新宿K's Cinemaで上映中の台湾巨匠傑作選2021侯孝賢監督40周年記念 ホウ・シャオシェン大特集を追っている。
3本目は侯孝賢のデビュー第2作『風が踊る』。1981年制作。
原題:風兒踢踏踩 英題:Cheerful Wind
『風が踊る』(1981年)
— 台湾巨匠傑作選2021 (@twkyosho2021) 2021年3月26日
デジタルリマスター版
[ストーリー]
CM撮影で澎湖島を訪れたカメラマンのシンホエ(鳳飛飛)は、事故で視力を失った青年チンタイ(ケニー・ビー)と知り合う。その後ふたりは台北で偶然再会を果たすが…#台湾映画#台湾巨匠傑作選#ホウ・シャオシェン#侯孝賢#台湾巨匠2021 pic.twitter.com/J5nXOc1TKM
画家の回顧展を観ているようだ。
今は世界中の映画人から巨匠と呼ばれ、40年のキャリアを持つ侯も、台湾ニューシネマ以前の若かりし頃は、このような瑞々しく、伸びしろいっぱいの作品を作っていたのだなぁ。感慨深い。
時代を感じる。題字がイイのよ。
ファッション、音楽、街並み、家のインテリア......80年代らしさがてんこ盛り。
作品を貫いている呑気さ。あらすじから想像していたのは「ほどほどにシリアスな部分もある恋愛映画」だったが、とにかく呆れるほど呑気で、ずっと可笑しい。時代が異なる、文化が異なると、映画を観ているときの、「え?!なぜそうなる……?(ぽかーん)」というあの感じ。
商業的な成功を目指し、台湾と香港の人気アイドル歌手や俳優を起用した「旧正月映画」のアイドル映画と聞けば納得。どこまでもラブコメで爽快。
娯楽だからこそ社会をより映す。伝統的な家族観や結婚観にとらわれず、自分の人生を考え、選択する主人公の女性の姿は、当時としては新鮮だったのではと想像。
男・恋愛より野心を選ぶ。
CM制作会社で撮影クルーの一員として写真のプロとして働く彼女。恋人と暮らす家の様子。台北版のトレンディ・ドラマかな。
前日観た『日常対話』では、一世代前の人たちの、「結婚するしか女の生きる道はなかった」「独身でいる女の幸せなんか誰も願わない」などという言葉があったから、余計にこの転換期の映画は、「目撃している」感が強い。
男性に「あなた〜やっといて」と指示指図する様子。さらに新鮮さを超えて、「えっそれはやっちゃった(笑)では済まないのでは……」というキャラクター造形のぶっ飛び方は、なかなか理解し難い、不思議なトーンのコミカルさ。
シーンによっては痛快でさえある。権威への軽やかな反抗とも見える。
何気ない会話の中に、「日本」や「日本人」が登場して、いちいちどきどきする。「仰げば尊し」の替え歌も出てくる。田舎町の様子も日本に似ている。
都市と田舎の対比。『恋恋風塵』でも出てきたが、やはりここでも。
『風が踊る』では、澎湖島(ほうことう)の鄙びた漁村でCM撮影をするシーンから始まるが、スティールカメラ担当のシンホエも、彼女の恋人でディレクターのロー材も、田舎らしさが絵になると食いついていく。そこに明確な格差を感じる。
それでも、シンホエはもともとが田舎の出身だからか、都会に暮らし、働きながらも、行き来してどちらにも順応する様子を見せる。親の言う伝統的な家族像には飽き飽きした表情を見せるが、決して田舎がダサくて嫌で出て行ったという感じでもない。
というか、あまり誰の内面も見えない、「ガーン!」という瞬間はあるが、誰も深く考えていなくて、「ま、しょうがないね!」という感じで次の瞬間はニコニコしている。
視覚障害者の扱いにはかなり疑問が残るが、これもまた時代を映しているということだろう。今観るとぎょっとするレベル。
北京語と台湾語も話されているらしい。もしかすると広東語も?北京語と台湾語は全然違うらしいが、どれも知らないわたしからすると同じに聞こえる。「今は台湾語を話す人もいなくなったし」というような言葉が『台湾、街かどの人形劇』では聞かれていた。
終始カラッとしていて、朗らかで、呑気な映画。
時代の勢いと作家の若いエネルギー、その後に通じる作風を感じる一本。
台湾映画、おもしろい。あと何本観られるかな。
今回特集されている映画の世界を知るのに、この2冊は欠かせない。
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デジタル版制作、大変だったようです。でもやっぱりきれいな画面だと集中できてありがたい。
今はリゾートの澎湖島。
映画に映っている街並みや空気は、時代と共になくなっていくのだろう。貴重な記録でもある。
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