ひととび〜人と美の表現活動研究室

観ることの記録。作品が社会に与える影響、観ることが個人の人生に与える影響について考えています。

〈レポート〉1/26 『まちの本屋』でゆるっと話そう w/ シネマ・チュプキ・タバタ

2022年1月26日、シネマ・チュプキ・タバタさんと、映画感想シェアの会〈ゆるっと話そう〉を開催しました。(ゆるっと話そうとは:こちら

第27回 ゆるっと話そう: 『まちの本屋

兵庫県尼崎市の商店街にあるまちの本屋、小林書店。店主の小林由美子さんとパートナーの昌弘さんの仕事ぶりやお客さんとの交流、個人商店を取り巻く現状などを撮っていく半年間のドキュメンタリーです。
 
▼ オフィシャルサイト

www.machinohonya.info


▼ イベント告知ページ

chupki.jpn.org

 

音楽もナレーションもなく、予定調和な部分もなく、とてもオープンな作品。ゆるっと話そうでも、いつも以上にいろんな見方がありえると感じました。

映画の中で起こっていることのみならず、自分の人生のエピソードを語り出したくなるところがある。それらを少しずつ持ち寄るような場になるのではと想像し、楽しみに当日を迎えました。

 

 

▼当日の参加者

本が好きな方、出版関係のお仕事の方、一箱古本市を主催したり出店している方、地元のお店とのつながりを大切にする方などがご参加くださいました。今回チュプキさんの上映で初めて知って観たという方ばかりで、ゆるっと話そうに初参加の方ばかり。うれしいです。視覚障害者の方もご参加くださいました。

 

▼進め方

この映画の舞台が尼崎であることから、雰囲気を出すため、私は関西弁で進行してみました。皆さんにとってよい効果となっていたのかちょっとわかりませんが......。(普段は東京の言葉を話しているので、自分としてはかなりキャラが変わるような気がして新鮮でした)

常時メインルームで「輪になって」話しました。一人の発言をきっかけに、それに付け加えてもらったり、深堀りしたり、また別の話題を振りながら進めていきました。少人数のため、一回の発言を落ち着いて話していただけたように思います。

前提の共有としては、

・話し方のルール
・感想として扱っている範囲の説明
・地図上の小林書店の場所
・登場人物とその方の映画の中のエピソード

をおさらいしてから感想の共有に入っていきました。

 


f:id:hitotobi:20220131151150j:image


 

▼出た話題を一部ご紹介

※映画の内容に触れていますので、未見の方はご注意ください。

仕事に対する姿勢

・仕事に対する姿勢に我が身を省みる。「商品のことを知らないでは売れない」中途半端にやっていたら恥ずかしくなるなと思った。働くこと、売ること、人と接すること、一つひとつ胸に突きつけられる。
・「他で買って美味しいとかないから、せめて発売日に届けて鮮度を大事に」今自分にできることをやっているところがすごい。
・由美子さんから、昌弘さんから大切なことを渡されているように感じた。
・自分の営業職時代を思い出した。商売の鉄則がここにある。スーパーセールスマン。70年続けてこられた理由がわかる。
・「本と傘どっちも楽しい」という言葉が印象的。
・「扱うからには片手間じゃなくて」という言葉通り。「傘こばやし」という張り紙の署名。傘屋さんでもあることがわかる。

 

ご夫婦の人柄

・愛情深い。お客さんにも、物にも、妻や夫にも、画面から愛情が溢れてくる。
・お互いの関係性が素敵。昌弘さんの由美子さんに対する言葉遣いが丁寧というくだりで、理由が「大事な人やから」と自然に出てくるところなど。
・会いに行きたくなる。
・こんな書店が近くにあったらぜったい入り浸るのに。
・本屋さんだけど、お客さんからも教えてもらう。「めっちゃ売れてるんやで」「そうなんや〜」と、良い意味で変なプライドがない。
・昌弘さんが脳梗塞になったときのエピソードには大泣きしてしまった。身内に脳梗塞になった人がいるのもあって。

 

ビブリオバトル

全盲になってから書店に行かなくなった。読書自体はしている。「音声で聴く」というやり方で読んでいて、実は読書量は見えていた頃より倍以上になった。(※点字で読んでいるのは視覚障害者の10%未満なのだそうです)映画を観ていて、もしかしたらビブリオバトルに参加することでもう一度書店に行けるかも、自分も他の読者や書店に貢献できるかもと思えた。

ビブリオバトルの名前は知っていたが、映画の中で行われていることで「こういうふうにやるんだ!」と出会わせてもらえた。

・実は「バトル」の部分にモヤモヤがあり、参加したことがなかった。映画の中で体験できて、「これはめっちゃおもしろい!!」と気づいた。場が活性化して本も動く効果のあるエンタメ。自分の心の中の壁がとっぱらわれた。

 

流通・出版業界

・本の流通の仕組みを初めて知った。本だけ売っていても商売にならない厳しさ。
・本は定価販売の取り決めがあり、高く売るのも、値下げもできない。どう価値をつけて売るのか。小さな書店が生き残るための様々な工夫の数々に驚かされる。
・本屋さんの取り分が少なすぎるという業界の課題が、ポテンシャルを妨げている。
・本屋さんがまちから消えていく理由がわかった。
・小林書店には本屋が生き残っていくためのヒントがたくさんつまっている気がする。

 

映画からの発見

・リアルな書店の現場の話を、中の人が話しているのをはじめて聞いた。
・書店のコミュニティとしての機能に気づかされる。
・撮影期間が10日間と聞いて驚いた。濃い。もしかしたら誰の日常でもじっくり観察するとおもしろいのかも。
・ナレーションがないので、居合わせる感じ。
・最初のほうで自転車に乗って後を追いかけるシーンは、乗っている自転車のカゴが映り込んでいるのがよかった。

 

ふりかえり

・同じ映画を観ても、自分事にしていくものはそれぞれなんだなと思った。たとえば自分の場合は地元密着で生活したり働いたりしていて、顔の見えるところで買い物するようにしている。この映画を観た人それぞれが、自分の中で火がついて動いていきそう。

・映画や本を一人で鑑賞して味わう中で、意識の変化が起こることがある。みなさんとそれぞれの関心を共有すること、言葉にすることでもまたひらかれ、変わっていくことがあった。

・いつもチュプキさんで音声ガイドで映画を観ているが、理解できていないかもしれない、間違った解釈をしているかもしれないと不安がある。レビューサイトをあとから読んで確認したりして「穴埋め」をしている。この〈ゆるっと話そう〉でいろんな見方や感じ方をシェアすることもまたその「穴埋め」の一つの方法になる。また参加したい。

・こういうきちっと設定された場所で感想を話すのもいい。「話す」という前提があるから、何を観たのかメモに書き出してみた。まずは自分で映画をふりかえる時間が生まれるのがよかった。

 

 

▼ファシリテーターのふりかえり

話題が途切れず、感想をシェアすればするほど、映画の尽きせぬ魅力を感じました。話すことで思い込みが解かれていくような瞬間も多々ありました。映画がとてもオープンな態度や手法で撮られているだから、感想もオープンに出せたと思います。

個人的には、「視覚障害者の方にとっての書店」について考えたことがなかったので、足が向かなくなったと聞いて初めて「確かに.....」と気づきました。さらに「音声図書ではたくさん読んでいるから、ビブリオバトルがあれば本を紹介することができる。本を紹介すればお客さんが買うかもしれない。そうすれば書店の売上に貢献できるのでは」との思いに胸が熱くなりました。「本屋さん」への愛を感じます。

たまたまこの3日前に仕事で神戸に行くことがあり、小林書店さんに立ち寄ったので、そのときのエピソードなどもシェアさせていただきました。ドキュメンタリーは現実も続いているところがいいですね。

この世界の片隅に実在する、小さな本屋の営みを皆さんで思いあえたのがうれしかったですし、またそれを"まちの小さな映画館" シネマ・チュプキ・タバタさんと重ね合わせながら、味わえたのもよかったです。

 

ご参加くださった皆様、ご関心をお寄せくださった皆様、チュプキさん、ありがとうございました。

 

次回の〈ゆるっと話そう〉は3月の予定です。詳細が決まり次第、お知らせします。

 

 

大小田監督と。

f:id:hitotobi:20220131150647j:image

 

映画とチュプキさんのご縁についての記事。

www.asahi.com


舞台挨拶の様子(それぞれスレッドを展開すると続きのツイートがあります)

 

 

ゆるっと話そうの3日前(1/26)の立花商店街と小林書店。

f:id:hitotobi:20220131150408j:image


f:id:hitotobi:20220131150419j:image

 

4月1日でちょうど70周年なのだそうです。


f:id:hitotobi:20220131150445j:image

f:id:hitotobi:20220131150332j:plain

 

 

▼参考資料

『仕事で大切なことはすべて尼崎の小さな本屋で学んだ』川上徹也/著(ポプラ社, 2020年)

https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/8008321.html

小林書店と店主の小林由美子さんをモデルにした「ノンフィクション&ノベル」。

主人公は大学を卒業し、取次会社に就職したばかりの理香。大阪に転勤を命じられ、さまざまな壁にぶつかり戸惑い悩むうち、小林書店の由美子さんとの出会いをきっかけに様々なヒントをもらい、仕事人として少しずつ成長していく。映画では語られなかった小林書店のエピソードもコラムのような形で入ってきます。

f:id:hitotobi:20220131143543j:image

 

『よくわかる出版流通のしくみ 2021-22年版』株式会社メディアパル

https://www.tohan.jp/news/20210315_1705.html

取次のトーハンのグループ会社が刊行した出版流通のしくみを解説した本。

出版社・販売会社・書店の仕事内容、新刊・注文・返品など出版流通の基本的なしくみを、イラストや図表を用いて解説しています。新版では、BooksPROや出版物流の課題など、業界の最新動向も紹介しています。(公式サイトより)

f:id:hitotobi:20220131143411j:image


 

_________________________________🖋

鑑賞対話イベントをひらいて、作品、施設、コミュニティのファンや仲間をふやしませんか?ファシリテーターのお仕事依頼,場づくり相談を承っております。

 

2020年12月著書(共著)を出版しました。
『きみがつくる きみがみつける 社会のトリセツ』(三恵社