国立映画アーカイブの『川本喜八郎+岡本忠成パペットアニメーショウ2020』を観てきた。
こちらにも書いたけれど、わたしはなぜか人形劇が好き。惹かれてしまう。その始まりは、子どもの頃に出会った川本喜八郎のパペットアニメーション『NHK人形劇三国志』だった。
とはいえ、川本作品で三国志以外に実際に映像として観たのは、2005年の岩波ホールで公開された『死者の書』だけ。あとは資料で想像を膨らませてきた。
三国志はDVDを全巻持っている。並びがぐちゃぐちゃなあたりに性格が出る......。
とにかく川本の人形が好きすぎるので、今回の展示はほんとうにうれしかった!!!
うれしすぎて、大事すぎるので、なかなか記録が書けなかったぐらい。
いつものようにバラバラと観たものを記録していく。自分の備忘。
第2章:川本喜八郎 アニメーションの仕事
第3章:岡本忠成 アニメーションの仕事
第4章:「川本+岡本 パペットアニメーショウ」の時代
第5章:『注文の多い料理店』とその後
・展覧会タイトル自体が二人へのオマージュになっている。かつて二人で催していたパペットアニメーションの祭典、「パペットアニメーショウ」を没後の2020年に蘇らせた。
・展示は岡本忠成と川本喜八郎(1925-2010)の軌跡が交互に置かれている。パペットに取り組みはじめたきっかけから、それぞれのキャリアを辿り、交友を紹介し、やがて岡本が先に逝き、残された川本が後を引き継ぎ完成させた『注文の多い料理店』を経て、川本の『死者の書』、川本の岡本の死に際しての弔辞で終わる。各々の魂を込めた仕事と二人の間の絆を見せる、ニクい演出だ。「よきライバルであり、よき理解者であった」
・川本人形の美しさを間近で見られてよかった。三国志は観たことがあったが、それ以外のものは意外と小さい。高さ25cm〜30cmぐらいだろうか。小さいものは20cmぐらいまで。衣装も細かく、ひだの入り方や、風でなびく様を表すためのヒューズ(針金のようなもの?)の入れ方など工夫が多そう。特に映像展示「メイキング・オブ・『死者の書』」で観られる。藤原南家郎女の人形の実物の展示がある!
・川本はもともと大学では建築を学び、卒業後は東宝の美術部に勤務する。25歳で退社してフリーの人形美術家になる。1963年、38歳のときに、学び直しのためにチェコに渡り、イジー・トルンカに師事。
・受け入れについて返信したトルンカの手紙の実物が展示されている。キャリアの転換期にあって、尊敬する人からこんな手紙をもらったら、胸が熱くなるだろう。わたしはトルンカのパペットアニメーションも大好きなので、ここは食い入るように読んだ。
「わたしのアニメ製作への深い理解をありがとう。スタジオは国営だからわたしに決定権はないけれども、海外からのアニメ作家や研修生を歓迎するはずだ。ユネスコの奨学金もあるはずだから、東京にある大使館に問い合わせてほしい。来年新作を予定していて、3,000フィート、製作期間は6-7ヶ月になる」
などが書かれていた。わたしの雑な訳ですみません。
新作を経験できるよだったか、手伝ってほしいというニュアンスだったか、不明瞭なのだけれど、予定や野望を伝えてもらえるのって、これから海を渡ろうとしている人にとって、十分な発奮剤になると思った。
そして、
人形芸術は、肌の色や宗教や人種の違いを超えて、人々や国家の橋渡しをする媒体だと確信している。
the art of puppet、このスピリットが重要なのだと思う。とるに足らないもの、子ども騙しではない、消費されるものではない。
・岡本忠成は法学部出身。意外な来歴。その後日大芸術学部に入り直している。どちらも「学び直し」という点で共通する。川本をして「無限の忍耐力というアニメーターの資質の権化の様な方だった」と言わしめた。無限の忍耐力......。
・チェコからの書簡。万年筆で綴られたまっすぐで美しい筆跡。
詳しい内容は、こちらの書籍にあるようだ。若かりし川本が異国の地で何を見ていたのか、トルンカから何を教わったのか、知りたい......購入!トルンカから日本の伝統芸能ひついて示唆を受けたことが、その後の川本の人形製作に大きな影響を与えているというあたり、特に。『チェコ手紙&チェコ日記――人形アニメーションへの旅/魂を求めて』
・トルンカの『真夏の夜の夢』(1959年)のパックのパペットが展示されている。これも......映画で観たことがあったので、 うれしい。しかも去年NTライブと生の舞台で2回も観る機会のあった、『真夏の夜の夢』ここでもまた!
・絵コンテ(Storyboard)が非常に美しい。もちろんこの時代だからすべて手描き。これがすでに芸術品。
・川本の初期の作品、今観てもモダンで、ちょっと人間の性質に触れる怖さもある。犬儒戯画』『旅』『詩人の生涯』。
・岡本の作品も意識的には初めて観たが(たぶん「みんなのうた」などで観ているはず)、写真、切り絵、コラージュアニメなど、材料も非常に多彩で驚く。図画工作の作品が動いている......というと伝わるだろうか。
・『いばら姫またはねむり姫』は日本で企画して、イジー・トルンカスタジオで製作。「スタッフは欧州公演中の能を鑑賞して、川本の求める人形の動きを理解した」......能!
・常時上映中のビデオ展示『素材からイメージの定着まで』(1986年)は、パペットアニメーションの創意工夫を見ることができる。これを観る前日に、ドキュメンタリー映画の創意工夫についてのレクチャーに参加していたので、作り手の思いを読み取りながら観た。肉体的にも精神的にも気が遠くなる作業、原作の世界観をどう生かすか、素材の検討、素材の性質と可動性と方法、線の美しさ、画面全体の調和、撮影のプロセスの考慮......、一見単純に見える画面の裏側にどれだけ考えることがあるのか、呆然とする。また、アニメーションの中でもそれぞれに工夫が違う。
演出の違い
・劇映画:俳優の演技を見てやり取りしながらつくる
・セルアニメ:前後のセルを動かして調整
・パペット:アニメーターとの事前の打ち合わせがほとんど
・わたしが好きだった三国志は、1982年、川本47歳のときに始まった。脂ののった時期。
・「パペットアニメーショウ」は和田誠のイラストレーション。「大人になってホントに笑ったことありますか」というキャッチコピーがついている。中身は考えられないほど豪華なイベント!
・川本の言葉
よい人形アニメーションは人形が生きているようにいる。動かされていたらダメ。人形に合った題材を選ぶ。合っていないと人形が嫌がって絶対に生きてこない。
・岡本の言葉
作り手が一方的にイメージを押しつけるのではなく、各々の感性で映画を観る人の想像をかきたてるような映画作り。
観る人のイメージをふくらませ、スクリーンへの集中力を持続させるためのねらい。一人でも多くの人が共感できる世界をつくりかった。
・『注文の多い料理店』に込めたのは、現代人間批判。岡本の元にいたスタッフから、川本への制作における思いが手紙の形になって残っている。これも非常に重要な記録だし、読んでいて響くところがある。「一つひとつはそれほどの罪ではないかもしれない。でも知らず知らずのうちに追い詰められ、そして紙屑のような顔になり、しかもそれが直らなくなってしまう」......ああ......。
展覧会の最後は、岡本の死去に際しての、川本の弔辞文の展示で終わる。
川本にとっては、岡本と一緒に行ったパペットアニメーショウが、「一生を通じての、最も輝かしい時期であり、最も楽しい時期だった」と。
また、手間も暇も金もかかるのに、金にならないし、国にもマスコミにも文化として理解されない中で、アニメーションの魅力に取り憑かれ、素晴らしい芸術であることを信じてきたことも書かれている。
受け継ごう、受け渡そうと共に格闘してきた岡本への賛辞と感謝に満ちて、この展覧会が終わる。
わたしにもこんな同士がいるだろうか。この先も現れるだろうか。
いや、既にいるか......。
わたしにもバトンが渡されたかのような心持ちで、会場を後にした。
残念ながら展示の図録の作成はないとのこと。写真も撮れないので、メモをとるか、目に焼き付ける他ない。
展示を見てると全作品観たくなるなぁと思っていたら、2021年5月8日から、シアター・イメージフォーラムで上映があるそうだ。
このタイミングで、ほんとうに素晴らしい!ありがとうございます!!
▼ツイッターリンク
アニメーションの神様、その美しき世界 https://twitter.com/anime_kamisama
川本喜八郎プロダクション https://twitter.com/chirok_kawamoto
飯田市川本喜八郎人形美術館 https://twitter.com/KawamotoPuppet
岡本忠成 https://twitter.com/okamototadanari
いつか行きたい、飯田市川本喜八郎人形美術館。チラシだけでもうたまらん......。
飯田市は、人形劇のまちなのだそう。エンパクの人形劇企画展でも紹介されていた。
国内はもとより、世界各地から300劇団以上が集まる日本最大の人形劇の祭典「いいだ人形劇フェスタ」。文化が根付いた背景と歴史を紐解きながら、人形劇のまち・飯田のさまざまな楽しみ方をご紹介します。(HPより)
飯田まで行けなくても、東京には川本喜八郎人形ギャラリーがある!川本が渋谷区千駄ヶ谷出身であることに因んで。生の川本人形を観られる。
ギャラリーからこんな番組も配信されている。
おまけ。エンパクのLGBTQ+展でも紹介されていた、木下恵介の『カルメン故郷に帰る』。これもあのキュレーションのメッセージを背負って観てみたい。
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