3人の学芸員さんがさらに解説をつけてくれているバージョンも楽しい。
行ってみてみての感触。こんな展覧会だった。
・「高尚で、知識がなければ理解し難いもの」と思われがちな日本美術を見方、楽しみ方を教えてくれる。これがバリエーションもさまざまに、とても親しみやすく、わかりやすい。
・骨董品としてではなく、作品が作られた当時の所有者や鑑賞者と、今の鑑賞者(あなた!)との出会いを演出してくれている。そのような展示の工夫が随所にある。
よく美術館に足を運ぶし、見巧者(みごうしゃ)であると豪語する方から、
美術館もあまり行かないし、日本美術もよくわからないので敬遠しがちという方まで、誰でも楽しめる展覧会です。
会場デザインにも、その世界に入る工夫と遊び心。
森を抜けていった先に滝があるところからはじまる。
(全作品が撮影可です)
次の部屋は和室。襖を開けると向こうに屏風、という具合。
楽園に行きたい!と思ったら屏風に描いて飾っちゃえばいい!季節が違うものがいっぺんに入ってても、いいの、いいの。
じわじわくせになるこの描きぶり。誰が見ても「美しい」ではないものも楽しい。
昔の人も小さいものがめちゃくちゃ好きだった。カワイイ!
などなど、
こんなふうに観てみたらどう?
昔の人はこんなふうに楽しんでいたみたいよ?
気持ちわかるよねー?
あなたならどこが好き?どんなふうに楽しむ?
......という感じで、 展覧会から語りかけてくれるような、フレンドリーな空間。
そうそう、わたしも今までそんなふうに観てました!など、一人で観ているんだけど、展覧会と会話しているような気持ちになる。
知ってたら知ってたで楽しいけれど、いろいろ考えなくても、出てくる感想がけっこうシンプルで、
めっちゃきれい!
すっごい描き込み!
ちっちゃくてかわいい!
めっちゃユルい絵!
......という感じに自然となるので、ほんとみんなが楽しめる展覧会だと思います。
もともとこちらの美術館は、キッズのための鑑賞の手引きのような企画もよくやっていた印象がある。本物の価値や場の価値は落とさず、それでいてわかりやすく楽しく橋をかけるのがとてもお上手な美術館。
今回もキッズ向けの鑑賞カードがあったのでいただいてみました。
すごく大事なことが書いてありましたよ。
もともとは家の中でかざられたり、使われたりしていたもの。
注目するところがわかれば、想像力もふくらんで、どんどん鑑賞がおもしろくなってくるはず
そうそう!
美術館や博物館では、「昔の使われ方」や「見方」や「注目ポイント」については、もうわかっているという前提での解説しかないので、「知識がないから(涙)」と置いていかれた気持ちになってしまうことがある。
でも中には、こんなふうに鑑賞の楽しみ方を教えてくれる展覧会もあるので、こういう機会に試すのがおすすめです。
その後、別の展覧会を見たときに、この見方を使ってみたら、今までとは違う体験になるはず。
最初は「注目ポイント」を教えてもらって観るところから、だんだんと「自分だけの注目ポイント」なども出てくる。人と言って「ああでもない、こうでもない」と話しながら観ると、もっともっと観ることが楽しくなる。
わたしの今回の発見メモ。
・ 動画で設営風景(メイキング)を観ていたので、実物を観られてかなりうれしい。この裏にはあんな作業やこんな作業があったのね、と想像すると楽しい。
・展覧会の英題を見て、原題と比較するのが好き。今回は「日本美術の裏の裏」が"Japanese Art: Deep and Deeper" に。なるほど、裏ってそういう意味だったのか!
・着物に入れていた文字模様(いわほとなりて)は、Tシャツにテキストを入れてメッセージを発信するのと同じ!昔からやってたんだ!きものkimono展でも「若紫」と入った小袖を見たっけ。
・ 書道博物館に行ったばかりなので、ここでも書に注目。流れるような草書体は何が書いてあるか相変わらずわからないけれど、一つだけ自信を持って判別したのは、百人一首の和歌「嘆けとて」「村雨の」の二首が一幅の掛け軸に収まっているもの。競技かるたやっててよかった。
・焼き物の見方。「景色を探す」は去年ミホ・ミュージアムで備前焼の展覧会に行ったときに、はじめて愉しみ方を知った。今回はおさらいという感じ。自分の好きな正面を見つける感じについて思い出したことが2つ。
①子どもの頃から置物を飾るのが好きで、ときどき角度を変えたり、好きな角度があったり、その角度がキマると、部屋の雰囲気が変わることを体験としてすでに知っている。②最近買ったスカート。3枚の柄違いの布をはいであるので、正面にする柄によって、コーディネート全体のイメージが変わるのがおもしろいな、と思って買った。
難しく考えずに、「ああ、あれと一緒か」と自分の中で心当たりができると、とても身近なものになる。
・桜と楓を一緒に描いたものを雲錦模様と呼ぶと知った。永遠に巡る季節の象徴。またどこかで出てきそうなので、覚えておこう。
図録を精読すればさらに鑑賞の軸がつかめそう。
展覧会に行っていなくても、読み物として楽しいし、会場で観て好きになった展示品があるならさらに楽しい。
前期・後期のどちらかしか展示されない品を観られるのも図録のよいところ。
サイズもA5でコンパクト。おすすめ。
サントリー美術館の基本理念は、「生活の中の美」の"愉しみ方"。
よい展覧会でした。今後も楽しみにしています。また来ます!