シネマ・チュプキ・タバタで映画『MINAMATA-ミナマタ-』を観てきた記録。
観てすぐのまとまらない感想をつらつらと。
『返還交渉人 いつか、沖縄を取り戻す』を思い出した。
史実の羅列だけでは想像が及びにくいところへ、劇映画の手法と物語化で、人々を「そこ」へ連れて行ってくれる。
そういえば劇中で一度も「公害」という言葉が出てこなかった気がする。あったのかもしれないが、あえてこの言葉を出さなかったことで、誰も気づいていなかった、こんなことは誰も起こると思っていなかった、未曾有の出来事という感触が伝わってきた。
ちょうど最近1960年代から1970年代の映画を観た。戦後の高度経済成長の中で打ち捨てられ、見放されそうになりながら、必死で声をあげ、それぞれのやり方で闘っていた人の存在をあらためて知った。ハンセン病もそうだ。東京オリンピック、大阪万博、、数々のお祭りや賑わいの陰で、人知れず苦しんでいる人がいた。今だってそうだ。いつだって、しわ寄せは無関係な、罪のない人のところにいく。
あまりにも有名なあの写真「入浴中の智子と母」が、どういう経緯で、どういう時代背景の中で、どういう現場の動きの中で撮られたのか、そういえば深く考えたことがなかった。
今どうなってるのかも知らない。終わっていない、まだ係争中とは知らなかった。
原一男監督の『水俣曼荼羅』もやはり観ねばと思った。
日本に生まれ、日本に育った自分としては特に知っておかなければ、知りたいと思う。
知らないことが多すぎる、もっと知りたい。
なぜなら終わった話ではないから。
人が歴史に学ぶことが難しいから。
悲劇が繰り返すから。
『MINAMATA-ミナマタ-』は、語り継ぎ、考えていくためのきっかけになる映画だと思った。ユージン・スミスの水俣におけるごく短い時間を通して、その先が広がる。
今回初めて知った人にとっては「そんなことがあったのか!」となるだろうし、学校の教科書に出てきてうっすら知っていた人にとっては、「もっと知りたくなった!」となるだろう。
もっと知りたくなる理由は、映画を観ていても詳しくは説明されないからだ。
加害者側の表情を知りたくなる。とても複雑な表情だ。言葉だ。國村隼さんがいい演技をされている。「溜め」があって、きっと何かがあるんだろうと知りたくなる。
補償を求める住民の運動代表の山崎(真田広之)もそう。アイリーンさんもそもそもなぜユージンを訪ねたのか。
住民の一人ひとりについても。患者さんも、家族も、企業の社員も。
ユージンとアイリーンが出会ったいろいろな人について、もっと知りたくなる。
エンターテイメント作品として盛っている部分はあるし、描き方も正直、「ハリウッド的」な紋切り型のところもある。改変されたものも多い。宣伝も「感動」寄りになるし。
それでも、だからこそ多くの人に観られるのかもしれないし、「そういうことがあったんだ」と止めておくこともできるし、もっと知りたいと思った人は調べることもできる。どちらに対しても開いている映画だと感じた。
ハリウッドとはいっても、「インディペンデント映画」枠ではあるし。
とても濃い体験をした人や他人事ではない人にとっては物足りない部分はありそう。ただ、製作の目的が知ってもらうこと、忘れないこと、学ぶこと、伝えることなのであれば、かなり成功していると感じる。ゆえに多くの人に観てもらいたいと私は思う。
前回はユージーン・スミスが写真を通じて世界に知らしめた。
今回はそのユージーン・スミスを描くことで、再度世界に知らしめている。しかも今回は水俣だけではない、人間が学ぶことができず繰り返している惨事について、まだこれを続けるのか?と問うてもいる。資本主義を暴走させ、気候危機を無視する人々に警鐘を鳴らしている。
ただ印象深い。身体感覚に訴えるところ。タバコの煙。酒。
酒に酔っているような揺れる画面(あるいはドキュメンタリー風の?)、視界の狭さ、パッパッと切り替わるカット、焦点の合わせ方のコントラスト、戦場のフラッシュバック(砲音や閃光)など、しんどいところもあった。
穏やかな波の音、海の青色なども鮮明に記憶に残る。
公害や水俣病について話したことがあったのっていつだったかな?と考えると、小中高の学校に通っていた10代で止まっているかもしれない。あとは水俣出身の人がSNS上で発言しているのを見聞きしたり。石牟礼道子さんの著書の感想を読書会で聞いたり。
今、この映画を真ん中に、あらためて語してみたいと思った。
素朴な感想を口にするところから。
▼動画資料
MINAMATA~ユージン・スミスの遺志~【テレメンタリー2020】https://youtu.be/vgRlagztyUA
美波インタビュー
國村隼インタビュー
真田広之インタビュー
加瀬亮インタビュー
ビル・ナイインタビュー
ジョニー・デップインタビュー
町山智浩 映画『MINAMATA ミナマタ』2021.09.21
少し調べようとするとすぐに膨大な資料が出てくる。
自分の関心にふれるものから、少しずつゆっくり出会って行こうと思う。他のテーマに対するのと同じように。遅すぎるということはないのだから。
『MINAMATA』 W.ユージン・スミス、アイリーン・美緒子・スミス/著(クレヴィス, 2021年)
「『入浴する智子と母』の写真について」
http://aileenarchive.or.jp/aileenarchive_jp/aboutus/interview.html
「水俣病の少女が入浴する写真」をめぐる、写真家と被写体親子の「知られざる葛藤」
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/87864?imp=0
『MINAMATA NOTE 1971-2012 私とユージン・スミスと水俣』石川武志/著(千倉書房, 2012年)
『水俣 ─患者さんとその世界─<完全版>』 、『水俣一揆 ─一生を問う人びと─』
『水俣病を知っていますか』高峰武/著(岩波書店, 2016年)
『魂を撮ろう ユージン・スミスとアイリーンの水俣』石井妙子/著(文藝春秋, 2021年)
『苦海・浄土・日本 石牟礼道子 もだえ神の精神』田中優子/著(集英社, 2020年)
9/28 映画「MINAMATA」責任とは何か?