ひととび〜人と美の表現活動研究室

観ることの記録。作品が社会に与える影響、観ることが個人の人生に与える影響について考えています。

展示『描くひと 谷口ジロー』@世田谷文学館 鑑賞記録

世田谷文学館谷口ジロー展を観た記録。

www.setabun.or.jp

 

私にとっては、はじめましての谷口ジロー。一作も読んだことがなかった。
ここ数年、鷗外、漱石、一葉のことを調べていて、私はなぜ辿り着いてなかったんでしょうか。

代表作の一つに、関川夏央さんとのコンビで描かれた〈『坊ちゃん』の時代〉シリーズは、図書館でも書店でも幾度となく目にしてきたのに、なぜか本格的に出会うこともなく、今まで来てしまった。

ゆえに今回の企画展は是が非でも足を運ばねばと思っていた。

 

来てみたら、いやはや、想像以上にすごい描き手だった!

谷口さんの作品はとにかく密度がすごくて、原稿を10倍に拡大してやっと普通に見られる。細かく描き込んでいるのもあるし、スケールが大きいのもあるし。うまく言えないけれども、「圧縮されてる」という感じがする。

展覧会の紹介

緻密な作画、構成によって描き出されるその作品は、谷口ならではの世界、時空間に読者を惹きこむ力に満ち、深い読後感を残すことでも知られています。

……納得。

 

鑑賞メモ

・1947年生まれ、2017年2月11日に69歳で死去。

・会場入り口で、「私はなんでも漫画にしたいと思っています」という谷口さんの言葉が紹介されている。見終わって「理解しました」となる展示内容。好奇心、尽きないエネルギー、挑戦。

・漫画の原画はやはり良い。少しでも関心のある作家の原画展はやはり来ようと思う。

・「栄光と暗黒が共にある明治。現代の原点である明治」by 関川夏央

・動的、質的、独自の時間の流れがある

・恥の感覚

・どれだけ、どのような取材をしているのか。この人自身の人生経験は。どうすればここまで深く入り込めるのか、作り出せるのか。

・脚本があることでのびのびと作れるタイプの作家。監督、撮影、キャスティングに専念できる。「なんでも漫画にしたい」からこそ人と組む。組める人でもある。

・友達が愛猫を亡くしたところだったので、『犬を飼う』や『そして…猫を飼う』のところでは共感して思わず涙がこぼれた。

・読者の対象が男性に限定されている感じはする。自分は含まれていないというか、あまり想定されていない感覚。だから今まで通ってこなかったのかもしれない。

 

 
 
 
 
 
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コレクション展もよかった。

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特にじっくり見たのは、やはり森鷗外のコーナー。

森茉莉小堀杏奴。「パッパ」が亡くなった前後のことを杏奴が、海外にいる茉莉に手紙で知らせている。この文面が涙を誘う。

手紙を提供された小堀鷗一郎さんは杏奴の息子さんで、ドキュメンタリー映画『人生をしまう時』の被写体になっていた方だ。こうして作品と作品、作品と現実世界がつながってゆく。

ムットーニの作品が動いているのを初めて見たのもうれしかった。

《漂流者》《月世界探検記》の2点。

美しかった。

あの箱を10人ぐらいの人たちと息を詰めて見ている時間もよかった。間違いのない平和という感じ。


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特装本を購入。とてもしっかり作ってあっていいお値段するので、一冊だけ。やはり「舞姫」のところが気になって第二部を。このサイズで読むのが一番適切な気がするのだ。

読んでみてもやはりそう思った。このサイズが谷口さんの世界を堪能するには必要だ。

最近どこかで「高校の国語の教科書から『舞姫』を除外したほうがいい、あんな酷い作品を載せておくなんて」という投稿を見かけて、とても残念に思った。確かに現代の感覚で読んでいたらあれはただの酷い男の酷い仕打ちに見える。

でもあの作品は、当時の時代背景を提示しながら読んでいく必要があるのだ。関谷さんと谷口さんが試みたように。

明治という時代を通して今の自分たちは何者なのかを知ろうとする態度が必要で、そこに『舞姫』を位置付けることで見えてくるのは、文豪・森鷗外と呼ばれた一人の男、森林太郎の苦悩、、イエと個人、国家と愛、日本と西欧とのはざまに立つ人間の苦悩であり、それは普遍の性質を持つのだと。

教科書からはもう除外されているかもしれないけれども、このことは個人的にも何度でも言っていきたいとあらためて思う。


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共著書『きみがつくる きみがみつける 社会のトリセツ』(三恵社, 2020年