ひととび 〜人と美の表現活動研究室

観ることの記録。作品が社会に与える影響、観ることが個人の人生に与える影響について考えています。

映画『行き止まりの世界に生まれて』鑑賞記録

シネマ・チュプキ・タバタで映画『行き止まりの世界に生まれて』鑑賞記録。スタッフさんに強くおすすめされて。(ありがとうございます!)

9月に観てからだいぶ時間が経ってしまった。

 

youtu.be

 

公式サイトにあるロックフォードという町やラストベルト(the Rust Belt)という背景について押さえてから観ると尚良し。

www.bitters.co.jp

 

非常によい映画だった。想像していたのと全然違う体験だった。

愛したい!

愛してる!

生きたい!

 

心の叫びが流れ込んでくる。
久しぶりにメモも取らず、ただただ観ていた。

最後は涙が溢れた。

ヒリヒリ痛くてつらくてとても観ていられないんじゃないかと思ったけれど、カメラを向ける監督の愛が全編にわたって満ちていて、終始温かかった。

10代にも観てほしい映画。
RatingはGです。General Audiences、年齢の制限なし。


暴力シーンの映像は一瞬出るけれど(ほんとうに一瞬)、それ以外はほとんどが語りや痕跡の中で出てくるもの。感じ方の違いは人それぞれだけれど、観る人を映像の暴力によって傷つけないように、とても配慮して作られているとわたしは感じました。

 

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▼ビン・リュー監督によるオンライントーク 2020年9月6日 @新宿シネマカリテ

note.com

 

 

チュプキさんで観たときは、「プリズン・サークル」も同時上映(こちらは3度目?4度目?の上映)だったので、坂上監督がこんなコメントをされていた。

 

それを受けてわたしも書いてみた。(僭越ながら)

どうしてプリズン→行き止まりの順がおすすめかというと、『プリズン・サークル』の中で強く浮かび上がってくるのは、親子や家族の関係で、それらが実際どのようであったのかの語りが、『行き止まりの世界に生まれて』の中で記録されているから。

日常の中で、年月の中で少しずつ親との関係に向き合い、囚われから自分を解き放ち、自分自身の人生の時間が動き始めるかれらの姿が眩しい。

それでも人生何があるかわからないから、するりと落ちてしまうこともあるよね、いつだってMind the Gapだよね、ということも言っている。

落ちないためには社会に何が必要なのか、落ちてしまってもだいじょうぶ、助けると言える社会なのかも問いかけてくる。

親の深い苦しみも描かれる。それは社会の状況が強く影響している。

個人の力ではどうにもできない大きな流れや動き。だけど、もしその波にさらわれてしまったとしても、そこで終わりじゃない。

『行き止まり〜』も誰にでも心当たりがある物語。『プリズン〜』のきょうだいのようないとこのような作品。

 

パンフレットに掲載に関連すると思った箇所があったので引用します。

DIRECTOR'S STATEMENTより

僕の願いは、『行き止まりの世界に生まれて』の中で扉を開いてくれた登場人物たちによって、同じようなことで苦労している若い人々が勇気をもらい、彼らがその状況を切り抜けられること、生きて、自分たちの物語を伝えられること、そして自分たちの力で人生を作っていけるようになることです。

INTERVIEWより

ーー暴力の連鎖を断ち切るには、親との関係性の影から抜け出すにはどうしたら良いとお考えですか。

自分の体験について話すこと、誰かと共有することだと思います。僕たちは、暴力を振るうことで、また受け身になって何もしないことで、連鎖を続けさせてしまう可能性を持っています。(中略)関係性を築くには努力が必要だという考えを持つべきではないでしょうか。(中略)多くの人が、愛には傷つくことが含まれていると潜在的に考えているように思います。愛しているから傷つけるとか、傷つけてもいいとか、そんなことはないと思うのです。愛とは何か、もっと話し合うべきだと思っています。

 

 

Mind the Gapの多義的な意味も重く響く。人種差別、女性差別、経済格差......。

うーん、語り尽くせない。とてもパワフルな映画なので、とにかく観てほしい。

過去の体験によってはつらくなってしまう人もいるかもしれないけど、ただつらくして放置されて終わる映画では全然ない。

光がある。

自分の力で人生をつくっていくことをあきらめない。

観終わってそんなことを感じた。

 

スケボーのシーンが気持ちよいし、音楽も最高です。

 

積ん読になっているこちらの本、再挑戦したい。ラストベルト、ジェントリフィケーションのテーマに関連している。

『分断された都市: 再生するアメリカ都市の光と影』
アラン・マラック/著、山納 洋/訳(学芸出版社, 2020年)

 

 

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鑑賞対話イベントをひらいて、作品、施設、コミュニティのファンや仲間をふやしませんか?ファシリテーターのお仕事依頼,場づくり相談を承っております。

 2020年12月著書(共著)を出版しました。

『きみがつくる きみがみつける 社会のトリセツ』(三恵社