ひととび〜人と美の表現活動研究室

他者の表現にふれることから、自分の中にある美の感覚にもふれてみる、自分の美を表現してみる。みんなで探究する鑑賞の場づくりを通して考えることなど。

映画『戦場のメリークリスマス』鑑賞記録

2021年8月、映画『戦場のメリークリスマス』を観た記録。

シネマ・チュプキ・タバタにて。

youtu.be

 

公式ウェブサイト

oshima2021.com

 

2023年に大島渚作品が国立映画アーカイブに所蔵されるため、民間劇場での最後の大規模ロードショーになると聞き、また4K修復版の美しい映像と音で見られることも期待して、観に行った。

今回のリバイバル上映は、他にも経緯があったらしい。子で映画監督の大島新さんが答えているインタビュー記事がある。

cinemore.jp

 

もう一つ観たかった理由は、音声ガイドをシネマ・チュプキ・タバタの代表・平塚千穂子さんが担当されているから。

確かスクリプトもガイドの吹き込みも以前(5年以上前に)作ったものを上映で使っていたと聞いた。(確かそうだったと思う。今度確認します)

別件でお会いした時に、「伝説の映画で、コアなファンも多いこの作品に音声ガイドを付けるのは物凄いプレッシャーだったけれども、当時の私として魂を込めたし、特にラストシーンの描写は今観ても納得がある」「当時の私が最も集中してストイックに音声ガイドを作った作品」とおっしゃっていた。これは音声ガイド付きで観ねばなるまい。

 

最初に観たのは2015年で、みんなで映画を観た感想を話す《Film Picnic》という集まりで取り上げた。

その時のレポート。どこにも出していなかったので、こちらに記録として載せておく。

 

[Film Picnic vol.5を開催しました]

おやつを食べながら、映像を観た感想をあーだこーだと言い合う会。
円になって座って食べたり飲んだりしながらわいわいしている感じがピクニックっぽいので、こう名付けました。

今回の「戦場のメリークリスマス」は、音楽こそ有名だけど、実は観たことがなかったという人がわたしを含め多かったのと、今の時代だからこそ戦争を考えたいというのと、戦争という題材は、みんなで観たほうが立体的に捉えることができるんじゃないかと思ってチョイスしました。

見終わったあとは正直ぐったりしてしまった。意味のないことの連続(でも作中では必要だ、正しいと信じられている)が辛かった。登場人物のだれかに感情移入して、その世界を一緒に旅する映画ではなくて。でも一晩時間が経って思い返してみると、ああいう人がギリギリのところで生きていた小さな物語が無数にあったのだろうなと、不思議とあたたかな気持ちになっています。

時代、暴力、組織、生死、友愛、ボーダー...13人の参加者それぞれの受け取り方があって、自分に引き寄せてどっぷりと感じる人もいれば、俯瞰して分析を加えて観る人もいれば、ゆっくりと消化中の人もいて、どの感想にも刺激をもらいました。

一人で観ることでは得られない体験があるから、やっぱりみんなで観るっていいとあらためて。

 

このときの他の方の感想をたぐってみると、「観ているときは暴力的でつらいが、思い返すとはかなくて繊細な印象が残る」と書き残して下さっていた方がいた。

本当にそんな感じだなと、映画を観てから5ヶ月経って思う。

 

で、感想。

今回もやはり「その美学全然わからん……。」とまず思った。

ヨノイの美学も、セリアーズの美学も、全然わからない。

男だけの世界。

わからないのは、私が映画の世界に全く存在しない性別だからなのか?それとも時代が違うからなのか?

今回は特にセリアーズの弟とのエピソードに胸が痛くなった。

繰り返し歌われるRun through the night〜♪  天使のような声が耳に残る。

そういえばこの寄宿制?の学校も男子校だ。

 

デヴィッド・ボウイ坂本龍一トム・コンティ北野武ジョニー大倉内田裕也内藤剛志

キラッキラである。美しい男たちの饗宴である。大島渚は51歳。実績を積み、社会を揺るがせ、国際的にも評価を受け、新たな表現に貪欲だ。

このエネルギーを浴びるだけでももちろん最高の気分にはなれる。

加えてあの音楽。単体でも印象に残るし、うちの子ですら知っている曲。

映画の中で「ああ、ここで入れてくるのか!」と確認したのちには、たまたま入ったカフェで流れているだけで、グワっとあの世界に連れていかれる。

 

思いの外、英語の分量が多い。英語と日本語を行き来するのが心地良い。

 

カメラワークも野心的。ここから撮るのか!ここを撮るのか!というシーン。特にラスト。

 

「その美学わからん」問題は、その後に観たドキュメンタリー映画『三島VS東大全共闘』がヒントになった。

こちらのブログにも感想を書いたが、映画中に出てくる「個人の運命と国家の運命が一蓮托生になるという陶酔感」「天皇と自己を一体化させることに価値あるを見出す」というフレーズをヨノイの行動に重ねるとピタリと符合する。

hitotobi.hatenadiary.jp

 

セリアーズは弟への罪の意識を負っていた。三島由紀夫は死にたがっていた。

セリアーズのヨノイへのキスは、単純にセクシャリティの自覚や揺れというふうにも見えるし、虐めた側、加害者の側への赦しのようでもある。

三島が結成した楯の会。三島が昭和天皇からもらった時計を大事にしていたこと。ヨノイの吸う菊の御紋の恩師たばこ。

セリアーズとヨノイと三島。何か彼らの間には通じるところがある。

……というところで止まっていて、ここから先はあまり進んでいない。映画評論の分野ではとっくに分析されていそう。でも一足飛びにそこに行きたいわけではない。今は「また出会えたら」という程度で留めておく。

 

そういえば、『ドライブ・マイ・カー』の著名人《コメント》で、

映画評論家の森直人さんが「あらゆる意味で『戦メリ』(大島渚)を感じる。筆者はこういう闘い方が大好きだ。」と寄せていた。なるほど。「多声性」「緊張」はわかる。

全文は公式サイトへ。

 

 

原作があったのを知らなかった。絶版になっているが、図書館には所蔵されていた。

『影の獄にて』ヴァン・デル・ポスト L./著 (新思索社, 2006年)

www.hanmoto.com

 

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パンフレットには、大島新さんと坂本美雨さんの対談。それぞれの親の話をしている。

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半分が『戦場のメリークリスマス』で、半分が『愛のコリーダ

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2020年12月著書(共著)を出版しました。
『きみがつくる きみがみつける 社会のトリセツ』(三恵社