町田国際版画美術館で『西洋の木版画 500年の物語』展を観てきた。
最終日に飛び込み。少し遠かったけれど、はるばる行った甲斐あった。
ひと言で言うと、木版画の印象が覆った!
初期の木版画、
グーテンベルク登場後、
デューラーの(変態的!)木版画、
銅版画との比較、
風俗画としての版画、
木口(こぐち)木版の追究、
絵本と多色刷りの進化、
近現代美術としての版画、
ゴーガンの版画、
まちだゆかりの作家・若林奮、
月岡芳年の月百姿……。
木版画と聞くとつい、素朴さ、柔らかさ、大胆さのイメージが最初に出てくるけれど、それだけではなく、精密さ、繊細さ、洗練などもあったのだ。
そうだ、浮世絵も木版画じゃないか、といまさら気づいたり。
この500年を通覧する充実の展覧会。
大満足。
図録は残念ながら作っていないとのことだったので、写真を撮りまくり、メモを取りまくった。
展覧会のおかげで、版画についての知識と経験を段階を追ってじっくり積めた。断片的だった知識が、展覧会から体系的に提示されることで、わからなかったところが埋まった感触がある。
こういう「あるジャンルについての歴史」が一望できる展覧会はとても貴重なので、出会ったときがご縁ということで、最近はなるべく足を運ぶようにしている。
印象に残った作品いくつか、美術館の公式ツイッターの投稿をお借りしながら紹介したい。
版木の高さと活字の版の高さを揃えて刷っていたとのこと。ここで疑問。活字は一字ずつ拾うのか、ある程度の決まった単語で揃っているものがあったのか(ドイツ語だとmit, ob, istなど)
【#西洋の木版画展 作品紹介3『年代記』】
— 町田市立国際版画美術館(町田市公式) (@machida_hanbi) 2020年10月25日
15世紀中頃に活版印刷術が発明されると、書籍の出版量が飛躍的に増加します。活字の版に組んで一緒に刷れる木版画は、挿絵として大いに利用されました。初期の木版画は書籍との深い関わりのなかで発展していきました。 pic.twitter.com/AE5i2AiaOj
デューラーの木版画が変態レベルで慄いた。描き込みならぬ彫り込みの凄まじさ。銅版が出てきた時代に、「木版でもここまでできるんだぞ!」という壮大なアピールのようにも見える(勝手に)。
【#西洋の木版画展 作品紹介4 デューラー『黙示録』】
— 町田市立国際版画美術館(町田市公式) (@machida_hanbi) 2020年10月25日
15世紀末、アルブレヒト・デューラーの登場によって西洋の木版画は最初の頂点を迎えます。聖書の幻想世界をみごとに視覚化した『黙示録』。ぜひ実物の迫力を展示室で確かめてください。#版美 #町田市立国際版画美術館 #hanbi #デューラー pic.twitter.com/hL1DiEdS8Y
同じ主題で木版と銅版を並べて見せる展示がおもしろかった。このあたりでは銅版は洗練されていて、陰影の微細な表現が可能になるんだな、などと素人目には思っていたが、このあとに木口木版を見たときに、その感想はあっさり裏切られる。
【#西洋の木版画展 作品紹介5 ふたつの『受難伝』】
— 町田市立国際版画美術館(町田市公式) (@machida_hanbi) 2020年10月29日
この展覧会ではデューラーの『小受難伝』(木版)と『銅版受難伝』のふたつのシリーズから各4点を展示しています。木版と銅版それぞれの表現の違いに注目して鑑賞してみてください!#版画 #デューラー #町田市立国際版画美術館 #木版画 #版美 pic.twitter.com/C8fKJ0thY8
目の詰まった木の断面を使った木口木版。このあたりから素人目には銅版と木版の区別がつかない......。実用性の中に芸術性が生まれてきている感じ。
【#西洋の木版画展 作品紹介7『英国鳥類誌』(1797年刊)】
— 町田市立国際版画美術館(町田市公式) (@machida_hanbi) 2020年11月3日
18世紀後半、イギリスのトマス・ビューイックは木口木版を確立しました。木版でありながら銅版のように細密な線描が可能な技法です。ビューイックは非常に細かいディテールで、身近な動物たちを描き出しました。#版画 #木版画 #木口木版 pic.twitter.com/w0KXoPEcyz
これも木口木版。光の表現、黒から白へのグラデーションが美しい。スクリーントーンのような整然とした彫りも、これが手作業と思えない。
【#西洋の木版画展 作品紹介8『神曲』】
— 町田市立国際版画美術館(町田市公式) (@machida_hanbi) 2020年11月4日
ダンテの長編叙事詩『神曲』は、古くから芸術家が取り上げてきた主題。19世紀フランスの画家ドレの挿絵は高い人気を誇りました。
優れた彫師が木口木版に起こした本作。細かい線の集積によって光の諧調が生まれ、地獄の闇から天国の光までが表されます。#版画 pic.twitter.com/4nDp4xsATh
館長さんがブログでも書いておられるけれど、ほんとうにこれが木版画だと思えない!モチーフも美しいし、色もきれいで、ずっと見ていたい......。
【#西洋の木版画展 作品紹介10 『妖精の国で』(1870年刊)】
— 町田市立国際版画美術館(町田市公式) (@machida_hanbi) 2020年11月8日
刷師エドマンド・エヴァンスの代表作。12枚もの版を刷り重ねた多色刷り木口木版で、リチャード・ドイルの水彩画をみごとに再現しています。実は印刷物泣かせのこの作品。ポスターや図録で、絶妙な色彩を出すのが難しいんです。#木版画 pic.twitter.com/RC1ky6uBwA
当館の大久保純一館長のコラム「館長かわら版 その十一」を「芹ヶ谷だより」に公開しました。「西洋の木版画展」で展示中のリチャード・ドイルの絵本『妖精の国で』に迫ります。https://t.co/Xe2iOSTwt2 #町田 #町田市立国際版画美術館 #版美 #館長かわら版 pic.twitter.com/LaQ4oOXump
— 町田市立国際版画美術館(町田市公式) (@machida_hanbi) 2020年10月8日
木口木版は、輪切りにして年輪が見える板で、日本の浮世絵は、木の生えてる向きに沿って切った板目木版。主となる輪郭線線をとった主版と、色をわけてするための複数の色版で刷る多色刷りは手間がかかるので、西洋では最初はあまり発展しなかったとのこと。素人目には銅版画のほうが薬剤も使うし、手間が要りそうに見えるけれども。。ここのところもう少し知りたい。
【#西洋の木版画展 作品紹介11「多色刷り木版画」】
— 町田市立国際版画美術館(町田市公式) (@machida_hanbi) 2020年11月11日
写真や新しい印刷技術が台頭する19世紀後半になると、版画は美術表現の道を模索します。日本の浮世絵版画に影響を受けたルペール(1枚目)とリヴィエール(2枚目)は、木口でなく板目木版の多色刷り技法を苦心の末に完成させました。#版画 #美術館 pic.twitter.com/KGOcTuvjFe
ゴーギャン(ゴーガン)の版画がこれまたよかった。タヒチとの出会いで感じたプリミティブな魂が、木版という表現にぴったりに感じられる。
【#西洋の木版画展 作品紹介12 #ゴーギャン 】
— 町田市立国際版画美術館(町田市公式) (@machida_hanbi) 2020年11月12日
ゴーギャンの連作『ノアノア』は木版の力強い表現で後世に影響を与えた作品です。会場では、画家が刷師ロワに刷らせた「ロワ版」(1枚目)と、画家の死後に
息子ポーラが刷った、版木に忠実な「ポーラ版」(2枚目)の2種類の刷りを展示しています。#版画 pic.twitter.com/Y5RN0C7BZX
ヴァロットン!!冷たい感じもしつつ、やっぱり魅力がある。先日国立映画アーカイブで見た展示の中に、サイレント映画の映像が流れていて、黒白の濃淡や構図がすごくヴァロットンの版画に近いなと思った。時期的には同じぐらいだから、きっと影響があったはず。
【#西洋の木版画展 作品紹介13 ヴァロットン】
— 町田市立国際版画美術館(町田市公式) (@machida_hanbi) 2020年11月17日
浮世絵の影響はヴァロットンにも及んでいます。11で紹介したルペールらは多色刷り木版画を作りましたが、ヴァロットンはモノクロ。彼は浮世絵の平面性、装飾性に注目したのでしょう。黒と白を対比させ、躍動感ある独自の表現を生み出しました。#展覧会 pic.twitter.com/JZzXvowyKW
行く前に行く前の予習で観ていた資料。
長谷川潔展の図録は、だいぶ前に横浜美術館の回顧展で購入したもので、最後に版画の技法についての説明がある。
『西洋版画の見方』は国立西洋美術館の売店で売っているもの。コンパクトで良い。
この版画展を観てから、本を読み返したらだいぶイメージが膨らむようになっていて、書いてあることが前よりも理解できていた。うれしい!
1階ロビーでは版画についてのビデオ視聴コーナーあり。
1987年制作と古いものだけど、丁寧に作ってあるので、素人にも工程がよくわかるので、学びたい方にはおすすめしたい。
1本15分くらいはあったので、木版画と銅版画を見るだけでお腹いっぱいになり、石版画とシルクスクリーンその他は次回に。
インスタグラムにも写真載せておいたので、メモ。
https://www.instagram.com/p/CIEtCxfFoFT/
https://www.instagram.com/p/CIEtyqXFqlH/
https://www.instagram.com/p/CIEuUV0l1WZ/
https://www.instagram.com/p/CIEuuR7FfJx/
同時開催の企画展:まちだゆかりの作家 若林奮(わかばやし・いさむ)
おまけ。
美術館に行く途中の公園の中に、見たことのある球体が鎮座されていた。
東京都美術館にある、あれですな。あちらは《my sky hole 85-2 光と影》
こちらは《my sky hole 88-4》
連作なのでしょうか。他の場所にもあるのかな。
たくさん版画を観たあとだから、穴あきの葉っぱもおもしろく見える。
道路表示まで版画に見える!