ひととび 〜人と美の表現活動研究室

観ることの記録。作品が社会に与える影響、観ることが個人の人生に与える影響について考えています。

NTLive『フォリーズ』鑑賞記録

NTLiveのアンコール上映で『フォリーズ』を観てきた記録。

www.ntlive.jp

 

www.nationaltheatre.org.uk

 

音楽を担当したスティーブン・ソンドハイム氏が2021年11月に亡くなったそう。今回のNTLiveの冒頭には、ソンドハイム氏が上演前に舞台上でインタビューに応じている様子が挿入されている。

www.bbc.com

 

1971年にブロードウェイで初演され、トニー賞最優秀楽曲賞に輝いたスティーヴン・ソンドハイム作詞作曲のミュージカル。取り壊しになるレヴュー劇場に集った往年のスターたちの姿を、現実と回想を交錯させながら描く。ドミニク・クック演出のもと、イメルダ・スタウントンやジャニー・ディー、トレイシー・ベネット、フィリップ・クワストら豪華ベテラン勢が集結。(NT Live Japan公式HPより)

 

※内容に深く触れています。未見の方はご注意ください。

今回の映像は2017年のNT公演のもの。1987年に上演されて以来、久しぶりとのこと。

NTLiveでは珍しいミュージカル。セットは大きいし、演者も多いし、衣装や着替えもあるし、生演奏だし......とにかく豪華!こういう作品は、本来はミュージカルやオペラなどをやる大きな劇場で上演されそうなのだけれど、NTでやるというのは何か意図があったんでしょうかね。

 

在りし日のショービジネスへの回顧も最初はボリューム満点、ムードたっぷりで楽しかったんけど、だんだん露出多めの衣装を着た「ショーガール」たちの、ねっとりした踊りに疲れてくる。ああ、2時間36分が長く感じられる。セクシーな女の人たちを見て、楽しんでいた劇場も、もう過去のものなんだなという実感する。彼女たちが "Weisman's Follies" (訳ではワイズマン・ガール)と呼ばれていたのも、今の感覚からするとノーサンキューと言いたくなる。

「ほんまもうそろそろええわ......」と食傷気味になってきたところで、突然舞台側から思わぬ形で流れをぶった斬られて終わるのがびっくりで、気持ちよかった。「こういうこと」を出せる勇気が、中高年には必要だと思う。みんな『フォリーズ』を観て、真似してやったらいいと思う。弱さや情けなさを出したらいいと思う。

 

老いること、若さを生きることについて、自分の人生と重ねながら観た。
2組のカップルが30年前の「ほれたはれた」を再燃させる様子は、あまりにも剥き出しで、ちょっと見てられないようなところもあった。そもそもタイトルが「Follies(愚か者)」だから、そこを見せているのではあるが。
ちょっとむせそうな感情が去ったあとには、心残りだったことや、胸につかえていたことにケリをつけるって、大事なのかもなぁという共感もわいてくる。
夫婦ってだてに時間を共にしてない、因縁の深いものらしい。やけぼっくいに火が付いたぐらいで揺るがないんだな、だから別れるのが難しいということもあるのか、なども思ったりして。
 
演出のおもしろさとしては、今の老いたかれらと、若かりし日のかれらが舞台上で交差したり、交錯しながら進んでいくところ。青春時代を過ごした場所に行くと、自分から若い日の自分が抜け出て走り回ったり、走り回っている映像がフラッシュバックするのだけど、あの感じと似ている。(そういう映像効果に感化されている可能性も大)
若い自分とのデュエットでハモったりするのもよかった。
 
昔のことだけど、昨日のことのように思い出せるあの情熱。苦さもあるけど、やっぱりあの熱が今まで自分の人生を押し進めてくれたのかもしれない。「あのとき選ばなかった道」は、選ばれなかったからこそ美しく見える。
 
「チクショウ、去年も生き延びたし、私はまだいける!」と歌う人もよかった。一人ひとりに人生があって、生きてきた30年があることが感じられて。
 
「若い」と「老いている」は何かと比較して価値づけられがちだけど、『フォリーズ』の描き方はよかった。一人の人生の若い日を今の自分として愛おしく見ていたり、若い日から未来の自分を憧れをもって見ていたり、つながっているし、同時にそこにあるという感じがよいのだろうな。
 
「取り壊される劇場に昔の仲間が集って別れを惜しむ」という設定は、『ニューシネマパラダイス』を思い出す。夢の時間は終わって、最後に現れるのは廃墟の劇場。でもそれが今の現実。「あのとき選ばなかった道」は、選ばれなかったからこそ美しく見える。
 
若き日の思い出を大切に胸にしまって、また今日を生きる。生き延びたから。
 
一つ覚えた成句は、"The Folly of Youth" で、意味は「若気の至り」。
 
 

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 2020年12月著書(共著)を出版しました。

『きみがつくる きみがみつける 社会のトリセツ』(三恵社