ひととび 〜人と美の表現活動研究室

観ることの記録。作品が社会に与える影響、観ることが個人の人生に与える影響について考えています。

映画『もったいないキッチン』鑑賞記録

映画『もったいないキッチン』を観た。

劇場公開1周年記念特別企画として、オンライン上映&監督や出演者とのトーク付き。

https://mk2021.peatix.com/

 

▼公式サイト

www.mottainai-kitchen.net

 

youtu.be

 

この映画のことは、昨年『ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領から日本人へ』を観に行ったときにトレイラーがかかっていて、知った。

ナレーションがドイツ語で、オーストリアの人が日本に来て、食品にまつわる「もったいない」を訪ねる旅をする......へえ、おもしろそうと思っていたけれど、結局そのときは見なかった。今回の企画で出会えたのは、ラッキーだった。

 

一昨年、区の講座で、生ゴミ再処理工場と東京湾の最終埋め立て処分場に行くバスツアーに参加して以来、フードロスの問題に関心を持っている。

とはいえ、家庭内のフードロスでさえコントロールできないことのほうが多いのに、どうやったら地球規模のフードロスを減らすことが考えられるんだろう?と思いつつ、日々生きている。

 

「フードロス問題をどうやって解決するか」を徹底追及していくのかな?余った食材でこんな美味しいものができるよ、楽しく解決できるよ、と紹介する映画なのかな?とイメージしていたけれど、それだけでは全然なかった。

ロスになる前の話。

そもそもの、わたしたちの頭の中の「食」を見てみることからはじめませんか?
当たり前にあること、していることに目を向けてみませんか?と問いかけている。

それをガイドのダーヴィドさんとニキさんたちが、自分たちの関心にしたがって、「食にまつわること」をずっと考えて実践している人を訪ねながら、調べたり、試したり、考えたりしている。その旅にわたしたちも便乗できる。

 

 

食といっても、範囲が広い。
食材。
食べるという行為。食卓。
料理。調理。
美味しいという感覚。
命をつくる。自分を大切にする。
自然とのかかわりあい、循環。
安全、安心な食。
昔から伝わる食の知恵。
作り手。

 

ゆえに、訪ねた先は日本全国津々浦々、切り口も多岐に渡る。

コンビニ、賞味期限、精進料理、プラスチック、マイクロプラスチック、ペットボトルリサイクル、地熱発電所、農業と資本主義、コンポスト、鰹節、福島の帰還困難地域、野草食、昆虫食、共に食べる、気候変動、地産地消......。

 

習慣、願い。
生きること、暮らし方、働き方。
動物や植物との関係、命との向き合い方。
エネルギー問題。

いろんなことにつながっていくのか......とまず思う。

 

自分にできることはなんだろう。

失敗しながら学んでいくものだとして。

少しずつ自分の頭の中の「食」と自分が願う「生」の理想や、幸せな人生とを近づけていく努力。これはやっぱり必要なのかもと思う。

自然と自分自身のつながりが薄まっていると、たぶんわたしが生まれたぐらいの世代(いやもっと前から?)からずっと言われてきた。言われすぎて慣れてしまっているところがあるくらい。今、世界全体が「死」を考えているときに、あらためて考えてみる必要があるかも。

もてなす、もてなされる体験も、今しづらくなっているけれど、食を通じて何かしら分かちあえることがあるんじゃないか。今までにはない共有の仕方で、気づいていけることもあるんじゃないか。そういう希望を持った。


「前から知っていたり、こういう感じのがいいなと思っていたことが、実際に行動して実践している人を見られると、希望を感じる。やっぱりそれでよかったんだ!と思える。自分もふとした思いつきをやってみようと刺激になる。」

ダーヴィドさんが終盤に話していたこと、ほんとうにそうだなと思った。

自分は同じことができないとしても、実践している人がいると、その人の信念に触れると、自分にもなにか小さく始められるのではないかと思える。

 


「こういうふうに決まっているから」と言っていた大企業の役員の人も、「あなたの権限で言い出しっぺになってみてほしい」とすごく思った。怖れが強いんだなと感じた。

「何か責任が取れないことがあったら怖い」「だから変えられない」。

でもそれも変えていけるんじゃないかと思う。"ちゃんと"してなくても、怒られない、追い詰められない社会に。

別の工夫で、安心や安全を守っていく知恵。
出し合って納得を大事に決めていけたらいいのにな。



当日は、監督他、出演者総揃いでのアフタートークのやり取りも温かかった。

映画を製作した2年前から感染症が流行しての今の変化、これから目指していくことなどお話も聞けて、目の前の現実はそれぞれに違うけれど、大きな時代の流れや大きな切実さは共にしている感覚を得られた。

 

そうそう、ドイツ語の勉強にもなった。

ディクテーションの題材にしたいぐらい、聞き取りやすくわかりやすいドイツ語だった。今のところイベント上映か上映会形式でしか見られないのが残念。