ひととび〜人と美の表現活動研究室

他者の表現にふれることから、自分の中にある美の感覚にもふれてみる、自分の美を表現してみる。みんなで探究する鑑賞の場づくりを通して考えることなど。

映画『雨月物語』鑑賞記録

4月の終わりごろからずっと10代〜20代前半で観ていた映画のデジタルリマスター・リバイバル上映が続いている。時代がひとめぐりしているような、20年や30年ぶりに出会う作品たちを懐かしく思うと共に、その背景になっている社会の変化や、わたし自身の人生のターンとも絶妙に絡まりあっている。その上で、時間というものが示してくれる、不思議な体験......時間を激しく行き来しているうちに、SF的な感触を映画を通じて得ているようだ。大変言葉にしづらいのだが、なんだかそんな中にいる。

 

そのうちの一本がこちら、溝口健二の『雨月物語』だ。

たしか中学か高校のときにBS放送で観て、「なにこれ、すごいな」と思った記憶がある。大学に入って、映画のことをいろいろ調べたり、詳しい人の話を聞いているうちに、それが小津安二郎黒澤明と並ぶ「世界の溝口健二」の作品だったと知る。

そして数十年して今、森雅之が主演俳優だったと知ったところだ。(『羅生門』の!)

 

あの頃観て、「すごい」と思ったのはなんだったのか、今の自分として観たらどうなのか知りたいと思い、観に行った。

なんといっても、この古典を美しく蘇った映像で、劇場のスクリーンで観られるのはうれしい。

劇場は、小学館が運営している「神保町シアター」。はじめて行く劇場だ。よしもと漫才劇場の東京拠点「神保町よしもと漫才劇場」が併設されている、ちょっと不思議なコンプレックス施設になっている。

 

 

観た。

デジタル処理してあるので、映像も音もとてもきれい。

フィルム映像もそれはそれで味わいがあるが、きれいな映像を見慣れている身からすると不鮮明で不明瞭というのは、鑑賞時の集中力に影響が出てくる。この感じ何かに似ているなと思ったら、古民家だ。日本家屋、古い民家は雰囲気はとてもよいけれど、現代人にとって住むにはなかなか厳しい面がある。そんな感じ。

当時、モノクロ映画もガツガツ観ていたが、ものによっては耐えられなくて途中で寝てしまったものも多い。あれはもしかすると不鮮明だったから(よく見えない、聞こえない)からだったのでは?(いや、言い訳かもしれないが)

 

思いがけず、近江の国、湖北(琵琶湖の北部)が舞台で驚いた。わたしはそのあたりにもルーツを持っているのだ。一気に親近感が湧く。

 

貨幣経済社会に絡めとられていく男、侍になりたい、と取り憑かれていく。「わたしはあなたさえいてくだされば」と引き止める女を振り払って行ってしまう。「世の中は万事金」と言い切る男。戦は人まで変えてしまう。

食うにも困り、余裕がなく、傷が癒えぬまま奪い合い、生き抜こうとする時代、決まって犠牲にな、おんなこどもだ。

制作は1953年。敗戦から間もない頃。時代に対する批判的な鋭い眼差しを感じる。

 

とはいえ、今の自分としては、もう平常心で見ていられないところがある。

それは物語の設定として、女の身体や精神が犠牲になることを、あまりにも気軽に扱いがちであるところに憤りを覚える。この創作行為が、決して昔の話ではないという絶望もあるので、余計にそう感じる。

結局最後は、「女は男を赦す」という描き方も納得がいかない。もちろん「男」の「アホらしさ」も目一杯描いてはいるのだけれど(「俺が立身したら褒めてくれると思った」とか)、どこか「仕方ががない」「許してネ」という感じがあるのだ。女の苦労は全然報われない。酷い。

時代には批判精神はあるが、社会における女性の扱われ方への批判の態度はない、というか。

 

「世界の溝口」の表現の凄さよりも、そちらが目についてしまった。「女性映画の監督」と言われてもなぁ......という。その評価をつけていたのは女性ではないでしょう、おそらく。制作現場での逸話もいろいろある人のようだ。

評価すべき点と、再考すべき点は大いにあるだろう。

巨匠と手放しで称賛できる時代は終わった。

 

「若狭様」とのシーンは、明らかに作り物とわかっているのに、やっぱりむちゃくちゃ怖い。若狭様も怖いが、お付きの老婆も怖い。怖くて、ほんとうに鳥肌が立っていた。

 

わたしは、「森雅之トニー・レオンは似てる」説を唱えているが、主人公・源十郎のキャラクターは、1990年代のトニー・レオンが演ってもけっこう良い味が出そうだ。

 

想定と異なる、後味の悪さが残ったまま、劇場をあとにした。

 

 

▼親切な方の解説動画。わかりやすい。

youtu.be

 

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