ひととび 〜人と美の表現活動研究室

観ることの記録。作品が社会に与える影響、観ることが個人の人生に与える影響について考えています。

NTLive『ロミオとジュリエット』鑑賞記録

NTLiveの『ロミオとジュリエット』を観てきた記録。

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久しぶりのNTLiveの新作ということで、喜び勇んで行ってきた。

……が、始まってすぐに違和感。

解説(ナビゲート)もなし、インタビューもなし。

あらら? これは映画だったの?そうか、演劇っぽい映画ってことだったんだな!

しかもずっと手持ちカメラで......酔う。感情の揺れやトランス状態、夢心地とか、いろんなものを表現しているのだろうが、酔うわ、辛いわ。薄目で見てたら途中から落ち着いてきたので、そこからは没入でたけれど。

「無観客」という言葉のみ頭に残っていて、無観客公演の収録なのかと思っていたけれど、「無観客の劇場を使って撮影をした」ということだった。

やはり概要は抑えていかんとなぁと反省。

 

▼これを見てから行けばよかった。「コロナ禍で何ができるか」というクリエイターたちの挑戦だったんだね。

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いつものNTの「お芝居」が観たかったんだけど、これはこれでよかった。

とにかくスピード感がすごかった。いろんなものがカットされているのだけど、考える暇もなく過ぎていく。

フラッシュバック、フラッシュフォワード、クローズアップ。映像ならではの表現で、一瞬で感知させる。

 

ロミオとジュリエット』は、演劇もオペラもバレエも3時間超の舞台。5幕あるから。でもこれは1時間40分にぎゅっと濃縮。ゆえに全力疾走。しかも揺れる画面で自分も「ナウシカの肩にのったキツネリス」になった気分。

ロミオのあかんたれ(若い頃のクリスチャン・スレイターみたい)、ティボルトの殺気立ったドーベルマンなキャラなどもよかった。

なにより、『ロミオとジュリエット』で言ってる恋って、ロマンティックなときめきとかじゃないんちゃう?と思ってたので、この肉慾的な演出にけっこう納得があった。

まぁ、ひと目で恋に落ちて禁忌破って結婚とかするぐらいだから、このぐらいのバワー必要でしょう! その感じがよく出ていたと思う。

 

私が思うに今回の翻案の肝は、母娘の関係でないか。

キャピレット夫人はジュリエットを娘としては大事にしているけど、ジュリエットとしては愛していない。それはかつて自分があまりにも早く嫁がされ、子を産まされたことの仕返しなのかもしれない。 あと、「一人でも大変だった」みたいなこと言ってるから、もしかしてジュリエットの産後、不妊になったとか、そういう事情があるのか?と邪推したくなるぐらいにジュリエットを憎んでいる。愛さないどころか。

また、「共同体からの追放」もテーマではないか。ジュリエットの母に見捨てられることと、ロミオの共同体からの追放は、どちらも死と同義で、それゆえに二人の追い詰められ感は凄まじいものがある。 あれ、もしかして当時の人たちの心境ってこんな感じだったのかも? いや、現代でもこの構図はあるか。

そういえば、「母親から娘への精神的虐待」と「父親の不在」は年末に観たパリオペラ座の『シンデレラ』でも描かれていた。時代をうつしている、今の傾向なのかな。
 
またこのキャピレット夫人がよくて。『十二夜』の執事役の
パリス伯爵と関係しているのか、狙ってるのか、共謀してるのか、二人の間に何かありそうな感じで、それは語られないけれど、伏線がたくさん描き方も今っぽい。サイドストーリーがたくさん生まれていそうな。いやでも、現実とか人生ってこうだよね。
 
ベンヴォーリオとマキューシオは、ロミオと合わせて「三馬鹿トリオ」(表現が古いか)ぐらいに思っていたので、一人ひとりキャラが立ってるのが意外だった。
ベンヴォーリオとマキューシオの関係なども一瞬だけど新しい感じだし、いまわ際のひと言なども、すんごく「今っぽい」。
 
「ロレンス神父のだめさ」も今まであんまり考えたことなかったけれど、仕事の進め方がどうなんだ!とツッコミを入れてしまった。
「私が追放されたロミオへの使者にベンヴォーリオを使う」とロミオと約束をしておきながら、当のベンヴォーリオにはそれを共有してなくて、さらに最新のジュリエットとの約束では 「私がロミオを迎えに行く」としちゃったので、ベンヴォーリオ使者案を自分で忘れちゃってる。 それを共謀者(対ロミオ、対ジュリエット)としか共有できてないので、ズレた。
時間がないとはいえ、チームで共有できてたらまた違ったかなぁ。とはいえ、乳母も適当というか、何か腹に一物ありそうな人で、人材がいない感じで……うーん、いろいろと悲劇!
 
なんかこのズレって、コロナ下で人が直接会えなくなって、コミュニケーション手段が変わって、関係も変質していった今を象徴しているようでもあり、そう考えると深い。
 
パンフレットに「30代前半の俳優たちが演じている」ことの効果について書いてあって、「ジュリエットがリードしている」とか、無鉄砲な若者たちが突っ走る感じとはちょっと違うというようなことが対談で書かれていて、おもしろかった。(関係ないけどパンフレットだいぶ値上がりしてますね……)
 
いろいろ、いろいろ感想は尽きないけれども、やっぱり、古典って盤石だな〜
時代が変わっても、どれだけ演出のアレンジを加えられても、びくともしない。もちろん作る人が敬意を払って、ギリギリのところを攻めているから、作品として成り立っている部分もあるけれど。
これからもどんなロミオとジュリエットが観られるんだろう。楽しみ。
 

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▼北川紗衣さんのレビュー。

「欲を言えばもう少しカメラを揺らさない撮影が好ましいと思われる場面もあり、また音楽を抑え気味にしたほうが良さそうなところもあるが、全体的にはとても見応えのある作品だ。」 

そうそう!ほんとうにそんな感じでした!

www.cinemacafe.net

 

 

レオナルド・ディカプリオがロミオ役、クレア・デーンズがジュリエット役の1996年の映画『ロミオ+ジュリエット』を彷彿とさせる映像世界。こちらの記事中にもあるけれど、かなりアクションが多いところが似ている。

www.harpersbazaar.com

 

 

▼これ最高!『ロミオとジュリエット子どもたちからの質問編』
たとえば最初の質問は「ロミオはちょっとストーカーの域に入っていませんか?」
愛ある回答がいっぱい。

youtu.be

 

原作も松岡和子さんの訳で読んでみたい。

 

前にバレエで観たときも思ったけど、若い人たちが因習や社会システムの犠牲になるのってほんとうにやりきれない。

hitotobi.hatenadiary.jp

 

十二夜』もついでに。

hitotobi.hatenadiary.jp

 

▼古典の盤石さといえば、やはりこれかな。スピルバーグの『ウエスト・サイド・ストーリー』観る予定。

www.20thcenturystudios.jp

 

 

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2020年12月著書(共著)を出版しました。
『きみがつくる きみがみつける 社会のトリセツ』(三恵社