま出会った人や、たまたま生まれ落ちた環境が違うだけ。

・TCが社会にも当たり前のようにあれば、結果は違ったのかもしれない。

・刑務所でTCをやっているところが他にないということに驚いた。なぜ広がらないのか。

・自分の生い立ちを語る場がとても苦しそうだった。そのような中でも自分と向き合い、言葉を絞り出していく様子に心動かされた。

・その辛さが、目の前にいる支援員に、怒りの気持ちや反発として現れることはなかっただろうか、という疑問もわく。

・自分も誰かを傷つけたときに「自分は悪くない、相手が悪い」と言ってしまって認められないことがある。受刑者の方がそのように話しているシーンは、自分も苦しかった。自分はたまたま犯罪になっていないだけで、とても他人事とは思えなかった。

・TCではないが、当事者同士で話し合う場に参加したことがある。そこでは自分の苦労を語ったり、ロールプレイをした。気持ちをわかってくれる人の前で、自分に正直に話していいというのはとても癒しになった。そういう場が社会に必要だと思った。

・大と小のコントラストが印象的だった。3〜4人で作る小さなサークルと刑務所という施設の大きさの対比や、日本で収容されている受刑者のうち、TCを受けられるのは数%という小ささの対比。

再犯率が半分ということは、半分は再犯しないが、半分は再犯するということでもある。

・TCで心的成長を遂げたそのあとの社会に出たときのギャップが大きいようだった。伴走者もいたようだけれど、しんどいと言える、支える仕組みなど、もっと社会に受け入れる準備が必要。わたしたちが問われている。

・社会が変われば刑務所も変わるのでは。

 

 

 

ふりかえり

退出前に一人ずつ今の気持ちを場に置いていっていただきました。

「自分の言葉でしゃべれる場でよかった」「一本の映画からこうも異なる感想が出るとは」「わたしたちもこうやって多様性を認める訓練をしているのかも」など、1時間という短い時間ではありましたが、場を信頼して積極的に参加してくださり、たくさん受け取ってくださったことが感じられました。

 

社会にも真摯な対話を求める人はたくさんいます。

SNSやオンライン会議ツールなどの普及で、対話の場もよりつくりやすくなっています。対話のお作法も少しずつ広がっている。場を通じて多くの人が学んでいる。そのことを、何よりもまず社会にいるわたしたちが実感し、存在を信じられる小さな体験がたくさん必要です。


異なる背景からの異なる感想一つひとつに、温かな関心を向け合う時間、つながりの感じられる場。「この作品をきっかけにもっと現状を知りたい、考えたい」という宣言も聞かれ、作品のもつ力をひしひしと感じました。

わたしも、このような場をひらくことで、小さな相互作用をたくさん重ねる中で、変化を少しずつ起こしていけたらと願い、引き続き行動していきたいと思います。

 

ご参加の皆さま、劇場のチュプキさん、坂上監督、配給の東風さん、ありがとうございました。わたしたちに多くの示唆を与えてくれた(元)受刑者の皆さんや、TCの場をつくっておられる方々にも、心から感謝いたします。

 

作品を語りあう小さな場が、回復の連鎖の一助となりますように。

 

 

鑑賞後におすすめの資料


◉島根あさひ社会復帰促進センター
名称に「刑務所」が入っていないところにまず驚きます。
PFI方式と呼ばれる官民共同運営の施設ですが、どのような企業が参画していて、どのような組織になっているのかを「センター概要」に見ることができます。また、「社会復帰に向けた取り組み」の中で、TC(回復共同体)がどのように位置付けられているのかも非常に興味深いです。
3本柱のうちの1つが回復共同体で、その他の修復的司法、認知行動療法である点も、目を留めたいところです。
http://www.shimaneasahi-rpc.go.jp/index.html


坂上香監督ティーチイン動画(2020/5/22Youtube)
坂上監督が映画制作への思い、撮影の背景、撮影対象者のその後について、当日チャットに寄せられた質問に答えながら、詳しく話してくださっています。これは聞くと聞かないとでは、映画鑑賞の深まりが全く違うといっても過言ではありません。必見です。
https://youtu.be/E6i1xpoDOec


◉パンフレット『プリズン・サークル』
各章の要約、心理・教育・支援の第一人者の寄稿文、2019年早稲田大学でアミティ関係者を招いてひらかれたシンポジウムの再録、監督インタビュー等を収録した充実の内容です。
http://tongpoo-films.shop-pro.jp/?pid=150679505


坂上香/著『ライファーズ 罪に向きあう』
『プリズン・サークル』と双子のきょうだいのような映画、『ライファーズ』をめぐる旅の物語です。TCのアメリカにおける実践団体アミティと島根あさひ社会復帰促進センターとのつながり、坂上監督の人生における位置付けが、第1章で描かれています。
アメリカだから可能なのだろうか」「日本ではなぜもっと刑務所におけるTC(または類似のプログラム)が広まらないのだろうか」との問いをもった方に、さらに考えを深めるきっかけになる本です。
人生の多くの年月をかけて、この課題に取り組んでいる方がおられることに、深い感謝と尊敬の念を禁じえません。
https://amzn.to/2B7LhiH

 

 

『プリズン・サークル』『ライファーズ』を7月にチュプキで再上映!
特に『ライファーズ』を見逃していた方はぜひ!

chupki.jpn.org

 

〈仮設の映画館〉での配信は、7月10日まで!

www.temporary-cinema.jp

 

 

おまけ。このブログの関連記事です。

映画『プリズン・サークル』 鑑賞記録 

書籍『空が青いから白をえらんだのです 奈良少年刑務所詩集』

映画『ライファーズ ー終身刑を超えて』鑑賞記録

映画『トークバック 沈黙を破る女たち』鑑賞記録

《レポート》2/11 トークバックでゆるっと話そう@シネマ・チュプキ・タバタ

映画『獄友』鑑賞記録 

《レポート》10/18 『教誨師』でゆるっと話そう@シネマ・チュプキ・タバタ

 

 

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