ひととび〜人と美の表現活動研究室

他者の表現にふれることから、自分の中にある美の感覚にもふれてみる、自分の美を表現してみる。みんなで探究する鑑賞の場づくりを通して考えることなど。

《レポート》鑑賞対話ファシリテーションのレクチャー&サポート @金沢21世紀美術館

2021年11月、金沢21世紀美術館より招聘いただき、映画祭「まるびぃ シネマ・パラダイス!」にて、鑑賞対話ファシリテーションのレクチャー&サポートを務めました。

●11月27日(土) 「映画を観て語り合う時間のススメ」レクチャー
シネマ・チュプキ・タバタで開催している鑑賞対話の場〈ゆるっと話そう〉の実践経験を来場者の皆様にシェアし、その場で鑑賞対話を体験していただきました。

●11月28日(日) 「ゆるっと話そう in まるびぃ」サポート
運営メンバーが実施する鑑賞対話の場をサポートしました(事前および当日)。

www.kanazawa21.jp

 

以下は詳細レポートです。

 

まるびぃ シネマ・パラダイス!とは

まるびぃとは、その建築の形状「まるいびじゅつかん」からとられた、金沢21世紀美術館の愛称です。

「まるびぃ シネマ・パラダイス!」(通称:まるシネ)は、地元金沢の大学生を中心とする10代後半から20代半ばの、いわゆる「デジタル世代」が、映画史に残る邦画の名作フィルムを上映し、金沢を映画で盛り上げる企画を運営する、美術館の教育普及事業です。年に1度、上映会を開催し、2021年で8回目を迎えました。

自分たちで考えて、一つの場をつくり上げていく実践経験を通じて何かを学ぶ機会を、美術館や市民のサポーター、地元の映画館が応援する。美術館を起点に地域の様々な資源が育まれる場にもなっています。

上映する作品は、毎年、国立映画アーカイブの優秀映画鑑賞推進事業のラインナップから選定されています。

関連企画も開催しており、2020年はシネマ・チュプキ・タバタの代表・平塚千穂子さんがトークゲストとして登壇されました。

まるびぃ シネマ・パラダイス! vol.7(2020年度)
https://www.kanazawa21.jp/data_list.php?g=25&d=1936
みんなとシアター21目の見えない人と映画鑑賞(準備編)
https://kanazawa21-museum.note.jp/n/n8cde0855485e
みんなとシアター21目の見えない人と映画鑑賞(実践編)
https://kanazawa21-museum.note.jp/n/n3516bd782132

過去のまるシネ一覧(金沢21世紀美術館ページ)
https://bit.ly/3BnyFz0

 

 

2021年度 vol.8 「まるびぃ シネマ・パラダイス!」

今回のまるシネの運営メンバー13人が選出したのは、Tプログラム:「日本映画の量産時代に登場した監督たちが、喜劇映画のなかで新たな挑戦を試みた4つの秀作」
https://www.nfaj.go.jp/coo.../yusyueiga/yusyueiga2021_place/
『おかしな奴』(1963年)
『喜劇 急行列車』(1967年)
吹けば飛ぶよな男だが』(1968年)
『あゝ軍歌』(1970年)
これらに映画祭タイトル「毒笑い〜ヒ劇とキ劇は紙一重〜」を冠して実施されました。
上記作品は「喜劇」として世に出ているけれど、単に滑稽、愉悦、笑いだけではなく、風刺や批判、悲しみや毒も描いているのではないか。
チャールズ・チャップリンの名言「人生は近くで見れば悲劇だが、遠くから見れば喜劇だ」にもあるように、悲劇と喜劇は紙一重ではないか。
そのような問いかけを試みる回でした。
 

 

ご依頼経緯と内容

今回の舟之川にお声がけいただいたのは、前年にシネマ・チュプキ・タバタ代表の平塚さんがゲスト登壇されたこと、私がシネマ・チュプキ・タバタで毎月〈ゆるっと話そう〉を主宰していること、担当の方が〈ゆるっと話そう〉に個人的に参加してくださっていたことがつながり、実現しました。
「運営メンバーが、映画祭において、鑑賞対話の場(感想交換会)の進行役を務める」のは、まるシネとしても初めての取り組みになるので、何か参考になるものはないかと探しておられたところでした。
新型コロナウィルス感染症の拡大で、人と会いづらい時期が続いたからこそ、リアルな場をひらく意味がある。リアルな場の特性を活かして、できることを模索していたところで、出てきたアイディアが「感想を話し合う」ことだったそうです。
ご相談の中で、当初のご依頼の「運営メンバーの準備のサポートをすること」に加え、当日のメンバーの進行の様子を見守り、アドバイスをすること。さらに、舟之川自身もトークゲストとして、来場者向けに〈ゆるっと話そう〉の実践経験をシェアし、さらに実演もしてもらえたらとのことで、セットでお受けしました。
当日までのやり取りはメールとオンライン会議システムZoomで行い、細かい内容は現地に行ってから詰めていきました。
 
 

事前ワークショップ

ほとんどのメンバーが、イベントの主催や運営側になるのがはじめてで、ファシリテーションの経験も少ないかほとんどないとのこと。

まずは初対面の人と映画の感想を話す「場」の具体的なイメージをつけるため、1ヶ月前に〈ゆるっと話そう〉を体験してもらいました。

上映予定作品4本のうち、メンバー間で意見が割れた作品で、イベント当日も来場者の感想も聞いてみたいと、吹けば飛ぶよな男だが』が選ばれました。
事前ワークショップのために、見守りチーム(美術館スタッフ、インターン&運営リーダー)の皆さんとの〈ゆるっと話そう〉もひらき、進め方を検討しました。
 
事前ワークショップは90分。
・メンバーの中から2人募集し、20分ずつ「感想を話す場」のファシリテーターを体験する→
・参加者から話してみた体験、ファシリテーターをやってみた経験をシェアする→
・舟之川への質問や相談を受ける
という流れで進めました。
・オープンに「どうでした?」と問いかけ、そこから広げていくこともできるし、具体的な質問「私はこういう感想を持ったのですが、他の人はそれについてどう思いましたか?」と問いかけて始めることもできる。
・上手くできなくてもよい。自分のキャラクターを生かして、参加者と関係をつくることはできる。
・日常のゆるやかな雑談ではなく、感想を話すことを目的に集まる場ではどういうことが起こりそうか。今回の作品ではどういう感想が出そうか。
などをつかんでもらえたようです。
ファシリテーションは実践とふりかえり、場数が大切なので、当日までに機会があれば、3人ぐらい集まって感想を話す場を設けて練習をしてみてもよいのでは、とも伝えました。
今回の作品『吹けば飛ぶよな男だが』は、1960年代当時の社会背景、文化風習、風俗が映し出されているので、今見ると差別や偏見、行き過ぎた表現と見えるものもあります。こういった作品は、今の自分の感覚で観る主観と、リアルタイムでどのように観られていたのかの客観との行き来がポイントになります。
はじめて鑑賞対話の場を作る人が取り扱うにはチャレンジですが、準備が丁寧にできれば、世代を超えて価値観や人生観を交換するよいきっかけになります。みなさんの好奇心や意欲、「意見が分かれること自体が新鮮だった」という感覚に期待しました。

 

 

1日目:レクチャー「映画を観て語り合う時間のススメ」

1日目は、企画担当メンバー3人と相談しながら、『喜劇 急行列車』上映終了に以下のように進めました。
① 舟之川からレクチャー
 ファシリテーションとは、鑑賞対話ファシリテーターとは、鑑賞対話の良いところ・得られるもの、〈ゆるっと話そう〉の進め方など
② まるシネメンバーから舟之川へ質疑応答
 活動のきっかけ、準備の内容、参加者はどんな人、仕事が役に立った経験、感想を話すにあたっての心理的ハードルなど
③ 会場から舟之川へ質疑応答
④ 体験『喜劇 急行列車』でゆるっと話そう
を90分で行いました。
④の感想交換の時間は、まるシネメンバー2名と壇上でデモ的に感想を話し合う様子をお客さんに7, 8分見てもらい、その後、輪を広げるようにして、お客さんにも〈ゆるっと話そう〉の参加者になってもらいました。挙手制でその場で着席したままでお話しいただき、メンバーがマイクを渡しに回りました。
来場者は、まるシネメンバーと同年代の人から、この作品をリアルタイムで観ていた人まで年代は幅広い層でした。
一人が話し始めると、途切れることなく感想が出てきて、驚きの声が漏れたり、笑い声に包まれたりと、発言が重なるにつれて、場は次第に熱を帯びていきました。年代関係なく個人の感性に注目したり、お互いに質問し合う場面も見られました。
とにかくこの日は「感想の交換って楽しいんだ!」を体験していただくことを目指したので、実感していただけたのではないかと思います。
最後に、「明日まるシネメンバーが〈ゆるっと話そう〉にチャレンジするのでぜひ来てください」とお知らせしました。
 

f:id:hitotobi:20220219081531j:plain画像提供:金沢21世紀美術館

 
 
2日目:『吹けば飛ぶよな男だが』でゆるっと話そう

2日目はいよいよ運営メンバーの進行での〈ゆるっと話そう〉です。

担当メンバーと打ち合わせを重ね、

・40分の時間配分
・冒頭に共有すること(名乗り、場の目指すもの)
・オープンに聞くか、問いを立てるか
・想定されるトピックの頭出し
・雰囲気づくりのコツ
・会話につまったときのテクニック

などについて話し合いました。

ファシリテーションはいろんな要素がありますが、現場で意識することとしてシンプルに挙げるなら、

・みんなができるだけまんべんなく話せているか、
・いろんな話題を扱えているか
の2つだと伝えました。

メイン・ファシリテーターとサブ・ファシリテーターの2人で、お互いが補完しあいながら進めてもらいました。

当日は、『吹けば飛ぶよな男だが』上映終了後、シアター内の舞台部分にサークル状に椅子を配置しました。お客さんも入り、10人ほどの場になりました。

終始和やかな雰囲気で、その場に集った人だからこそ出てきた話題で、楽しく対話が進んでいました。喜劇か悲劇か、お笑いかグロテスクか、理解できることとできないこと、時代が象徴するものなど。

やや緊張のあるメイン・ファシリを、サブ・ファシリがサポートするように動きながら、時間通りに終了しました。

私は客席で見守っていて、あらためてファシリテーションというのは、技術と経験の積み重ねなのだなと気づきました。盛り上がってくると、特定の話者とのやり取りに集中してしまって場の全体感をつくることが抜けたり、自分の感想が整理されていないと、参加者の話を聴くべきところで自分の感想を多く話してしまったりする部分もありましたので、メンバーにフィードバックしました。

しかしそれよりもなによりも、その場でその場で自分を全部使い続けている姿や、そもそも初めての難しいことにチャレンジしている姿がすばらしいと思いましたし、これからも機会があれば、ぜひ手を挙げて経験を積んでいってほしいと伝えました。

f:id:hitotobi:20220219081638j:plain画像提供:金沢21世紀美術館

 

 

ふりかえり

まるシネの場のエネルギーや集う人たちの存在に触れ、大変刺激を受けました。
20歳前後の人たちが、大学でも職場でもない場所で初めて出会う人たちと、ボランタリーのプロジェクトで、場づくりにチャレンジする。アイディアを出したり、やりたいことを宣言する皆さんの顔は、とても輝いていました。
また、金沢21世紀美術館は、コミュニケーションを目的とした場なのだとあらためて認識しました。

誰かと語りながら観る、語りながら創り出す場所。
何かと何か、誰かと誰か、何かと誰かが出会う場所。
いろんな単位でいろんなスケールで。

そのような場所で、8年続いてきた事業「まるびぃ・シネマパラダイス!」の「映画で多世代をつなぐ」試みに、〈ゆるっと話そう〉で参画できたことは私にとって大変貴重でした。

自分を少しひらいて感想を語るって楽しい、知らない人とでもこんなに楽しめるんだ、こんな仕事をしている人もいるんだ、仕事ってつくれるんだ、など知る機会になっていたらうれしいです。

運営メンバーの皆さん、ご来場の皆さん、美術館スタッフの皆さん、サポーターさん、そしてつないでくださったシネマ・チュプキ・タバタの平塚さんにもありがとうございました。

来年度以降も、若者の挑戦の場として、さまざまな出会いの場として、映画文化を継ぐ場として、ますますの発展をお祈りしています。

 

 

 

▼当日開場中、来場者を迎えているところ。限られたスペースで、どう動線を作るのかなど、メンバーはオペレーションをギリギリまでブラッシュアップしていました。

f:id:hitotobi:20220219081738j:plain画像提供:金沢21世紀美術館

 

▼映写室担当メンバー。セッティングの手つきも慣れたもの。自分が20代前半に映画館の映写室で働いていた時代が重なります。思えば貴重な経験でした。今の皆さんにとっても貴重でしょうし、この先きっともっと貴重に感じる日がくるでしょうね。

f:id:hitotobi:20220219083211j:plain画像提供:金沢21世紀美術館

 

▼会場のシアター21。可動式で156席。フィルムの映写機も備えています。

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▼映画作品もすべて観せてもらったのですが、これまで観たことがなかったジャンルの日本映画に、この時代、この日本を再発見しました。特に『おかしな奴』は素晴らしかった。終わってからすぐには立ち上がれないほどでした。鑑賞記録はこちらの記事

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▼記念にいただいたバッヂと特製クッキー。この毒々しさがたまりません。

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▼空き時間に「フェミニズムズ」展、「ぎこちない会話への対応策—第三波フェミニズムの視点で」展も鑑賞。翌月の「金沢未来展望ラジオ」にも参加。
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▼夜の金沢21世紀美術館。なかなか見られない景色。

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▼夜+雨。特別の叙情。

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▼めまぐるしく変わる天候。一日の中で晴天、曇天、雨天を何度も繰り返す。北陸の初冬の洗礼を受けました。

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▼紅葉も眩しく。市中は雪吊りの準備も整ってきて、冬の到来を感じさせました。

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▼天候で来館者が変動することがありそう。1日目は夕方から雨、2日目は朝からずっとお天気でした。

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2020年12月著書(共著)を出版しました。
『きみがつくる きみがみつける 社会のトリセツ』(三恵社