映画『ブックセラーズ』公開後、3日目に観た。ヒューマントラストシネマ有楽町にて。
http://moviola.jp/booksellers/
ひたすら眼福であった。
よい、本はよい。美しい。
本や、本を扱う仕事の人の愛やリスペクト、願いに満ちているドキュメンタリー。
美しい本だけ、愛している本、自分にとって意味や価値のある本だけを所有したくなる。
とはいえ、あまりまったりとした、落ち着いた時間の流れる作品ではない。
むしろ、情報量がとても多く、矢継ぎ早で、細切れで、体系化しづらい。アメリカ、イギリスあたりのドキュメンタリーのよく見る作法だ。製作者も観客も、「一度に大量の異なる立場や背景や個性からの意見を聴くこと」に慣れている文化圏、一定の文化層の人がなのだろうな。おもしろかったけれど、おもしろいことがどんどん降ってくるので、わたしにとっては、大学の講義のような、修行のような時間だった。
骨董品か美術品か?
「コレクションとしての本」という、あまり目を向けたことのない世界でもあったが、わたしは切手のコレクションをしているので、なんとなく分かるような気がする。切手のバザールに行くと、ああいう人たち、いる。似た雰囲気。
世界は「コレクションする人」と、「コレクターが理解できない人」の二種類に分かれるってほんとそう!コレクターは「変質的で衝動的」なんだそうです。わかる。コレクションは生きがいなのだよ。人間はつくらずにはいられない、集めずにはいられない生き物なのだ。
「コレクションを発展させるとアーカイブになる」というくだり。「自分たちの文化や人生を理解しているとは言い難い。だからアーカイブして活用することが大切」というライブラリーやミュージアム論にも発展していて、興味深かった。
メモ魔でなんでも「取っておきたがり」のわたしとしては、メモの価値のくだりはうれしかった。制作プロセスがわかるものとしての価値。そういえば、レイ・イームズもすごいメモ魔だったんだっけ。メモ入りの本の価値や味わいについて触れているところもあったなぁ。最近その話、それぞれ別の場所でちょいちょい聴く。なんでだろう、おもしろいな。
「この業界に入ったきっかけ」について聞いてくれるのがよかった。これは仕事のトリセツだ。「親がやってたから自然に」「他にできることがなかった」から、もう一歩二歩深く聞いていくといろんな話が出てくる。仕事への情熱、その人自身の核、親子やきょうだいの関係、当時の街並み、時代の空気。センス(感性や勘)をどう磨くかのプロフェッショナリティ。
「この本すごいよ、本物のマンモスの毛がついてる」
「遺品整理はお宝の山。書棚のある空間に知的なエネルギーが残っている」
「人と本との関係は恋愛。他人にはわからない」
「紙は霊魂の蓄電器、文化の変遷と記録」
「紙で愛を共有する」
「550年流通してきた完璧な物体」
「本に正しい家をみつけてやるのよ」
「書店は着想の棲家」
この本への愛、愛、愛よ!!!
上の世代は、もうこの仕事は立ち行かない、職人や個人コレクターは減り、書店や出版業界は衰退している、電子書籍に取って代わられた、いやそもそも読書という活動をしなくなった、など悲観的だ。
しかし若い世代は、ヴィンテージやアンティークとしての希少本への再発見や、地域とのつながり、インターネットが「あるからこそできること」を見ている。「いつもミレニアル世代のせいにされるけど(笑)わたしは大丈夫、アイディアがいっぱいあるから」と軽やか。
また、かつてはブックセラー業界の85%が男性"Boy Club"だった。長い間女性は歓迎されていなかった。どんなに有能でも裏方として(behind the scene)動かざるを得なかった。なぜなら経営者ではなかったから。でもその現状も先人の跡を継ぎ、若い世代がさらに流れを太くしている。
「どうしたら多様になるか、いつも格闘してる。反対する人をどう説得するか。今を変えることが未来をつくる」
うーん、勇気の出る言葉!
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掲載情報🗞
— 映画『ブックセラーズ』 (@booksellerseiga) 2021年4月30日
本日4/30(金)朝日新聞夕刊に『#ブックセラーズ』のD・W・ヤング監督のインタビューをご紹介いただきました。
「ネット上にあふれる情報に心をかき乱されるなか、物理的な本は私たちに集中と平穏を与えてくれる。今後も、本は生き残っていくと信じています」 pic.twitter.com/UauXH4Aa9F
世界のブックデザイン展がお好きな方なら、間違いなくこの映画も気に入るはず!
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