ひととび〜人と美の表現活動研究室

他者の表現にふれることから、自分の中にある美の感覚にもふれてみる、自分の美を表現してみる。みんなで探究する鑑賞の場づくりを通して考えることなど。

【随時更新】10代に手渡したい本

昨年出版した共著書『きみがつくる きみがみつける 社会のトリセツ』「本と映画の紹介」というページをつくった。各章の後ろにこのページを挟んで、その章のテーマに関連する作品を紹介している。本編では伝えきれなかったことを作品に託そうと考えたのだ。

著者のわたしたち自身が、10代の頃に本や映画に親しみ、救われて生きてきたからという理由もある。10代の「孤独の友」として。

なにぶん世代が違うので、「昔の表現」が合わないこともあるだろうけれど、このページから何かしらの熱量を感じてもらうだけでもいいなと思った。

掲載したのは合計で本30冊、映画21本。読者を思い描いて、作品を選んで、紹介文を書く作業はとても楽しかった。

本を出した後も、これは10代の人が読むと良さそうだなと思う本や映画にしょっちゅう出会う。そういった作品のちょうどいい置き場所のようなものをずっと探していたが、なかなか見つからないので、ひとまずはこのページに置いていくことにした。思いつき次第、随時更新していく予定。

10代はもちろん、かつて10代だった人にも、読書のかけ橋になればうれしい。

 

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1.  『さびしさの授業』伏見憲明/著(株式会社イースト・プレス,  2011年)

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『きみトリ』を手にとった人の中には、「自分の手でつくれる」「選べる」というこの本が発しているメッセージをとてもしんどく感じる人もいるかもしれないと、原稿を書いているときから思っていた。

理不尽さを感じている、世界とつながりを感じられない、安全でない状況にいるなど、「なぜわたしはこのような過酷な境遇にいなくてはならないのか」「選ぶことがゆるされなかったのに」と吐露する人が目の前にいたとして、果たしてわたしはこの本をまっすぐに差し出すことはできるだろうか、ということを何度も考えてきた。いや、むしろこの本が暴力的な作用を起こしてしまうのでは、と考えたこともあった。

出してしまった本は受け手がどのように解釈しても自由なのだが、作り手のわたしとしては、ずっと気になり続けていることだった。

そのような辛さを抱えている人の吐露を受け止め、困り事の解決を仕事にしている友人にも話してみたこともある。「この本からは、『あなたは大切な存在だ』という根幹のメッセージがしっかりと伝わってくるから大丈夫だよ」と言ってもらえた。その言葉は大変ありがたかったが、わたしの中ではまだ解消されなかった。出版から半年以上が過ぎたある日、この本に出会った。これだ!と思った。

 

「こんなに人はたくさんいるのにまるで世界にたった一人、自分しかいないように感じる」、それほどの究極のさびしさに身を置いたときに、隣にいてくれる本だとわたしは思う。このさびしさをどうしたらいいのか、扱いかねる、というときに読んでみてほしい。

内容は、「1時間目」から「5時間目」までの「授業」という仕立てになっている。著者自身のいじめの経験や、『シックス・センス』『赤毛のアン』『X-メン』『千と千尋の神隠し』などの映画や本の作品を扱いながら、もやもやとしたさびしさの種類や中身を言葉で表してくれている。

それぞれの作品を観たことがなくても、まるで今、一緒に観ている、読んでいるかのように臨場感たっぷりの解説があるので、ぐいぐいと引き込まれる。観た作品なら、「そういう解釈があったのか!」と新鮮な驚きがある。1冊読むだけで4つの作品が楽しめるから、お得と言ってもいい。授業のように読者に語りかけながら進めてくれるのも心地よい。

この本を読んだら、窓の外の景色がほんの少し変わって見えるかもしれない。

※「よりみちパン!セ」シリーズは、いくつかの出版社を渡り歩いて、今は新曜社という出版社から出ています。https://www.shin-yo-sha.co.jp/search/s13275.html ラインナップを見ると、過去に出た本は再販されていないものも多そうです。『さびしさの授業』は今のところ見つけられませんでした。学校図書館や地域の図書館、古書店などで探してみてください。

(2021.8.30)

 

 

2.  14歳からの哲学 考えるための教科書』池田晶子/著(株式会社トランスビュー, 2003年)

 

『きみがつくる きみがみつける 社会のトリセツ』の出版後に読書会を6回した。そのときアンケートで、気になる回答があった。

中学生の時の自分が読みたいリクエストは「考えるのトリセツ」です。考えましょう、と言われたときに、考えるってどうするのかな、と思っていました。いま頭の中にあるこれは、思ったことなのか考えたことかどっちかななどと思っていました。思考を深めるとか考えるということがわからなかった。自分との対話の仕方がわからない、とも言いましょうか。

これ、すごくわかる。「考えましょう」、「考えろ」、「考えて」、言い方はいろいろだけれど、「なんとなく」や「気がする」や「感じた」は論外で、「思います」だとまだ幼稚で、「悩んでいます」は途中すぎてだめ。ともかく「考えました」という語尾にしないといけないと言われたときに、どうしたらいいのか、わたしはよくわからなかった。まさにこの方が書いているようなことに近いことをわたしも思っていた。

読書会の感想を送ってもらうアンケートで、特にこちらからの返信は必要ない質問項目だったのだけれど、わたしなりに何らかの形でお返事したいテーマだなと思い、勝手に宿題だと思って(もちろん楽しい)温めていた。半年ぐらい頭の片隅に置いていたら、やっぱり出会った。ぴったりの本に。

哲学の本と聞くと、思わず敬遠してしまうかもしれない。実際、「14歳からの」となっていて、一見平易な文体で書かれている。ただ、もしかしたら独特の口調がなじみにくいかもしれない。例が今の時代に合わないかもしれないし、自分の状況とそぐわない可能性もある。そもそも、観念的なことというのは、自分の中に心当たりが生まれないと、ただの文字の羅列に見えてしまう。

それでも、ぐっと踏みとどまって、まずは「考える」の項だけ読んでみてほしい。「思う」と「考える」の違いについて、これほど言葉を尽くして説明してもらえたことは、今までに見つけられなかったとしたら。

ここからは、わたしが本を読んで受け取ったものを書いてみている。本の内容からかけ離れているかもしれないけれど、わたしなりに考えてみた。

「思う」は、自分が他の誰でもなく「自分」であることに気づく第一歩。大切な感情や発見や意図が詰まっている多彩なもの。「思う」によって、自分とも他者と出会える。
「考える」とは、自ら「なぜ、どうして」と訊くことや、「それは本当なのか、間違っているのか」「他の可能性はあるのか」などを問うこと。「考える」は、他者との社会的なつながりをつくり、この世界に自分の場所をつくっていく足がかりになる。「思う」はわりあいすぐに出てくるけれど、「考える」ほうはすぐには答えが出ない。答えを出すことを目指すから。思うよりも何層も深いところへ潜らなければいけないから。
「悩む」というのもある。これはまだまだ「考える」に至っていない状態。自分の中だけでぐるぐるするという完結のさせ方をしている。「悩む」を脱して「考える」とき、人は小さく自立を果たしていく。「悩むのではなく、考えるんだ」、著者のこの言葉だけ覚えておいたら、きっと役に立つような気がする。

もしかしたら「考える」ためには、自分以外の人の存在を必要とするのかもしれない。それは話すということかもしれないし、自分の書いたものを読んでもらって感想をもらうということかもしれない。質問して考えを教えてもらうことかもしれない。「考える」はそれまでの自分の枠を超えて、新しい自分に脱皮するための冒険なのかもしれない。

.......と、こんなことを考えてみた。哲学だから、他の人が読んだら、また違うことを思ったり、考えたりするだろう。アンケートに回答してくれた人は、どんなふうに読むだろうか。聞いてみたい。

『100分de名著 災害を考える』のテキストに、本書を紹介してくれている章がある。テキストの方で一旦内容を抑えてから、本書に戻ってみてもよいかもしれない。

(2021.8.30)

 

*追記

後日わかった。

いま頭の中にあるこれは、思ったことなのか考えたことかどっちかななどと思っていました。

そう思ったことが、「考える」への第一歩なんだ。このときにこの人にとっての新しい世界への扉が開いたのだ。そういうふうに池田さんも書いている。わたしがグダグダと本の紹介を書き綴ったことは、もう蛇足でしかないのだ。というより、わたしのための時間だったのだ。なんだかすみませんという気分。

さらに、これまたどんぴしゃりで答えてくださった方がいた。衆議院議員小川淳也さんの言葉だ。

「思う」と「考える」の違い。「思う」っていうのはどちらかというと自分の感情に支配された状態。それはそれで重要なメッセージなんですが。自分の感情に支配されたまま揺れ動くのが「思う」状態だとすると、「考える」ということは、「調べる」ということとほぼ同義。調べて事実に行き当たって、事実を突き詰めて、それをミキサーにかけて、分析して、地図の上に広げてっていう、ちょっと知的な作業が必須なんです。和田靜香×小川淳也×星野智幸 「私は政治がわからない」 『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』(左右社)刊行記念 @本屋B&B にて)

なるほどー!「思う」と「考える」の違いの話、おもしろい。

 

(2021.9.4)

 

 

 (続く)

 

 

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