ひととび〜人と美の表現活動研究室

他者の表現にふれることから、自分の中にある美の感覚にもふれてみる、自分の美を表現してみる。みんなで探究する鑑賞の場づくりを通して考えることなど。

漫画『ふしぎの国のバード』読書記録

ずっと読みたかった漫画『ふしぎの国のバード』を読んでいる。 

 

概要

19世紀から20世紀初めにかけて世界各地を訪れた実在のイギリス人女性冒険家イザベラ・バードの著書『日本奥地紀行』を下敷きに、主人公のイザベラ・バードが通訳ガイドの日本人男性・伊藤鶴吉と共に、横浜から蝦夷地へと旅する姿と、旅先で出会った明治初期の日本の文化や人々をフィクションを交えて描く。

本作は原典と同様に英国本国にいる妹・ヘンリエッタへ宛てた手紙という形で物語が進行している。また、日本語を理解できないバードの視点に立って描かれており、日本語による会話は吹き出し内にくずし字様のぼかされた文様で表現されている。(WIkipediaより)

 

 意外にもコミック本体のどこにも、イザベラ・バードが実在の人物で、この漫画が彼女の著書『日本奥地紀行』を下敷きにしていることが書かれていない。人によっては、フィクションとして読む人もいるかも。

 

バードの『日本奥地紀行』を知ったのは、宮本常一の著書を読んだことがきっかけ。 


2013年に東京大学駒場キャンパスへ、バード関連の展示を観に行ったときの記録が残っていた。書いておいてくれてありがとう、わたし!この展示とても良かったので、今観に行きたい(無理ですがー)

uyography.blogspot.com

 

その後、2015年にこの漫画が出たのを知ったときにすぐに読みたい!と思ったのに、ぐずぐずしているうちに6年も経ってしまった。

2018年にはバイリンガル版というのも出たらしい。いいですね、合う。

ddnavi.com

 

 

久しぶりに漫画という形で『日本奥地紀行』に出会い直してみて、驚くことが多かった。

・バードが日本国内で旅を始めたのが1878年明治11年、この頃の日本がどのようだったか。とりわけ歴史に記録が残らない地域の人々の暮らしが見える。非常に勤勉であるにも関わらず、驚くほど貧しい。多くの集落に医者はいない。衛生や予防に関する知識も乏しい。迷信やまじないが当たり前に日常にある時代。

・日本という島国に暮らしてきた人々の文化風習、メンタリティが、全く異なる場所からきた言葉も通じない他所者のフィルターを通して観察されていく。

・バードは日本語を解さないので、日本人の話していることは読者にはわからない。バードと伊藤の英語の会話が日本語で綴られる。この表現を考えたのはすごい、おもしろい。読者をバード側、異国人の視点にグッと引き込む仕掛けになっている。

・19世紀末当時の西欧の女性の社会的立場、公的な場所での振る舞い、特に男性との関係の中で求められるものなどがよくわかる。例えば、「女性は人前でくるぶしを見せてはいけない」とか。

・「この国の人達は並外れた子ども好き(3巻)」だけれども、「この国では大人達からこの上なく大切にされる 幸福な時代はあまりにも早く終わりを迎え まだあどけない子供に 様々な人生の重責が課せられていくことになります(1巻)」どちらもそんな日本があったのか!という驚き。今日本で子どもが手放しに可愛がられているとは全く実感できない。少なくともわたしの子育ての中ではそう。台湾、香港、東南アジアなどの国々に子連れで行った時に親切にされた話などはよく聞く。自分のルーツを見ているはずなのに、とても遠い国の話のように思われる。理解できるものもある。不思議な感覚。

・都市部で洋装の男性を見たバードのセリフ、「この国の男性は和装姿の方が堂々として見える(4巻)」これは東京国立博物館の着物展の記録でも書いたが、民族衣装というのは、その国の民族を最も美しく見せる装い。でも開国し、明治になり、西洋に追いつこうと、日本は自国の文化を一旦捨てた。

・その渦中にあることが端々から伝わってくる。例えば4巻の場面。丁髷は都市部では禁止されており、逆らおうとする者が警官に連行されそうになるシーンがある。伊藤のセリフ、「バードさん、この国が西洋化を進めているのは 世界に文明国として認めてもらうためです。霊液云々(注;迷信を使った脅しをした場面)はあくまで人々を納得させるための方便出会って 実際は西洋諸国と対等な関係を結ぶために 必死に過去のものを捨てようとしているのに 西洋人であるバードさんにそれをとやかく言われれば 腹が立つのも当然ですよ」。映画『ムヒカ』でゆるっと話そうの中で、明治維新の時に西洋の文化が入ってきた時に、どれほどのショックがあったのだろうか、という感想が出たのを思い出した。漫画を読みながらまさにその心情が補完される思いだった。

・同じく4巻。バードのモノローグ、「伊藤は西洋人に反感をもちながら西洋化を誇り 迷信を嫌いつつ霊媒シャーマニズム)を信じる不思議な若者です」。伊藤を通して知る、当時の日本人、特に都市部で生まれ育ち、西洋化を肌で感じている人、の葛藤がストレートに伝わってくる。脚色はあるにせよ、的外れ感は全くない。想像を助けてくれる。

・また5巻では、わたしが8年前にブログの最後に書いていた「女性としての生きづらさ」に触れている。まだイギリスにいた頃のバードの回想シーンが、ジョン・ビショップ医師との会話、「これは近年、この国の多くの女性が共通して抱える症状なんです。知性と好奇心が豊かな女性ほど とりわけかかりやすい。本来の能力を発揮したいのに、我慢を強いられ、それにより神経が衰弱し、背中の痛みが増長されている」。そう言ってビショップ医師は、バードに長期の一人旅を勧める。このくだりを読んで真っ先に思い浮かべたのが、ヴァージニア・ウルフ(1882-1941)、或いはカミーユ・クローデル1864年-1943年)。いえ、関係あるかはわからないけれど、非常に腑に落ちる説明ではある。

・そしてこれまたわたしのブログの最後に書いた、冒険への情熱の理由も語られていた。「危険を冒さなければ出会えないものがあるの。人は皆当たり前の日常なんて気にも留めずに過ごすものよ。それがたとえやがて滅びる運命だとしても。ただひとり旅人だけが奥地に眠るふしぎな日常を記録に残すことができる。ありのままの文明を国を超えて時を超えて 人類共通の財産にする。それがわたしの冒険家としての使命よ、伊藤」

 

いやはや、出会い直せた!理解した!繋がった!

  

バードが日本に探検に来たのは46歳の時だったそう。漫画の中ではもっと若く描かれているところにややチリッとするものはあるが、漫画化してくださって、とてもありがたい。

日本は明治で大きく変わった。変わってしまった。

中世と現代をつなぐ近代の大きな転換の時代。
ここを知れば知るほど、今の社会を読み解くことができる。
この先に進むべき道を照らしてくれる。
明治がおもしろい。樋口一葉で出会い直した明治。もっと探究していきたい。

バードにも、あの時代に、遠い異国を訪ねてくれてありがとう、記録を残してくれてありがとう、とあらためて言いたい。

 

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