ひととび 〜人と美の表現活動研究室

観ることの記録。作品が社会に与える影響、観ることが個人の人生に与える影響について考えています。

映画『マロナの幻想的な物語り』鑑賞記録

2020年の年末、息子と映画『マロナの幻想的な物語り』を観てきた。

シネマ・チュプキ・タバタさんにて。

(タイトルの綴り、いろいろ間違えそうだナ......。投稿する前にチェックしたら、やっぱり間違えてた)

maronas.info

 

帰り道はずっと感想話しながら。すごかった。すごい体験だった。
チュプキさんの音もやっぱりすごい。包まれる。ドカドカくる。


ただただ美しい画面が途切れることなく展開していく。

あらゆる重力、あらゆる常識や限界から解き放たれる造形。

身体感覚が変わる。

手描きアニメーションの世界は無限大、とこの少し前に観た『ウルフウォーカー』でも思ったけれど、2020年の最後にまたすごい表現を観てしまった。

 

物語の運びにも圧倒された。

犬の一生を辿りながら、出会ってきた人間の哀しみや苦しみに触れていく。
人間たちがどの人もあまり幸せそうでない、病んでいるように見える。
でも幸せか不幸せか、他人がそう単純に割り切れない。
すごく複雑な存在。
ああ、こういうことってあるよねと、いちいち思う。大人になるにつれて、歳を重ねるにつれて、直面していくあれこれ。既視感を覚えて苦しいところもある。そういうあれこれも、全て包んでいく映像の魔法に救われる。

犬はただ見つめる。
時に、「これは犬の務め」とばかりに介入する。

 

犬としているってこういう感じなのか。
犬になる、犬として生きる擬似体験をしているみたい。体温と鼻の湿り気。

"犬は人間の友だち"と聞くけれど、ほんとうにそうなんだ〜と思うような映画。
(いや、この映画も人間が作ったんですけどね)

 

観終わったら盲導犬がいたのに気づいた。映画が観られるなんてすごい。訓練されているんだなぁ。外に出ればまた散歩中の犬がおり、「ああ、この犬にもあの犬にもいろんな人生が…...!」など考えてしまった。

のんさんの吹き替えも、マロナのキャラクターにぴったりでした。クールで少し距離感があるけれど、体温や湿度は感じられてるような。

 

今、犬や猫と一緒に暮らしている人や、かつて一緒に暮らしていた人たちは、どんなふうにご覧になったでしょうね。聞いてみたいな。

わたしは中学校の校門の前で拾ってから、6年間一緒に暮らしていた黒猫のことを思い出していました。

 

 

English Versionのトレイラー。

youtu.be

 

音声ガイドの台本作成がむつかしいと聞いていた作品。

予告を観て、確かにこの映像を一体どう表現するのか?!と楽しみになった。
イヤホン持参で行ったら......、いやーこの描写すごい!そうか、表現がどれだけ抽象的であれ、目に映るものを描くんだ!ディスクライバーさんすごい!
尺におさめるナレーターさんもすごい。

 

監督のアンカ・ダミアンさんへのインタビュー

"わたしにとって幸せとは、一人の芸術家としての幸せは、表現法を見つけることです。人々にとって重要なものや、人生にとって大切なビジョンを伝えるためです"

"作品を通して伝えたいことは、人生は愛のレッスンで、わたしたちは誰かに残せるものがあること。それは心です。わたしにとってはかけがえのないものです"

youtu.be

 

右の本は、マロナのキャラクターデザインを担当しているブレヒトエヴァンスが、ルイ・ヴィトンのtravel bookという本のシリーズのために描き下ろした作品集。

チュプキさんで展示されていて、拝むことができました。すごく、すごくすてき。

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jp.louisvuitton.com

 

パンフレットも美しく、グッズのクリアファイルもかわいい。B5サイズが珍しい。

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予告でも流れる、「犬は決まったことが好き、人はもっといいものを欲しがる」のフレーズがとても印象深いのだけれど、ドキュメンタリー映画『ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領から日本人へ』も思い出す。

もっともっとと欲しがるけれど、幸せは小さなもの。

すぐ足下に、すぐ鼻先にあるもの。

 

 

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