ひととび 〜人と美の表現活動研究室

観ることの記録。作品が社会に与える影響、観ることが個人の人生に与える影響について考えています。

映画「毎日映画コンクール 大藤信郎賞 受賞短編アニメーション全集 5 川本喜八郎・岡本忠成」鑑賞記録

1月と3月に小学生向けの授業を担当することになり、川本喜八郎の作品を取り上げようと思い、図書館に何か資料がないかしらと探していて、このDVDを見つけた。


毎日映画コンクール 大藤信郎賞 受賞短編アニメーション全集 5

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毎日映画コンクールとは。

"1946年(昭和21年)、日本の映画産業の振興に寄与し、国民に映画の楽しさを広く 伝えることを目的に、毎日新聞社スポーツニッポン新聞社によって創設された国内最高峰の映画賞です。" 1946年が第1回で、2021年は第76回。戦後の日本映画を見つめてきた映画賞なのですね。

screenonline.jp

 

その毎日映画コンクールにおける《大藤信郎賞》とは、日本のアニメーションの先駆者である大藤信郎氏を称え、1962年に創設された賞。1989年にアニメーション映画賞も設けられたが、大藤賞は「実験的な作品」を対象として、アニメーション映画賞は主に長編作品を対象としているそう。

 

そういうことだったのか、とまず納得して、あらためて作品を鑑賞。

このディスクに収められているのは、以下の作品。

川本喜八郎『鬼』(1972年)

http://chirok.jp/product/content2/demon.html

川本喜八郎『詩人の生涯』(1974年)

http://chirok.jp/product/content2/shijin.html

岡本忠成『南無一病息災』(1973年)

岡本忠成『水のたね』(1975年)

 

川本の2作品は今年の4K修復版上映で観た。岡本の2作品は今回が初めて。

4話で約65分なので1話あたり15分の短編だ。

いずれの作品も生きることの現実と不条理が詩的に普遍的に描かれていて、複雑な感情が湧いてくる。予定調和はなく、展開がひとつも読めない。

私が観ていると、「何観てんの〜?」と子が寄ってきて、ひと目見るなり引き込まれていた。今見慣れているアニメーションとは違う世界があるからかもしれない。

「びっくりするし、怖い感じもあるけどつい観ちゃう」とのことだった。

たまたまYoutubeで『チコタン ぼくのおよめさん』を観たことがあるらしい。こちらは岡本忠成の作品。かなりの衝撃作だ。「あの感じがまた蘇った」と言っていた。

正確には「チコタン ぼくのおよめさん」はもともと1967年の「こどものための合唱組曲」として作詞作曲されたもので、その後、1971年に岡本忠成脚本・演出で短編映画化されている。

これらの共通しているのはやはり圧倒的に「重い」ということ(今の時代から見れば)。喜劇から悲劇への凋落、救済のない結末。当時の時代の感触が伝わってくる。高度経済成長の元で見過ごされているものの叫び、何かの権力的なものへの抵抗のように思えるが、そう考えるのは短絡的すぎるだろうか。

「生きることは素晴らしい」だけじゃない、虚しさや愚かさの面もある。それらは等価だ。

 

同じDVDの全集に、川本喜八郎の第29回大藤賞受賞作『ねむり姫またはいばら姫』(1990年)が入っていたので観てみたのだが......、

http://chirok.jp/product/content2/rose.html

これにはほんとうに度肝を抜かれた。DVDで所蔵している図書館があれば、ぜひ借りて観ていただきたい。アニメーションは子ども向けではない、一つの芸術なのだという気概が全編に込められている。

思春期の子と見るときには、解説が必要。でも見ること自体はよかったと思う。性にまつわる芸術的表現にふれることと、それについて語りあうことは大事だと私は思う。

 

ということで、授業では『鬼』が一番良さそうだということにスクールの担当者とも話て、決定した。他にも別の作家、別の表現形式の作品も考えたが、今回はまずこれでやってみようと思う。10〜12歳の人たちがどのようにこの作品を観るのか、楽しみだ。

 

 

▼オフィシャルHP

www.wowowplus.jp

 

▼4K修復にまつわる話

note.com

 

▼私の感想

hitotobi.hatenadiary.jp

 

▼2022年3月にDVD/Blu-ray発売

発売が楽しみ!

 

 

 

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2020年12月著書(共著)を出版しました。

『きみがつくる きみがみつける 社会のトリセツ』(三恵社