舞台『リーマン・トリロジー』 の原作小説。
原題:"Qualcosa Sui Lehman"
別名「鈍器」。とにかく分厚い。
760ページ、厚み 5.1 cm(手に取るともっと分厚い感じがするけれど)
『リーマン・トリロジー』はNTLiveのラインナップの中でも大好きな作品。
大きすぎで重すぎなので、寝転んだり腹這いになったりという、いつもの態勢では読めない。いろいろやってみたが、結局デスクで書見台に置いて読むのが一番楽だった。やや仰々しいが伝説の書のようであって、いい。
二段組と聞いて、一体どれだけ字が詰まってるのかと怖れていたが、ページ数のわりには一つの文章が短く、余白が多い。散文詩のような、戯曲のような文章だった。まるで吟遊詩人から壮大な歴史譚を聴かせてもらっているような。作家のステファノ・マッシーニは主に劇作家としてキャリアを積んできた人なのだそう。納得。
舞台では語られなかったエピソードや、出てこなかった人物が出てくるので、ディテールが埋まる。たとえばLehman(リーマン)はLehmann(レーマン・nが2つ)だったがアメリカに行ってnを1つにした。こういう姓名の改変って移民先でよくあったのだろうな、と想像する。ローカライズ。
舞台版で観た生ピアノ(録画だけど)が鳴り、ガラスケースが回転する。
やはりおもしろい。リーマン・ブラザーズを題材にしながら、現代の金融業界の人を評伝でもなくビジネス本でもなく、劇作品にしているところが新しい。
和訳されている背後にもドイツ語、英語、イディッシュ語、イタリア語が感じられて、多言語でもある。
言葉は短く、声に出して読むとリズムを感じる。マッシーニはいつも作品をつくるとき、「口述で録音したものを文字起こししたのちに整える」という手法をとっているのだそう。本書はさらに自転車に乗りながら口述した、と。どうりでリズミカルだと思った!
その身体を動かしながら物語る様をマッシーニは"ballata"と表現している。訳者によるあとがきでは
「バッラータとは踊りをともなうイタリアの古い民謡のことで、フランスやイギリスのバラッド、すなわち物語詩をも指す。」
分厚くて怯んでいた人も、このあたりを知るとちょっと読んでみようかな?という気になるのでは。もちろん舞台を観ていなくても楽しめるし、舞台を観てからだともっと取っつきやすくなると思う。
2巻の第16章(全体の半分あたり)まで読んだところで図書館の期限が来てしまったので、一旦返却した。一気に読み切れなくて悔しい。
『リーマン・トリロジー』の英語版 "The Lehman Trilogy: A Novel (English Edition) " Audibleで試し聴きできる。いつか原文(伊語)にもチャレンジしたい。
NTLiveの『リーマン・トリロジー』は2021年の年末からまたアンコール上映があるので、機会があればぜひ観てほしい。
野望とスリルに満ち、美しく哀しい現代の神話譚。