ひととび 〜人と美の表現活動研究室

観ることの記録。作品が社会に与える影響、観ることが個人の人生に与える影響について考えています。

METオペラ『アグリッピーナ』鑑賞記録

METライブビューイングで、ヘンデルの『アグリッピーナ』を観てきた。

 

陰謀大好きな女帝から、ドラッグ大好きなドラ息子、ゴルフ大好きセクハラ王、現代演出だからこそさらに深く面白い!今シーズンのベストワンとの呼び声高い本作(公式twitterより)

 

www.shochiku.co.jp

 

 

昨年末に古楽器によるヘンデルの『リナルド』というオペラを紹介してもらったことが大きい。読み返すと当時の興奮を思い出す。やっぱり感想、書いとくといいわぁ。

hitotobi.hatenadiary.jp

 

METライブビューイングのページに動画も載っているので、それを聴いて、いくつか直前にサイトを見て予習。

ROHではカウンターテナーが3人とか!客席も巻き込んでの演出とか!

www.j-news-uk.com

 

家系図助かる。このサイトでは3幕構成になっているね。

handel.at.webry.info

 

▼今回の公演のレビュー

www.gqjapan.jp

 

で、観てみて......。

 

いやもう最高!!!!!最強!!!!!

なんという!!!

 

あらすじも歌詞もあんなにえげつないのに、音楽も歌唱もどこまでもどこまでも美しく、天に昇っていくようで。

バロックの音階に浸りながら、人間の欲望や邪悪さ、醜さや滑稽さがこれでもかと吐き出されていく。自分の中にも確かにあるそれらが、執拗なまでのリフレインを仕掛けるバロックのトランスに載って展開されていく様は、不思議な爽快感があって、観劇というよりほとんどお祓いだった。

 

とにかく元気が出る。

 

あれ、この感じってどこかで味わったことがあるな?と思ったら、シェイクスピア演劇だ!わたし、これから「ヘンデルってオペラ界のシェイクスピアを目指したんじゃないか?」説を唱えていこうと思います。(ピーター・グリーナウェイの世界観もある説)


緊張感のある舞台だけれど、基本は喜劇なので、心理的に追い詰められる感じはまったくない。めっちゃ楽しいときって、マジ顔でハラハラワクワクしている。あのときの感じ。でもゲラゲラ笑うときもあって。稀有な体験をした。。

 

ローマ帝国を、バロック音楽で、現代に置き換えるって、どんな時空の超え方よ?と思うけれど、これがピタッとはまって、完全に昇華されている。すばらしい演出。

演出、演技、歌唱、衣装、照明、撮影、、舞台全体のクリエイティビティとクオリティが高くて、すべてにおいて進化している。

キャストが最高。

「芸」が細かくて、1カットも見逃せない。

METスゴイ。

ヘンデルに300年後こんなふうになってるよ!!と教えに行きたい......。 

 

上映時間は3時間55分(途中10分休憩)だけど、全然長さを感じない。
(長尺を見慣れているというのもあるけれど)

 

友人と誘い合わせて観に行って、帰りに三越ラデュレで美味しいお茶飲んで、わいわい喋り倒して、「今夜は肉しかない!」と言いながら、良い気分で帰宅。

鑑賞仲間にチャットスレッドで感想を話し始めたらもう止まらず、「ぜったい観てほしい〜」と煽りまくった。

また大好きなオペラが増えた。うれしい。

 

 

製作陣一人ひとりの次回作を観るのが楽しみでならない。
ぜひコロナが落ち着いて、公演を再開できますように。

まずはインスタグラムのフォローから......。

Joyce DiDonato
https://www.instagram.com/joycedidonato/

Brenda Rae
https://www.instagram.com/brendaraesings/

Kate Lindsey
https://www.instagram.com/kate_mezzo/

 

毎シーズン観ていると、「知っている人」が少しずつ増えていくのも鑑賞の楽しいところ。もちろん鑑賞仲間とのつながりも。豊か。

 


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思わずこれつぶやいてしまったけれど、ほんとそうじゃない?

 みんな怒ったとき、やりきれないとき、ハッピーなとき、刺激がほしいとき、オペラ観るといいよ〜!!

 

 METライブビューイング、ほんとうに好き。たくさん世界を広げてもらいました。

 

www.instagram.com




アグリッピーナ』を演出したデイヴィッド・マクヴィカー曰く、「歴史は繰り返す」がテーマだと。

確かにこういう構図を家庭や職場や学校や地域や自治体や国や、、いろんな単位で見たことがある。

アグリッピーナの権力欲だって、ただ一人の異常な行動ではなく、自分が成し得なかったことや努力のしようもないことなど、社会(父性、父権)への恨みを晴らすために、自分の子の人生を使おうとすることは、大なり小なりある。

特に子どもが男ならなおさら、男社会に刺客として送り込みやすいから。数々の悲劇が生まれてきたことだろう。わたしも自分が親で、息子がいるので、他人事ではない。

もちろん性別の問題だけでもない。

 

あのオペラの中でまともそうな人はオットーネだけだけど、力はない。良い人ほどだまされやすい。
大事なのは、自分の中の邪悪さは漂白しないほうがいい、ということ。
邪悪を持っているからこそ、邪悪のことがわかる。

 

放っておくと、いろいろやらかしちゃう人間のために、予防と治療を同時にやっているのが、芸術なのかもしれない、なんてことも思った。

オペラや映画や文学、、

何かわからない危険な(アグリッピーナ的な)ものが発生したときに、社会学や心理学の眼差しだけでは到底理解しきれないことが出てくる。そういうときに、芸術の出番。歴史や地理や文化を濃縮した作品の形に提示するからこそ共有できたり、解釈可能なものになる。

 

 

当日の鑑賞と、仲間との感想のやり取りから、そんなことを受け取りました。

 

いやー、もう一回観たい!!!

年に一回は観たい!!!

人類に必要なオペラ!!!

 

 

 

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