今年のGW、クレマチスの丘で、芸術を補給してきた。
移動は自粛が求められているときだったが、精神的にかなり逼迫していたので、今しかないと思い、行くことに決めた。移動して身体を運ぶこと、いつか訪れた場所と再びつながることなどを必要としていた。
現在は、休館中のIZU PHOTO MUSEUMを除いて、2館で4つの企画展を観ることができる。
歩いた順に。
▼ベルナール・ビュフェ美術館
ベルナール・ビュフェの作品は、今年2月にBunkamura ザ・ミュージアムで回顧展を観たばかり。
このときに、次はぜったいクレマチスの丘に観に行こうと決めていた。
やはり専用の館で観るのは、受け取るものが違うはずだから。点数も圧倒的であろうし。
具象画家 ベルナール・ビュフェ ―ビュフェが描いたものー
会期: 2021年4月10日(土)~2022年3月6日(日)
https://www.clematis-no-oka.co.jp/buffet-museum/exhibitions/1674/
Bunkamuraで見たり、図録で見た作品もあれば、初めて見る作品も。潤沢に100点以上。圧巻。
当日のわたしのメモに、「よき集中と精力的な統一、自由、スペース」「平和主義者は孤独である」とある。
1947年戦後まもなくのころの、画材を買うお金がなく、カーテンをつぎはぎにしてキャンバスにした、つぎはぎの痕が見える作品もあった。執念。その過程も作品の一部となり、効果を生み出している。今後この頃の作品を見る時に注目したい。
今回の展示のコンセプトは、「具象」。抽象と具象は対立するものではないという提示。
絵画作品はすべて"抽象"です。
具象絵画は誰にでも理解できるものでなければならない。
同時に、そこに人々が何かを見出すことができなければならないのです。
すべての芸術が"抽象"であるというのは、この意味においてです。(ベルナール・ビュフェ)
しかし多作な人だ。あふれる陰のエネルギー。 たまに猛烈に浴びたくなる。
ベルナール・ビュフェ美術館 館報 4号
懇切丁寧なガイドが無料でいただける。
『ビュフェとアナベル』ベルナール・ビュフェ美術館/編(フォイル, 2007年)
こちらの本、ミュージアムショップで買った。二人の関係が作品に与える影響。アナベル自身の生い立ちやアーティスト性。近頃、作家のパートナーを「ミューズ」として副次的に、消費的に見たくない心境なので。よい内容。
『ベルナール・ビュフェ 1945-1999』(ベルナール・ビュフェ美術館, 2014)
こちらはBunkamuraで購入した画集。 リンク先では高額になっているが、ベルナール・ビュフェ美術館ではまだ定価で買える。他にも置いているミュージアムショップはありそう。
▼丸木スマ展 @ベルナール・ビュフェ美術館
わしゃ、今が花よ 70歳で開花した絵心 丸木スマ展 | ベルナール・ビュフェ美術館 | Bernard Buffet Museum
70歳をすぎて初めて絵筆をとる。人生の最後に画家として生き、衝撃の死を迎える。
先日の東京都美術館の「Walls & Bridges」展の東勝吉さんの作品でも思ったけれど、どんなきっかけで、何が発現するかは、人生の終わりの終わりまでわからないのか。
少しずつ感じる老いについて自分自身も向き合っているところだが、この先もいくらでもひらけている可能性を思うと、生きることが楽しみになってくる。
なにより、スマさんの描くことが楽しくてたまらない、目の前にある「これ」を愛おしみ慈しむ心にふれると、見ているだけでただただ幸せな気持ちになる。様々な経験をして生きてきた人間が、描く世界。彼女からは世界がこのように見えていた。
そして九年間の画業の中でも、工夫があり、展開があり、紆余曲折がある。形や色への尽きない興味。
わたしも今すぐ描きたい!歌いたい!というエネルギーが湧いてくる。
クレマチスの丘のFacebook投稿より
https://www.facebook.com/clematis.no.oka/posts/4178780148825477
▼ ヴァンジ彫刻庭園美術館
庭園と、ヴァンジの彫刻と、そのときどきの企画展が楽しめる美術館。どういうご縁でここに個人美術館をつくったのか、いろいろ見てみたけれど、よくわからなかった。
薄暗く広い空間で、人もまばらな中、じっくりと作品と自分と対話できる。
この感覚を身体に染み込ませるように時間を使った。
見ていると苦しくなってくる作品も多いが、その中で、胸を張って颯爽と歩いていく女の人の像や、穏やかに微笑む聖像のような作品もあり、この世界には両方があることを思い出す。
ずっしりの図録はこちらで購入可能。
http://www.noharabooks.jp/item.php?id=453
▼小さなデザイン 駒形 克己展 @ヴァンジ彫刻庭園美術館
ニューヨークで修行し、帰国してしばらくして自分のオフィスを構え、プロモーションの世界で売れっ子になった駒形さんが、お子さんの誕生をきっかけに、活動スタイルを変えて行ったところがおもしろかった。人の原点から、世界との橋渡しになる本や紙。言語や文化を踏まえながら、それでいて直感的に理解できるもの。
メモしていた駒形さんの言葉:
"ニューヨークでは、問題解決をはかることができないデザイナーは通用しませんでした"
"日本では誰もが日本語を話し、日本を理解する。具体的な情報より抽象化された表現の中から想像力が引き出されることが好まれた"
別室で上映されていたWOWOWのドキュメンタリー「ノンフィクションW 触れる 感じる 壊れる絵本ー造本作家・駒形克己の挑戦」、1時間近い番組だが、思わずのめり込んで見てしまった。何十年もかけてこの道を歩んできたプロの作り手の姿勢、インスピレーションをどう得るか、など。
「シンプルな素材で豊かなコミュニケーションの可能性を探るもの」
https://www.facebook.com/clematis.no.oka/posts/4199889670047858
咲き乱れるクレマチスに包まれて、深呼吸。よい一日でした。
以前、クレマチスの丘を訪れたときに観たブルーノ・ムナーリ展の図録が再販されていたので、購入した。これもおすすめ。
こちらもぜひ再販してほしい。「増山たづ子写真集 すべて写真になる日まで」