ひととび〜人と美の表現活動研究室

他者の表現にふれることから、自分の中にある美の感覚にもふれてみる、自分の美を表現してみる。みんなで探究する鑑賞の場づくりを通して考えることなど。

映画『風が踊る』(台湾巨匠傑作選)鑑賞記録

新宿K's Cinemaで上映中の台湾巨匠傑作選2021侯孝賢監督40周年記念 ホウ・シャオシェン大特集を追っている。

 

3本目は侯孝賢のデビュー第2作『風が踊る』。1981年制作。
原題:風兒踢踏踩 英題:Cheerful Wind

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画家の回顧展を観ているようだ。

今は世界中の映画人から巨匠と呼ばれ、40年のキャリアを持つ侯も、台湾ニューシネマ以前の若かりし頃は、このような瑞々しく、伸びしろいっぱいの作品を作っていたのだなぁ。感慨深い。

時代を感じる。題字がイイのよ。

youtu.be


ファッション、音楽、街並み、家のインテリア......80年代らしさがてんこ盛り。

作品を貫いている呑気さ。あらすじから想像していたのは「ほどほどにシリアスな部分もある恋愛映画」だったが、とにかく呆れるほど呑気で、ずっと可笑しい。時代が異なる、文化が異なると、映画を観ているときの、「え?!なぜそうなる……?(ぽかーん)」というあの感じ。

商業的な成功を目指し、台湾と香港の人気アイドル歌手や俳優を起用した「旧正月映画」のアイドル映画と聞けば納得。どこまでもラブコメで爽快。

娯楽だからこそ社会をより映す。伝統的な家族観や結婚観にとらわれず、自分の人生を考え、選択する主人公の女性の姿は、当時としては新鮮だったのではと想像。

男・恋愛より野心を選ぶ。

CM制作会社で撮影クルーの一員として写真のプロとして働く彼女。恋人と暮らす家の様子。台北版のトレンディ・ドラマかな。

前日観た『日常対話』では、一世代前の人たちの、「結婚するしか女の生きる道はなかった」「独身でいる女の幸せなんか誰も願わない」などという言葉があったから、余計にこの転換期の映画は、「目撃している」感が強い。

男性に「あなた〜やっといて」と指示指図する様子。さらに新鮮さを超えて、「えっそれはやっちゃった(笑)では済まないのでは……」というキャラクター造形のぶっ飛び方は、なかなか理解し難い、不思議なトーンのコミカルさ。

シーンによっては痛快でさえある。権威への軽やかな反抗とも見える。

何気ない会話の中に、「日本」や「日本人」が登場して、いちいちどきどきする。「仰げば尊し」の替え歌も出てくる。田舎町の様子も日本に似ている。

都市と田舎の対比。『恋恋風塵』でも出てきたが、やはりここでも。
『風が踊る』では、澎湖島(ほうことう)の鄙びた漁村でCM撮影をするシーンから始まるが、スティールカメラ担当のシンホエも、彼女の恋人でディレクターのロー材も、田舎らしさが絵になると食いついていく。そこに明確な格差を感じる。

それでも、シンホエはもともとが田舎の出身だからか、都会に暮らし、働きながらも、行き来してどちらにも順応する様子を見せる。親の言う伝統的な家族像には飽き飽きした表情を見せるが、決して田舎がダサくて嫌で出て行ったという感じでもない。

というか、あまり誰の内面も見えない、「ガーン!」という瞬間はあるが、誰も深く考えていなくて、「ま、しょうがないね!」という感じで次の瞬間はニコニコしている。


視覚障害者の扱いにはかなり疑問が残るが、これもまた時代を映しているということだろう。今観るとぎょっとするレベル。


北京語と台湾語も話されているらしい。もしかすると広東語も?北京語と台湾語は全然違うらしいが、どれも知らないわたしからすると同じに聞こえる。「今は台湾語を話す人もいなくなったし」というような言葉が『台湾、街かどの人形劇』では聞かれていた。

終始カラッとしていて、朗らかで、呑気な映画。

時代の勢いと作家の若いエネルギー、その後に通じる作風を感じる一本。

 

台湾映画、おもしろい。あと何本観られるかな。

 

今回特集されている映画の世界を知るのに、この2冊は欠かせない。
劇場窓口で販売しています。

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デジタル版制作、大変だったようです。でもやっぱりきれいな画面だと集中できてありがたい。

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今はリゾートの澎湖島。

news.arukikata.co.jp

 

映画に映っている街並みや空気は、時代と共になくなっていくのだろう。貴重な記録でもある。

 

 

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