ひととび〜人と美の表現活動研究室

他者の表現にふれることから、自分の中にある美の感覚にもふれてみる、自分の美を表現してみる。みんなで探究する鑑賞の場づくりを通して考えることなど。

書籍『ナウシカ考 風の谷の黙示録』鑑賞記録

6月末から、映画館でスタジオジブリの4作品をリバイバル上映している。

www.ghibli.jp

 

5月に漫画版『風の谷のナウシカ』を語る会をひらいたこともあり、アニメ版ナウシカは気になるところではあった。

hitotobi.hatenadiary.jp

 

観に行った人たちが口々に、「観てよかった!DVDじゃわからん!絶対に映画館で観るべし!」と話していた。誰も彼もがすごい熱量。これはなんかある。

人間活動が温暖化など、地球に与える影響は年々、いや、時々刻々、待ったなしの状況。被害に備えて戦々恐々とし、被害を聞いて憂えるだけでなく、解明したい、これからの行動の指針を自分の言葉で語りたい、という気持ちがずっとある。

そもそも漫画版を買い直したのも4月の上旬だった。(10代の頃に買ったものが実家にあるはずだが、きょうだいの誰かが持って行ってしまったらしく、今はない)

あの時期、何かに突き動かされるように、ナウシカの物語を求めた。

 

 

観る前にどうしてもこちらの本を読んでおきたかった。どうせ観るなら、マンガ版とアニメ版の相違・差異や、今この時代にアニメ版を観る意味をしっかりとつかんで言葉にしたい。

『ナウシカ考 風の谷の黙示録』

 

 

漫画版『風の谷のナウシカ』を読んで、もっと深く考えたい人向き。

 

とはいえ、作り手の意図や仕掛け、謎解きをマニアックな目線であばいて得意顔になる考察本を想像すると、だいぶ肩透かしを食らう。

語り口調はおずおずと、想像と推論と問いかけを取り混ぜ、共に語らいながら読書を進めていく。評論というよりも、まるで読書会のような趣のある本だ。

漫画のコマもときどき引用されているが、多くは情景説明や、セリフの引用しながら物語を歩いている。この感覚も今までにない感じでおもしろい。読書会で、付箋を立てたところを感想を述べ合って行ったり来たりしながら、螺旋状に深まっていく感じに似ている。

赤坂さんがご自分を目一杯使って感じ、考え、調べ、言葉を紡ぎ、余白を残しながら語ってくれることで、読んでいるわたしにも気づいたり、思い出してつながることが多い。かといって感想ブログのようなものでは決してない。

作者の宮崎駿の前後の作品制作も追いながら、時代背景も提示しながら、古今東西の研究を引きながら、作品を観察して、重要なキーワードを提示しながら、作者の意図を超えたところにある大きなものを見ようとしている。

なんといっても「この物語は黙示録」という解釈だ。

この作品がわたしたちにとってなんなのか、何を伝えようとしているのか、何が読みとれるか、わたしたちの中に何が生まれるのか、どんな意味があるか、、、読者の中の詩的で思想的で哲学的な部分に、橋をかけ続けてくれる本だ。
 

これぞ鑑賞なのでは!?


そもそも表現とは、鑑賞者が半分は担って完成させるものなので、作品から鑑賞者が何を受け取るかは自由。作り手の意図や隠された暗号を知ることは、その鑑賞体験を豊かにする範囲において意味があるけれど、それに引きずり回される必要はないのだ。

 

読み終える頃には、自分の中でマンガ版『風の谷のナウシカ』がかつてないほど屹立している。この混迷の時代にあっても、絶望せず、虚無にさらわれることなく、一つひとつの命を精一杯生きよう、と思える。

 

▼読書メモ、もりもり。

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赤坂さん独特の揺らぎや戸惑いの文体(「〜ではなかったか。」)やあえて宙吊りにして、時には回収もしない進め方に、煮え切らなさをおぼえる人もいるかもしれないが、わたしはそこが魅力だと思っている。 これは、2017年に開催された『性食考』の出版記念イベントで、赤坂さんの「穏やかだけど常に戸惑い揺らぐような話ぶり」に出会っていたことが大きいと思う。

▼短いイベント鑑賞記録。

hitotobi.hatenadiary.jp

 

この日も対談パートナーの鴻池朋子さんの鋭いツッコミがあってようやく出てくる話がどれもよかった。このとき聞いた中で覚えているのは、「『性』の話は恥ずかしくてなかなか書けなかった」という告白(?)。「研究者が恥ずかしいって!」とびっくりしたけれど、正直な部分をある程度歳を重ねた男性が、公の場で戸惑いながら出すっていいな〜と思ったのだった。 

このイベントに行っていなかったら、『ナウシカ考』はずいぶん戸惑いながら読んでいたことだろう。

 

作品は作品としての人格を持ち、いろんな人と出会いながら独自の道を歩いていくものだ。とはいえやはり、作者の人柄とは、切っても切り離せない。

それを含めた読書の楽しみ方だってある。(作者本人がそれを望む望まぬとにかかわらず)

 

 

▼こちらのインタビューは、『ナウシカ考』本編でふれていない部分について、これまた小説家の川上弘美さんがよい切り口を提示をしてくださっていて、興味深い。

www.asahi.com

 

上記のインタビューでも、5月の漫画を語る会でも思ったが、人間は性の別だけで必ずしも区切れるわけではないが、この物語に関して言えば、複数の性のアイデンティティから照らしてみることは、かなり有効かもしれない。全然違っておもしろいから。

それぞれの着眼点の提示が、他者へのギフトになることは間違いない。

 

 

漫画版もぜひ一生に一度は読んでほしい。(でも、一度ではわからないので、何回も読む羽目になる......)アマゾンでは今、一時的に価格が高騰している模様。

 

 

うーん、映画が楽しみになってきた!!

 

 

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