Readin' Writin' BOOKSTOREという書店で月に一度開催されている「お座敷の一箱古本市」に出店している。
誰でも出店できて、一日限定で「本屋さんごっこ」が体験できて、本と人との出会いの場が作れる一箱古本市がもともと好きで、不忍ブックストリートなどに友人と4回出店したことがある。
昨年末に自著を出版してからは手売りの機会が必要になったので、Readin' Writin' さんで2021年2月から飛び飛びで5回出店してきた。
この『新聞記者、本屋になる』は、Readin' Writin' BOOKSTOREの店主、落合博さんが本屋になってから初めて出した本だ。
『新聞記者、本屋になる』落合博/著(光文社, 2021年)
もちろんReadin' Writin'さんまで買いに行った。
まず帯を見てニヤリ。お店のドアをガチャッと開けると、落合さんがだいたいこういう感じでいらっしゃるからだ。ところどころに挟まる写真もよい。そうそう、こういう場所、落合さんてこういう雰囲気ですよね!と撮った方とお話したくなる。
立ち話のついでや、以前押しかけでインスタライブをしたときに聞かせてもらったことが経緯と共に語られていて、「ああ、あの話はこういう流れだったのか」とようやく理解した。
インスタライブは部分的に書き起こししてあるので、興味ある方はぜひ読んでみてください。(便乗)
p.165
書き手の考え、判断をそのまま書かないようにしてほしい。言いたいことは、事実を積み重ねて伝える。形容詞や副詞を使うことは「分かりやすさに逃げる」ことだ。
「淡々と事実を積み重ねる中から伝えるというのは、こうやるんですよ」と本が言ってくる。落合さんのライティングセッションのことは知っていたけれど、勇気がなくて申込めていない。形容詞、副詞、使いまくりだもんな、わたし......。でもまずは本を読み、本の中でも紹介されている古賀史健さんの『取材・執筆・推敲 書く人の教科書』はReadin' Writin'さんで買ってたまにひらいている。まだわたしは書いて書いて苦しんで試行錯誤して書きまくるしかないんだろうな。
文中には固有名詞がたくさん。イニシャルの名前も含めるとほんとうにたくさん。あらためて振り返ってみると、たくさんの人の中で生きてきたことがわかる。自分で選んでいるようで、選ばされていく、差し出されていく。人生ってこうなのかも。わたしのもそうなのかも。きのう観たお芝居に「動機じゃなくて行動が先」という言葉があったな。ふと思い出した。
一冊読んでも「じゃあなぜ本屋だったのか?」はハッキリとは語られてはいない。でもReadin' Writin'さんの棚を眺めて、本を買って、一箱古本市に出て、落合さんと言葉を交わして……というここ8ヶ月のお付き合いの中で、なんとなく感じ取るのは、世界とのつながり方を変えるきっかけがたまたま本だったのかな、ということ。本をめぐる人の生き方をおもしろく感じていたり、本をきっかけにした出会いを楽しんでらっしゃるのかなと想像する。
新書にしては珍しく上下にたっぷりゆとりのあるデザインは、言うなれば「noteを縦書きにした」感覚で、落合さんの簡潔な文体と相まってスイスイ読める。タイトルのマルーン色はRWさんの扉と同じで、さらに関西ゆかりの方にはおなじみの「あれの色」なのは懐かしい、うれしい。
「場をつくる人」としても、落合さんの動きはすごい。自分が場をつくるときは、似たようなことをやっている人の場に参加するのが大事、と講座やセッションでは話しているけれど、まさに本屋開店を目指してたくさんの場に行かれている。またそのプロセスを記録しているところがすごい。いつかこの経験を世にシェアしようと思っておられたのか、記者の性分なのか。
p.197
実際に本屋を始めた人たちもいる一方で残念ながら店を閉めた人たちもいる。雑誌などで改行の経緯や工夫などは語られても、なぜ続けられなかったかという話が語られることはない。そこにも続けるためのヒントはあるはずだ。
立ち上げや始める話は華々しいし、語られやすいが、終わる、仕舞う話も同じぐらい価値がある。続けられなかった理由は次の始める話にもつながるからだ。終わるほうが痛みが伴い、人間関係の解消などもあるので本人の口から語りにくいことが多いが、場づくりする者、人の語りを伺う者としては同等に扱っていきたいとあらためて思う。
そうそう、もう一つ大事な感想。ご自身もスポーツに打ち込んだ時期があり(今も走っているし)、スポーツ担当の記者として仕事をしていた落合さんが、オリンピックやスポーツの問い直しをされている(主に書店の品揃えやイベントを通じて)のだなと、本を読んでさらに重みを感じている。
あと気になるのは、新しいことをはじめようとしたときに、生計を共にするパートナーや家族とどうコミュニケーションするかというところだと思う。本書にも「妻」の存在が随所に現れるが、押し切る、結果を出して納得してもらう以外のスタートの仕方ってどんなだろうか。もちろん関係性は個別だから「これ」という解があるわけではないし、私にも経験があるようなないような話なので、どうしたらいいというのは分からない。けれど関心がある。これをきっかけにした別れだってあり得るのだから、重要なことだと思う。そのあたり、今度お会いしたときに突っ込んでお聞きしてみたい。
本書は本屋を開きたい人はもちろんだし、自分の仕事をつくりたい人や、仕事に限らず転機を迎えている人、「中年」以降の人生を考える人の背中を押してくれそうだ。
特に5章の最終盤は鳥肌ものだ。
ぜひReadin' Writin'さんか、またはお近くの書店でお求めいただけたら。