ひととび 〜人と美の表現活動研究室

観ることの記録。作品が社会に与える影響、観ることが個人の人生に与える影響について考えています。

映画『水俣曼荼羅』@シアター・イメージフォーラム 鑑賞記録

2021年12月、映画『水俣曼荼羅』を観た記録。

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友達が観ておすすめしていたけれど、長尺だからなぁと腰が引けていた。

でも、映画『MINAMATA -ミナマタ-』を観て、やっぱり『水俣曼荼羅』も観ることにした。わからないこと、知らないことがいっぱいあることを知った。だから知りたい。今知りたくなった。そして機会があるなら乗りたい。そんな気持ちが湧いた。

 

友達が「愛に溢れてる。もう一回観たい」と言っていたのは本当だった。
ほんとうに観てよかった。もう一回観たい。全人類に観てほしい。

 

6時間12分。20分×2回の休憩と予告5分、計45分を足すと、劇場にいる時間は7時間。劇場に7時間もいるなんて、オールナイト以来か?
でも長いと感じなかった。「20年の時間を観に行って、戻ってきたら、現実世界では7時間しか経ってませんでした」みたいな感じ。浦島太郎。
 
ほんとうに疲れなかったし、観終わってむしろ力がわいてくるような、元気になるような、身体が軽くなるような感覚だった。痩せ我慢ではなく。どんなにぐったりするかと思ったのだけど。私がたまたま調子がよかったのかなと思い、先に観ていた友達に聞いたら、「わかる、なんかすっきりした感じ」と言っていた。
 
もちろん中身は全然すっきりしてはない、白黒つかない。不当な扱い、欺瞞、翻弄、分断。闘っているから負の感情もばんばん飛び交う。悲しい出来事、悔しい出来事も起こる、起こり続ける。けれども、それだけではなく笑いもあるし、愛もたっぷりだからか。何より私自身がこれを知れたことの喜びが大きい。
 

水俣曼荼羅』に出てくる省庁、行政、司法の人たちの態度や言動には唖然とした。『ボストン市庁舎』を観ていたからつい、「ボストンなら違うんじゃないか?」と考えてしまった。解決する意思を感じない。自分の言葉を持たない、自らシステムの歯車となる。苦しそうな人も。長年にわたる根深いものがある。

つくづく「人間って......」と思う。
戦後急速に近代化、工業化していく中で、どれだけ切り捨てたものがあったのかと思う。これもあれもそれも、といくらでも浮かぶ。

一度起こると取り返しがつかない。そしていかにいろんな人の人生に影響しているのかと思う。陰で苦しんでいる人々、新たな犠牲を出しながら暴走してきた社会。その延長上に今の自分がいる。何も終わっていないし、繰り返されている。

 
編集、ストーリーテリングが素晴らしいのと、被写体の魅力と、被写体への監督の関わり方が大きいのか。原一男監督のツッコミ具合に笑っちゃうシーンも度々あった。どっと笑いが起きたときは、一緒に観ている人たちとのつながりを感じられてうれしかった。この長尺に挑戦している人との仲間意識というのか。
 
『ボストン市庁舎』のフレデリック・ワイズマン監督が徹底的に自分の気配を消して、淡々と起こることを写していたのと比べると、原一男監督は自分を出して対象にぐいぐい関わっていく撮り方をする。全然違う。ドキュメンタリーもいろいろだ。
 
水俣曼荼羅』にしても『ボストン市庁舎』にしても、当たり前だけど私個人の力では会えない人、入り込めない場所、20年もかけられない取材時間だ。それをこんなにコンパクトにたった7時間でまとめて観られるなんて、「ありがたい」しかない。
 
いろんな人の20年の時間の残酷さも映し出されている。
 

後日、映画を紹介してくれた友達と、集中して感想を語る時間を持った。90分話したけれど、話題は尽きなかった。

これからも折にふれ学んでいきたいと思った。



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情報過多な映像に脳が処理しきれなくて寝てしまいそうな人は、メモを取りながら観るとペン先と紙に思考を逃せるので楽です。

覚えとこう、何が起こっているか捉えようとすると脳は疲れる。暗闇で手元を見ずにメモするのは、最初は難しいけど、いつもやってると慣れて、けっこういいです。おすすめ。


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▼迷っている方は町山さんの解説がおすすめ。

youtu.be

 

lee.hpplus.jp

 

水俣曼荼羅 製作ノート』原一男+疾走プロダクション/著(皓星社, 2021年)
劇場でも販売してます。シナリオ採録、論考、監督インタビュー。充実。

熊本の言葉で聞き取れない部分や、音だけ聞こえて変換できない固有名詞や専門用語、法律や裁判経緯などもメモ取りきれなかったので、ありがたい。必携。

 

▼こちらのインタビューは『製作ノート』にも掲載されている。

www.1101.com

 

▼2022年3月に判決。まだ終わっていない。

www.asahi.com

 

環境省 国立水俣病総合研究センター
http://nimd.env.go.jp/index.html

水俣市水俣病資料館
https://minamata195651.jp/

朝日小学生新聞:今も傷あと残す水俣病(2016年5月1日)
https://www.asagaku.com/shougaku/topnews/6422.html

 

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2020年12月著書(共著)を出版しました。
『きみがつくる きみがみつける 社会のトリセツ』(三恵社