ひととび〜人と美の表現活動研究室

他者の表現にふれることから、自分の中にある美の感覚にもふれてみる、自分の美を表現してみる。みんなで探究する鑑賞の場づくりを通して考えることなど。

映画『明日をへぐる』@シネマ・チュプキ・タバタ 鑑賞記録

映画『明日をへぐる』を観た記録。

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前日『阿賀に生きる』を観て、そのときにチュプキのスタッフさんに勧められて、同時上映していたこちらの『明日をへぐる』も観た。

私はチュプキのスタッフさんの「舟之川さんに観てきただきたい!」にたいそう弱い。そして実際、観て後悔したことは一度もない。いつもお勧めありがとうございます。

 

まとまらない感想をバラバラと。

 

・久しぶりに音声ガイドを聴きながら観た。とてもよかった。特にドキュメンタリーでは、音声ガイドの存在がありがたい。見落としていたところを教えてもらえる。本来そのためにあるわけではないんだけど。一緒に観ている人(ナレーターさん)がいる。いてくれる感じもなんだかいい。

 

スティールパンの音が心地よかった。4年前に秋田の上小阿仁村に行ったことがある。マタギ発祥の地と言われるとても山深いところ。山のエネルギーにやられそうな、凄い土地だった。そのときに廃校になった学校でスティールパンのコンサートを聴いた。ポァンという音を聴くとあのときの体験を思い出す。

 

・ここでもまた、戦後高度経済成長の影響の話。最近見るもの聞くもの、いろんなことがこの時代に集中している(と個人的な印象)。木材が大量に必要になり、楮を育てて紙原料に加工して売るよりも、木を植えるほうが補償金がもらえて現金収入があった。そうして杉や檜の人工林が増え、楮を栽培する農家は減っていった。若者は集落を出てゆき、継ぐ人も減っていった。

・効率はよくない。でもその工程の中に大事なものがたくさんある。副産物がすごい。余すところもない。現金収入がないと生きていけない構造のほうがおかしいんじゃないかという気がしてくる。土佐和紙の中でも極薄の修復紙を使った作業の様子が繊細で。

 

・記録や保存もまた効率や換金の文脈じゃない。だけど、どうしても大きな力、貨幣、資本主義に巻き込まれていってしまう。それでも、この映画を通じて、「はじめて自分の記録作業は『未来のためにある』と思えるようになりました」と監督。諦めずに続けていくことで、何かにつながっていくだろうか。

 

・人工じゃない山ってどんなだろう、と想像がつかないでいたら、ちゃんと映画の中で見せてくれた。

 

・楮の木は初めて見た。赤い実がつくのもかわいい。映画の中でクローズアップされる枝が刈られまくったあとのボコボコになった切り株も愛おしいし、そこから生えてくる新芽もまた可愛らしい。これを観た12月はちょうど楮の収穫の季節。これを書いている今は楮をへぐる作業の頃。

 

・紙にお世話になって生きている身として、この貴い手仕事の文化を損なわず、循環の中にいながら、どのように自分の創作や生活を幸せに続けていけばよいのか。紙にとどまらない話ではある。「農業は産業であり文化」という言葉を最近別のところで聞いた。「産業であり、文化」。まさにそのことがこの映画に込められていた。効率だけではない、この「美」をなんとか持ち続けていけないだろうか。

 

・高知の人たちが話していると、母の出身地の中国地方の言葉にどことなく似ていて、親しみを感じる。この映画を観て、急ににしんそばが食べたくなった。祖父母との思い出の食べもの。

 

・監督や被写体となった方々の寄稿文およびインタビュー。映画の背景が詳しく書かれている。もっと知りたい人はぜひ入手されたし。

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東北大学名誉教授で森林生態学の清和研二さんの言葉が重い。戦後20年の間に山林の樹木が略奪ともいうべき規模で伐採されたことに触れ、「この、醜悪とも言うべき欲の深さはどこからくるのだろう。数十年で巨木を伐り尽くす欲の深さの起源、これを解明しない限り、地球上で人類が長く生き延びて行くのは無理であろう」と述べる。

ウルグアイ大統領のホセ・ムヒカさんも国連のスピーチで同じことを言っていた。「水不足や環境の悪化が今ある危機の原因ではない。本当の原因は私たちが目指してきた幸せの中身にある」(参考記事

 

▼和紙での修理過程に「かけじく展」での表装の手順を思い出す。実際、映画に登場していた文化財修理技師の繁村周さんは本来は掛け軸の修理がメインとのこと。「『修理』と『修復』は違う」ことがパンフレットで強調されていた。覚えておこう。

hitotobi.hatenadiary.jp

 

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