ひととび〜人と美の表現活動研究室

他者の表現にふれることから、自分の中にある美の感覚にもふれてみる、自分の美を表現してみる。みんなで探究する鑑賞の場づくりを通して考えることなど。

『侯孝賢と私の台湾ニューシネマ』刊行記念のライブトーク:視聴メモ

誠品生活日本橋プレゼンツ、『侯孝賢と私の台湾ニューシネマ』刊行記念のライブトーク、とてもよかった。

seihin0523newcinema2.peatix.com

 

登壇者は、樋口裕子氏(翻訳家)、小坂史子さん(映画プロデューサー)、江口洋子さん(台湾映画コーディネーター)。
 
それぞれの立場から見た朱天文さんや侯孝賢監督の印象やエピソード、作品に対するご自身の感想など、惜しみなくシェアしてくださった。
 
5月に入って、侯作品を含む台湾映画を10本以上観てきて(明日も行く予定で)、パンフレットも熟読して、もちろんこの本も読んで、感想も書いてきた。
 
こういうわたしのような観客&読者にとって、きょうのライブはまるでご褒美のような時間だった。(今回は、メインのほうを中心に見ているので、「江口洋子スペシャルセレクト」まで手が回っていない。江口さん、ごめんなさいッ)
 
まずは、本にしようと思った樋口さんの思いが、ご本人の口から聞けたのはよかった。
「通訳には守秘義務があるから話せないけれど、これをわたし一人が知っていていいのかな......いや、なんとか日本の人たちにも知ってもらいたい!朱天文さんのことも知ってもらいたい!」「この本を時間の玉手箱みたいにしたい」。
この思いには、ビデオレターで登場された朱さんも、「樋口さんの翻訳に対する情熱や妥協を許さない新鮮さがこの本を完成させた。とても感謝している」とおっしゃっていた。
 
 
樋口さんと小坂さんは20年のお付き合いとのことだけれど、侯さん、朱さんとの付き合いの長さや濃さ、関係性はそれぞれに違う。「わたしとはこうだったな」「わたしから見たあの人はこういう面がある」とお二人から違う話が聞けることで、侯さん、朱さんの実存や人柄が立体的になってくる。遠い人ではなく、より近く感じられる。
 
 
・朱さんは、文学者でもある。漢文の引用も多く、幼い頃からの素養がある。言葉が優雅で奥深い。実際のご本人は、イメージの通り、品のある、知的で賢い、言うことは言うけれど、余計なことは言わない人。
・「どうしてこんな昔のものを翻訳しようって思ったの?」と朱さん。「宝石のようなエッセイを日本の人が知らないのはもったいないから」と答えた樋口さん。朱さんからのリクエストは特になく、一任されていたと。ひとえに樋口さんの熱意。
・朱さんの小説世界は本人から受ける印象とは違う。
・監督のインタビューは、荒っぽい翻訳にさがちだけど、知的で文学の好きな人。通訳には優しく、穏やか。懐の広い人。クリエイター同士では厳しい面も出るが。
・監督は孤独。自分の考えを聴いてまとめて、一緒に議論してくれる仕事のパートナーはありがたいはず。
・監督はファッションにはこだわりがないけれど、スタイルは持っている。日本でショッピングに付き合ったことが一度もない(通訳として)。
・今や世界の巨匠が、大久保のビジネスホテル(甲隆閣)を好む理由を、朱さんがミレニアムマンボと合わせて文章を書き下ろしてくれた。これは貴重。
 
その他、
・小坂さんの結婚式に侯監督と朱さんが出席されたとか、
ツァイ・ミンリャンが珈琲通とか、
・監督がCDを出してその中で自分の歌も入れていたとか、カラオケに行ってマイクを離さないとか(ちなみに小坂さんと朱さんはカラオケには付き合わない)
 
 そうそう、そうそう、こういう話が聞きたかったのよ!
 
映画の評価、映画の作法や技術、作家論、業界の話などではなく、親交のある人たちが語る、大切な人の話なのがよかった。

なによりこれは朱さんの本なので、1982年からはじまり、39年間、侯孝賢監督とずっと一緒に仕事をしてきた朱さんがどのような人なのか、朱さんが映画や監督とどのような関わりをしたのか、監督がどんなことで悩んでいたのかを朱さんを通して知る本になっているので、やはり人物を中心に話をしてもらえるのが、とてもうれしい。
 
1980年代ぐらいに遡って行ったり来たりしながら話していたのもあって、時間のことを考えた。わたしもみなさんと1980年代を生きて、今も2021年を生きていて。
この人たちを同じ時代を生きている、この巨匠たちがまだ生きているということのありがたさを思う。
 

 

視聴者からの質問もよかった。

 

●侯作品で一番好きなのは?

・樋口さん:『童年往事』ディテールがすごい(たとえば箸を洗っているシーンなどああいう細かいところまで作り込みがある)

・小坂さん:『風櫃の少年』

・江口さん:『黒衣の刺客』監督が記者会見で「『黒衣の刺客』はよくわからないと言われる。一度見てわからなかったら、二度みてくれ、二度見てわからんかあったら三回みてくれ、わたしはこれが完成品だと思っている。」と言っていたのを見て、三回見てみたら、発見があった。

 

侯孝賢作品を知って日が浅い人にどの作品がお勧め?侯作品に足を踏み入れるならどこから?

・『冬冬の夏休み』『恋恋風塵』わかりやすくて心に沁みる

・映画業界の中で、『憂鬱な楽園』が好きな人は多い。変わった映画。自由さがある。

4年前に来日したときに、「監督自身はどの作品が好きですか?」と聞いたら、『憂鬱な楽園』とのことだった。「すごく自由に撮れた。楽しかった」コッポラも好きな映画に挙げている。
 

●台湾の人は侯孝賢監督をどのように捉えているか?

・日本の監督でもそうだと思うが、知っている人は知っているが、知らない人は全然知らない。台湾でも有名な人ではあるが、一般の商業映画を観る人にとっては名前しか知らないという人もいるかも。ただ、時代が巡ってくるので、若い人たちが見直し始めているところはあると思う。

 

わたしも質問してみた。

●小坂さんの後ろに映っている竹製のものはなんですか?

四川省で作られている暑いとき用の抱き枕とのこと。130cmぐらいはある。

よくぞ聞いてくれましたと言ってくださった。わーい!質問してよかった!

 

 

終始、御三方が、にこにこと穏やかに、時折熱く、楽しくお話されている様子に気持ちが暖まった。居心地のよい時間だった。

わたしより少し上の世代の女の人たちが、自分の好きや得意をいかして仕事をしてきて。(どなたも、翻訳家、映画プロデューサー、映画コーディネーターという肩書には収まらない仕事の幅と深さがある。)その仕事を通じた長いお付き合いがあって(樋口さんと小坂さんは20年来)、今回のお仕事があって、今ここにいらっしゃる。

50代、60代の女性で素敵な方に会えると、わたしもこの先が楽しみだなと思える。

 

 

 

小坂さんと喫茶店。言葉はわからないけれど、たぶん映画『珈琲時光』になぞらえて、小坂さんが台北のまちを歩きながら、お気に入りの喫茶店と書店を案内してくださっている、のだと思う。

 

youtu.be

 

そうそう、こんな話もされていた。

朱さんの手元にある貴重な写真のうち、半分ほどがこの本に収められているという。(いや、渡されたうち、載せられたのが半分だったか?どっちだったかあいまい)

刷り上がった本が台湾に到着した頃、侯監督と朱さんは、毎日喫茶店に行って、二人でページをめくりながら、写真を見ていたのだそう。侯監督にとっては初めて見る写真ばかりだから、朱さんがキャプションを説明してあげているとのこと。

 

エドワード・ヤン侯孝賢は、小坂さんが一緒に仕事をするようになった頃には既に付き合いがなくなっていたそう。

「彼らが一番お互いを必要とし、あれだけお互いを支え合った日々は、朱さんにとってもあのときしかなかった時間。そこがとても大事な本。」

との小坂さんの言葉を最後に聞けてよかった。

そういえば『HHH: 侯孝賢』の中でも、陳國富(チェン・クゥオフー)だったかが、「あの頃に戻れるなら、自分の作品を全部売り渡してもいい」というようなことを言っていた。

だからこそ、この特別な写真が表紙になっている。いろんな人にとっての、言葉にできない事情も感情もたくさん含んだ、特別なとき。

 

人生のある時期。終わる関係。続く関係。そして人生は続く。

かれらの人生自体が、まるで一本の映画のようにも見えてくる。

 

 

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台北市内にある古き良きロシア、「明星咖啡館」(2019.10)

ロシア料理が食べられる珍しいレトロ・カフェ「明星珈琲館 (Cafe Astria)」 | 歩く台北(台湾)

イベントでも話題に出ていた、ロシアンマシュマロが気になる。